数学的な彼女の日常

穂実田 凪

モノローグ

 これから少し、俺の彼女の話をしようと思う。


 あ。いや、違うんだ。

 惚気のろけなんかじゃなくて、純粋に彼女のことを話したいだけなんだ。

 え? それがまさしく惚気だろうって?

 ……たしかにそう言われても仕方ないかもしれない。

 でも、ちゃんと聞いてくれればわかると思う。

 これは彼女とだから。


 彼女……そうだな、本人のプライバシーもあるし、Mさんと呼ぶことにするか。

 Mさんは俺と同じ会社の人事部に勤めていて、年齢は俺より一つだけ上だ。

 付き合うまでにはいろいろあったんだが、その話はまあ今はいいだろう。

 ともかく、ずっと想いを寄せていたMさんと付き合えることになったのは本当によかったんだが、これまで彼女とは基本的に仕事の話しかしてこなかったせいもあって、仕事以外で共通の話題がなかなか見つからなかった。

 二人きりになっても、何を話せばいいのかわからない。仕事の話だったら、いくらでもできるのに。社内恋愛ってそんなものなのだろうか。


 そんなとき、Mさんが話題に選んだのが”数学”の話だったんだ。


 大学では数学を専攻していたこと。

 学生の頃は数学で食べて行こうと思っていたこと。

 今では数学とは無縁に見える仕事をしているけれど、数学の考え方は役立っていること。


 Mさんはそんな話をしてくれた。


 俺だって高校生の頃まではそこまで苦手意識もなく数学を勉強していたけれど、大学に入ってから今まで、数学のことなんて意識することはなかった。する必要もなかった。

 でも、Mさんのような数学に一度染まった人間にとって、数学的に物事を考えることは呼吸をするのと同じようなことらしい。

 そんな視点がとても新鮮だったんだ。


 だから、俺はこの面白さを共有したいと思う。

 きっと退屈はさせないと思うから、最後まで聞いてくれると嬉しい。

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