第七話:鳩宮第三小隊、飛ぶ!

「みんな、今回の作戦に参加してくれてまずは礼を言う」


 不忍池弁天堂でのやりとりから数時間後。

 夜明け前の東京スカイツリー天望回廊は、鳩たちで埋め尽くされていた。


「今日集まってくれたの中には、やはり人間への憎しみを持ち続けている奴もいるだろう。確かに人間はわしたちを扱き使い、捨てた。その悔しさはわしも忘れてはおらん」


 鳩たちを前にして、鳩宮さんは声を張り上げて演説を続ける。

 あれから地獄のように熱いシャワーを浴び、俺のアフロの中で十分な休息を取った鳩宮さんは以前と同じくらい、いやそれどころか羽の艶、羽並ともに最高に仕上げた姿で、みんなの前に立っていた。


「だが、わしたちは何だ? そうだ、鳩だ! その翼で空を自由に飛ぶ、大空の支配者だ!」


 鳩宮さんの言葉に、鳩たちから「おおっ」と感嘆の声が漏れる。


「その支配者たるわしらが、ここ数日、天空を舞う翼を奪われている。奪っているのは誰だ? そうだ、忌まわしき台風だ!」


 あちらこちらから「そうだ! そうだ!」のシュプレヒコールが巻き起こる。


「同志たちよ、今こそ空を取り戻せ! わしらの翼にはその力がある! これは人間の為の戦いではない! わしら偉大なる鳩が青空を奪還する為の戦いである! 空は未来永劫、常にわしらのものである! 諸君、翼に栄光あれ!」


「翼に栄光あれ!」


 集まった鳩たちが一斉にその言葉を叫んだ。


「よし、鳩宮第三小隊、出るぞ! 皆、俺に続け!」


 隻眼鳩こと鳩村が、天望回廊のメンテナンス用扉から台風で荒れ狂う空へとその身を投じる。

 と、同時に次々と鳩たちも鳩村に続いて飛び立った。


 地面からの飛行では無駄な体力を使う為、出来る限り高い所からの出撃となった今回。台風による強風で揺れるスカイツリーは正直おっかないが、鳩宮さんたちはこの嵐の中を飛んでくれるのだ。怖いなんて言っている場合じゃない。その雄姿を見届けなければ……。


「って、鳩宮さん、大丈夫なのか、これ?」


 先陣を切った鳩村を初めとして、出撃する鳩たちがみんな強風に吹き飛ばされるような形で飛び立っていく。

 その様子はただ強風に翻弄されているだけのように見えて心配になった。


「なーに、大丈夫じゃ。空を飛ぶのにはまず風の流れを掴むのが肝要。今はその流れを探っているところじゃよ」


 その証拠に見てみい、と翼が指し示す方向を見ると、鳩村とその背後に鳩たちが編隊を組むようにして飛んでいるのが見えた。


 その時だった。


「ろーと、ろーと、ろーと♪」


 突然、鳩宮さんが歌い始めた。


「おおっ、その歌は!」


「知ってるんですか、部長?」


「ああ、俺も詳しくは知らないが、鳩たちの士気を高める歌と聞いている。雨雲にこの歌が流れる時、空に光が差し、青空に鳩の群れが飛び交うと言われている歌だ」


 そんなのがあるのか。知らなかった。


「ろーと、ろーと、ろーと♪」


 鳩宮さんに続けとばかりに、出撃する鳩たちもその歌を口ずさみながら飛び立っていった。

 耳を澄ますと、聞こえるはずがないのに鳩村たちの歌声も聞こえてくるような気がした。


「ぽっぽっぽー。この曲はな、『その翼で青空を取り戻す』というわしら鳩族の誓いを歌ったものじゃ」


 そしてとうとう最後に鳩宮さんが飛び立とうとしていた。


「安心せい、アフロ。わしらの『ろーと誓約』は無敵じゃ!」


 鳩宮さんが台風の中、力強く飛び立つ。


 ろーと、ろーと、ろーと♪

 ろーと、ろーと、ろーと♪


 その強風にも負けず、鳩たちの合唱はどこまでも鳴り響く。


 ろーと、ろーと、ろーと♪

 ろーと、ろーと、ろーぉとー♪ 

 ろーとーせーいやーくー♪


 そして東京に数日ぶりの朝日が差し込んだ!

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