記憶の館

落下する

落花する

落果する


仄暗い廊下は深閑として

長くて果てしないようだ

蝋燭の灯りというやつは

揺らめくので気がつくと

長い廊下がうねり始めて

蛇の体内にでもいるよう


平衡感覚が狂い

廊下の奥へと落ちている気分

落ちる、そう落ちているんだ


ふい、に風を感じた


そして何かが足元を闇の奥へと

滑り落ちていく


花、可憐な花が一輪

砕けて散った夏の日

荒イ呼吸/吐き気ガ

手に残った長く艶やかな黒髪が数本

屋上の熱気を孕んだ風にたなびいて


落下する/誰が

落花する /知らない少女

落果する/何が


すべて砕けて散った

あの日、僕も砕けた

花も果実も砕けたよ


思いだした夏の日が

僕を呑み込んでいく

いつか流れなかった

涙がラッカしていく


僕は闇へとラッカしていく

コンクリートに咲いた花に

真実に向かってラッカする


廊下を滑り落ちていくのだ

赤いアカイハナの咲く夢へ

記憶の館は忘却を許さない

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