断章~七話 クリサリアのおとぎ話/クリサリアの王
むかしむかし かみさま が てんし と あくま に ひとつ の せかい を つくれ と めいじ ました
てんしは にんげん と どうぶつ を つくり ました
あくまは ほし と まもの を つくり ました
できあがった せかい を みて かみさま は よろこび くりさりあ という なまえ を つけました
でも こまった こと が おきます
まもの が ひと と どうぶつ に わるさ を するのです
いちばん つよい まもの は まおう と よばれました
まおう は くりさりあ を まもの だけの せかい に する と いいました
そこで てんし は おもいつき ました
まおう を こらしめる ひと を べつ の せかい から よびよせ よう
また その ひと には おくりもの を あげよう まおう を やっつける おくりもの を
そうして べつ せかい から ひとり の しょうねん が しょうかん され ました
かれ は ちえ と ゆうき と てんし の ちから で わるい まおう を たおし ました
ほか の まもの は みんな おとなしく なり ました
ひとびと は しょうねん を たたえ ました
ひとびと は かれ を ゆうき ある もの ゆうしゃ と よび ました
せかい は へいわ に なり ゆうしゃ も くりさりあ で いつまでも しあわせ に くらし ました
めでたし めでたし
では、ありませんでした。
魔王が滅び、魔物が絶え、人間が栄える世界の王となったのは、誰あろうその勇者でした。天使の
魔王を滅ぼした異世界の人間が、クリサリアの人々にとっての新たな魔王となったのです。
天使の加護を受けた勇者は、誰も敵いません。
それどころか、新たな異世界からの転生者までもが、特殊な能力を身に着け、あっという間に、クリサリアは勇者のものになってしまいました。
圧政と暴力に倒れ伏す民衆。そのとき、悪魔が降り立ち、彼らに声をかけました。
世界を創り出してからは、魔物が暴れ出しても、魔王が現れても、それが殺されても、ずっと静観と傍観を続けていた彼らは、こう言いました。
「天使が贈り物をするのであれば、私は契約をしよう」
天使の
世界に、新たなルールが生まれた。
「差し出せ。ヒトをヒトたらしめるものを一つ。さすれば、私も力を授けよう。ほかならぬ勇者を勇者たらしめるものを殺す力を」
悪魔の声を聞き、人々は立ち上がった。
縋れるものならば、神でも悪魔でも構わなかった。
再び、自分たちの世界を取り戻せるのならば。
それから、しばらくして、ある日。
絞首台に、男の勇者がぶら下がっていた。
それから月が一度欠け、また満ちた日。
湖に、女の勇者がこと切れて浮かんでいた。
また、それから月が三度満ち欠けを繰り返したのち。
まだ年若い勇者が、全身を焼かれ黒墨になった状態で、道端に落ちていた。
彼ら彼女らには共通点があった。
自らが得た力に奢り、気の
死んだ勇者たちは、その首に賞金が懸けられていた。
クリサリアに、新たな職業が生まれていた。
賞金稼ぎ。
“悪魔”と契約した勇者を狙う者たち。
※※
クリサリア大陸西部の荒野を抜け東に進んだ先。
首都バーゼが、肥沃なモーティマ平原のほぼ中央に存在することは、そのまま、王の自信の表れであった。
外敵にとっては四方から攻められるという利点となるし、申し訳程度に壁で囲って城郭都市の風体を保つ城下町も、翼竜による強襲部隊を持った魔物の軍勢を相手にすればほとんど用を為さない。
故に、かつての首都は、断崖に作られ、さらに、幾重にも張られた魔法障壁と結界に守られていた。
だが。
真っ白な石造りの、景観だけを意識した美しい宮殿の最上階。
豪奢な彫刻と、シャンデリアに彩られた謁見の間。
その玉座に腰掛ける当代の王―――“勇者王”シリズ・バーゼは、肘掛けに乗せた腕で顎を支え、だらしなく足を投げ出して座っていた。
「王、そのような恰好、間もなく民が謁見に訪れます。姿勢を」
傍に
「この服が重いんだ。誰だよ、こんな格好にしようって言ったのは」
「あなた様です」
最果ての竜王の鱗でできた
「見た目にばかりこだわって、肝心の機能性を台無しにしている典型的なファッションでございますね。そう考えれば、民に改めて呆れられることもないかと」
慇懃無礼なセイガの言にも、ほんの少し頬を持ち上げるだけに留め、シリズは言った。
「なぁに。少しばかり舐められるくらいが、為政者には丁度いいのよ。たまには活きの良い反逆者でも出んことにゃ、王の力を誇示することもできんからよ」
不用心な街づくりも、すべてはこのため。
のこのこと現れた反体制派を定期的に叩き潰せば、それだけで支配力が増す。
勇者王には逆らえないと、誰もが思う。
「流石は我が王。独裁者の為政をよく分かっておいでです」
独裁者。その響きに、シリズは満足そうに頷いた。自身の腕をぺしぺしと叩きながら言う。
「だろ? なんだかんだといって、治世には結局、
王は、その思想と同程度に顔を歪め、心底楽しそうに、高らかに笑った。
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