2nd Verse Killer Likes Candy

Killer Likes Candy


 予定通りだ、すべては予定通りに進んでいる。目標が姿を現していないという、唯一にして最大の障害を除けば――だが。


 ごきりと首を鳴らしてほぐす。朽ちたビルの上階が埃っぽいのは仕方がない、条件に見合った最高のポジションなのだ。標的の頭に鉛弾をぶち込むとしたこの場所以外に考えられない。狙撃銃を手に伏せる。スコープレンズの先、四倍望遠の世界は近くて遠い。


 早く来いと、舌打ち。他には誰もいないのだから苛立ちを隠す必要などない。いつまで経っても現れない標的も、偉そうにふんぞり返っていた依頼主も、すべてが頭にきていた。ムカつく事この上ないのだが、食い詰めものに仕事を選ぶ権利などないのである。


 喰うためだと、雑念を吐息に乗せて長く吐く。


 事前の計画通りに進めば目標はじきに現れる。そいつの脳幹を粉みじんに撃ち抜いてやれば、どいつもこいつもハッピーだ。二発目はいらない、初弾で決める。白昼の射撃である事を考慮して、銃口には消音機を取り付けてある。仕事の後で騒ぎにあると面倒だからだ。


 さぁ、早くしろ。森の中に隠れようが葉の模様で見極めてみせる。どれだけ人ごみにまぎれようが無駄。たとえ顔を隠していても、獣人の中から人間を見つけるなんて楽勝だ。


 人だかりから照準を外し道路に向ける。黒い車が一台近づいてきていた。――時間だ。一度銃把から右手を離して指を屈伸させる。その手で槓桿を手前に引き、押し戻す。

 

ガチャリ、金属音。7・62㎜ライフル弾を弾倉から薬室へと送った。

 優しく銃把を握りなおし、セーフティー解除、指先が銃爪に触れる。


 集中


 集中


 風はなし、


 スコープを覗く。


 極度の集中が時間を鈍くし、音を殺した。万象一切から切り離され、この世に存在するのは銃と自分、そして目標。ただそれだけ。世界が麻痺する錯覚、感覚。


 吸気――、吐息――、


 揺れる照準、


 狙いを定め、


 重なる瞬間、


 銃爪落とす。


 肩に反動、


 飛び出す弾頭、


 鈍い銃声。


 望遠の世界は蜘蛛の子を散らしたような騒ぎになっている。驚愕と興奮。至上の歓喜に笑みすらも零れた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る