第24話 主人公、泣かれる

「……」


 目を開けると、天井が見えました。綺麗な木製の天井です。

 まばたきを数度してから、私はモゾモゾと起き上がります。どのくらい眠っていたのでしょうか、体がミシミシと悲鳴をあげました。


「……くぁ」


 あくびをひとつして、目を擦ると、頭痛がしました。

 反射的に頭に手をやると、頭に布地が巻かれていました。包帯でしょうか。見慣れたピンクの髪が指に絡みました。

 

「……皆さんは、どうしてるかな」

 

 窓から差し込む光から、いまが日中であることが分かります。

 皆さんを探しにいこうかと思い、私はベッドから足を下ろしました。ゆっくり立ち上がると、体を痛めないようにゆっくり伸びをします。それでもミシミシ言う体に、私は歯に力を込めつつ、今を噛み締めます。

 生きています。生きています。私は世界を生きています。

 ああ、あと、すぐに知りたいのはーー


 がちゃりと扉が開いたのはそんな時でした。


 私は伸びをしているやや間抜けた格好で、知りたかった本人と対面しました。


「……」


 その本人はというと、ドアノブに手を置いたまま、私を凝視しています。

 私は、ぎこちなく伸びをしていた腕を下ろして、声をかけました。


「先生、無事でしたか」


 そして、続けます。


「よかーー」


 最後までは、言えませんでした。

 先生が、私に駆け寄って、私の両肩を掴んだからです。驚きました。とても直情的な行動で、私が知っている先生には見られないものでした。

 だからこれも、見たことのないものでした。


ーー


 彼女が起きていた。起きてくれていた。

 そのことが信じられなくて、彼女を見つめた。

 彼女が口を開いた。


「先生、無事でしたか」


 そう言った。自分の身より、僕の身を案じた。

 ああ、そうだ。彼女はどちらかと言えば、他人を労る性格の持ち主だ。いつかの嫌がらせをした少女の名前を言わなかったときのように。


 彼女だ。彼女だった。

 それをもっと確かめたくて、僕は彼女の両肩を掴んだ。固さに似た柔らかさがあった。温もりがあった。

 よかった。よかった。

 死なないで、くれた。


「……あ」


 気づけば僕は泣いていた。安堵の、涙だ。犬を死なせてしまったときの、悔し涙ではない。

 そのことが、とてつもなく嬉しくて、たまらなくて、彼女がおろおろしているのも気にせずに、ただひたすらに、涙を溢し続けた。


ーー


 しばらくたち、全員がココの寝ていたベッドに集合した。


「え! 私、3日も目を覚まさなかったんですか?!」

「そうよ。みんな心配してたんだから」

「え、ま、待ってください。お風呂は入れてないから皆さん近づかないでください」

「別にいいだろ、3日くらい」

「アークと一緒にしないで!」

「ココちゃん、今度俺と温泉行こうよ!」

「フウロさんだけと一緒は嫌です」

「ひどいなー」


 一同、言い合い、笑い合っている。


「……ココ」


 ライはココの名前を呼ぶと、その頭をそおっと触れた。


「起きてくれて、ありがとう」


 その言葉に驚くココだったが、狼狽えた。


「……ライさん、私、髪洗ってないです」

「気にしない」

「私が気にするんで、ぜひともやめてください」


ーー


 前世の記憶を持った少女は、再び今世を生きることにした。

 異能の力を持っていた青年は、その力を求めるのをやめた。


「温泉なら、皆で行きましょう!」

「お姉様が行くなら私も行きます」

「なら、僕は引率しようか」

「えー、先生も来るんですかー?」

「ああ、行くとも。先生だからね」


 物語は、続く。

 この世界が続く限り、どこまでも。

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