第二巻 台風直撃! どうなる、東京オリンピック!?
第四話 行方不明の鳩宮さん
「超大型台風、以前勢力を維持したまま進路を東北東に向けて進行中」
「このままでは今夜未明に東京も暴風域に入ります」
「上層部から明日の競技実行の可否判断を急ぐよう申請が来ています!」
「日ノ本主任、どうかご決断を」
周りの連中が主任、主任と俺に向かって連呼してくる。
くそう、いったいどうしてこんなにことになってしまったんだ!?
オリンピック開催中に東シナ海で発生した台風は進路を北、大陸の方に向かって進行していた。
本来なら大会運営には影響がない、はずだった。
が、鳩宮さんが「気になるので少し様子を見てこよう」と飛立った数日後、台風は突如として進路を東、まさに東京を直撃するコースへと変更。さらに勢力を急速に拡大し、大型台風となった。
そして同時に鳩宮さんに渡したスマホとの通信が不通になり、安否はいまだ定かではない。
「鳩宮さん……」
俺は思わずその名を呟いた。
☆ ☆ ☆
ハマスタでの一件以降、俺と鳩宮さんの奇妙な共同生活が続いていた。
正直に言って、最初は鳩宮さんのことを好きになれなかった。
俺のアフロに住み着いた鳩宮さんは、重いわ、フンをするわ、髪の毛を嘴で引っこ抜くわ、街で好みの女性を見かけると「ひゅーひゅー、お嬢さんいいケツしてるのぉ」と声をかけるわ(そして当然の如く女性は俺が声をかけてきたと勘違いして、強烈な平手打ちを食らわしてくる)で散々だった。
が、なにより俺が一番気に入らなかったのは、天候を操る、ということだ。
部長に言われた時も思ったが、鳩宮さんが天候を操れるのなら俺の仕事に何の意味があるのだろう。
俺は自分の仕事にプライドを持っている。
どんなに予想が難しい天気図も懸命に読み取り、自分の責任で判断を下す。
それを鳩宮さんがいるからって全部頼りっぱなしなんてことはしたくなかった。
だから鳩宮さんが一緒でも、俺は俺のちっぽけなプライドを守り通した。
与えられた仕事は全て全力で取り組み、時には雨が小降りになるのを見事に予測して試合続行を示唆し、時にはたとえ大きなイベントであっても雨天延期の判断を下した。
それは鳩宮さんなんて必要ないと主張する、俺なりの抗議であった。
しかし、俺がそんな態度を取っても決して鳩宮さんは離れようとしなかった。
俺が天候予測にうんうんと唸っていても、頭の上でくるっぽーと快適お気楽生活を洒落込んでやがる。
当然腹が立った。
でも、ある日、気付く。
それはある大きなイベントのこと。前日の天気図からは当日開催出来るかどうかは微妙なところ、とりあえず判断は当日の朝に下すことにして俺は眠った。
そして翌朝、目覚めた俺は昨夜からの天気図の動きを確認して、それを見つけた。
よほど注意深く見ないと気付かない、とても些細な変化。でも、本来なら有り得ない雨雲の動き。
人間には到底不可能な奇跡の御技……。
それは俺が眠っている間、鳩宮さんがひと飛びしたという明らかな証拠だった。
思い浮かべてみれば、そのような奇跡は鳩宮さんと出会って何度かあった。
その度に俺は自分の判断の冴えを自慢げに頭上の鳩宮さんに誇ってみせたが、なんてことはない、裏で鳩宮さんがそうなるように動いていてくれたのだ。
この事実をどう受け止めるべきか、俺は悩んだ。
正直、余計な事すんなって怒鳴りたくもなった。
だけど気付かれないよう、俺が寝ている間にそっと動いてくれたのは、言うまでもなく鳩宮さんの気遣いである。
それは感謝こそすれ、怒るようなものではないだろう。
結局、悩みに悩んだ末に俺は気付かない振りをすることにした。
怒るのは当然のこと、感謝するのもまた、鳩宮さんの気遣いを台無しにするような気がしたのだ。
ただ、このことがきっかけで、俺は鳩宮さんとの付き合い方を変えた。
俺はこれまで通り、俺の仕事をしっかりやる。
その中でどうしても鳩宮さんの力が必要な時にだけ助けを求めた。
全てをお任せにしない。
意地を張って、変な気遣いもさせない。
そう、俺たちは仕事のパートナーなんだ。
ヘンテコな同居関係にあるが、一緒に仕事をする以上、お互いに手を取り合わないと良い結果なんて生まれるはずがない。
☆ ☆ ☆
こうして俺たちはなんとか上手くやってきていた。
一大イベントである東京オリンピックも多少の降雨はあったが、競技の進行に大きな影響はなく中盤までやってきていた。
それなのに、ここにきてどうして……。
「……仕方ない、明日の屋外の競技は一部を除き雨天延期にしよう。ここで無理をして選手に何かあったら大変だ」
俺は決断を下した。
幸いにも予備日もあるからまだ余裕がある。
台風が通過する明日だけならば勿論、仮に台風の被害でもう一日延びたとしてもまだ大丈夫だろう。
それよりも鳩宮さんの安否が心配だ。
頼む、鳩宮さん、無事でいてくれ。
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