第9話 ダニエル

 少年はダニエル=フロスト。

 17歳の少年だった。

 父親は東オルガン市内の開業医だ。

 父親譲りの頭脳を持っているのか、通っているハイスクールは名門校だった。


 教会の外に出た三人は、隣の公園に向かった。公園のベンチに、エバンズとダニエルが座り、ベアーは立って彼らを見下ろした。


「君とエルザは付き合っていたの?」

「はい」


 ダニエルは頷いた。


「エルザが妊娠していたのは知ってる?」

「はい。僕の子です」


 エバンズは言いにくそうに次の言葉を発した。


「……あー、本当に君の子であるという確証は……」

「僕の子です。僕と付き合い始めてから、彼女は仕事のやり方を変えたから」


 エバンズとベアーは目を合わせた。


「わかります」


 ダニエルにそう返すベアーに、エバンズは今の彼の『わかります』は軽くむかつくな、と思う。


「一昨日の夜、彼女と逃げるつもりだったんです」


 ダニエルが告白した。


「両親に反対されるのは目に見えてるし。子供も堕ろすようにいわれるだろうし。……彼女も僕の考えに賛同してくれたんです。だけど、待ち合わせの時間に彼女は来なかった」

「どこに逃げるつもりだったの?」

「無謀な計画じゃなかった。だから、彼女も承諾したのに。……親戚に最近、キエスタから帰った修道士のおじさんがいます。彼は一族と疎遠で、僕と仲が良かった。元軍医だし、彼女の出産も見てくれる約束も手紙でしました。彼の元で二人でしばらく過ごして、子供を無事に産むつもりでした」


 ダニエルはベアーとエバンズを見上げた。


「……彼女の気が変わって、僕と別れる決心をしたのかと今まで思っていました。でも……まだ彼女は迷っているだけかも。どう思いますか」

「……それは彼女に聞いてみなくちゃ分からないけど、ダニー。とりあえず彼女を見つけないと」


 ダニエルは頷いた。


「彼女を見つけたら、無理やりにでも引っ張って連れて行きます」

「君は……エルザが……生涯の人でいいのかい?」


 まだ17歳なのに。

 エバンズは自分が17歳の時のことを思い出した。

 僕が君の年のころは、雑誌のおねえさんと、コミックがこの世のすべてだったぞ。


「……ギールはアネッテを失って、その先の一生を後悔し続けたんです」


 ダニエルはエバンズを強い目で見つめた。


「僕は、ギールのようにはなりたくありません」

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