5匹目 さあ、一緒に

 ふぅ、と息をついた。また泣いてしまった僕のためにムーさんが作ってくれたスープが手にあった。僕が無く必要は無かった。でも、泣かずにはいられなかった。

「ごめんなさい・・・また、泣いてしまって。鬼頭さんを説得しようとしたんですけど、実験材料にされた動物達を思うと、泣かずにいられなくって・・・」

「大丈夫です。阿弓くんが間に入ってきてくれてなければ、僕は死んでいましたから。ありがとうですにゃ。」

 よかった。やっといつものムーさんに戻ってくれた。やっぱり、優しいな。敵だった奴に、銃を持って殺そうとしていた奴にスープをごちそうするだなんて。

「・・・お前、なぜ泣いた。お前が無く必要はなかったはずだ。」

 不機嫌そうに聞いてくる鬼頭に僕は

「今まで実験にされてきた動物たちを思うと・・・泣かずにはいられなくて。鬼頭さんは本当は実験なんてしたくなかったんじゃないですか。顔に書いてますよ。」

「・・・・そうだ。俺様はもっと、人を助けたかった。復讐するだなんてアホらしいな。人を助けたかったのにこんなこと。こんなことをすることになったのは、人間の顔が悪そうだからってこういう実験しかさせてもらえなくてね。毎日、家で泣いていたよ。家にはいっぱいの遺骨があるんだ。・・・それで、人間にはどうすれば戻るんだ。」

「あ・・の、部下さんの銃を閉まってもらえませんか?みんな、怖がってるんで。あ、ありがとうございます。えっと、人間に戻る方法ですよね・・・。鬼頭さんの身体はありますか?」

「あるぞ。」

「なら、あの実験で使った機械で戻すって言うのは手じゃないですか?戻れそうですか?」

「そうだな。・・・こんなことした奴が言うことじゃないが、手伝ってくれるか?」

 僕はみんなと目配せをした。みんなの目はOKと言っているようだった。

「もちろんです!どんなことでも手伝いますよ!さあ、一緒に人間に戻りましょう!」

 そう言ってみんなは店を閉める準備をしていた。僕は皿洗いを手伝った。店じまいが終わると、みんなは人間の姿になって、部下が乗ってきた車で研究所に向かった。




 研究所に着いた。研究所までは遠くて1時間はかかった。部下に連れられて(鬼頭はペットが入れるバッグに入って)実験室まで行った。

 そこには鬼頭の身体が置かれているだけだった。大きいとも小さいとも言えない部屋だった。

「鬼頭さん、どうすればいいですか?」

「まず、俺様と俺様の身体を機械の下に置いてくれ。それから、身体に周りにある線をはってくれ。準備が整えば合図を出す。そしたら、赤いボタンがあるはずだ。押せば身体が元に戻る。成功は・・・しないかもしれない。」

 ちょっとだけ泣きそうな鬼頭に僕は

「大丈夫です。成功しますよ。いや、成功させましょう。きっと大丈夫。自信を持って。」

「お前は、優しい子だな。」

 鬼頭は声が震えていた。きっと怖いんだろう。いくら、顔が強面でも気が弱い人もいる。優しい人も。鬼頭がそうなんだろう。

 準備が整ったそうなので、僕はまたもや泣きながら

「鬼頭さん、生きていてください。生きたいってこころで思っててくださいね。」

 と言い、ボタンを押した。

 カアッと明るくなって強い風で飛ばされそうになった。必死で立っていたが、立てず、みんなで丸くなって待っていた。



 風がおさまって、実験台の方を見てみた。どちらも、死んだように実験台の上にいた。

 ちょっとして、人間の鬼頭が起き上った。

「・・・う・・・!!!やった!やったぞ!人間に戻った!ありがとう、ありがとう!きみのおかげだ!名前は?」

 すごい勢いで僕に飛びついて来た鬼頭をしっかりと受け止め、名前を教えた。

「阿弓です。歩紋 阿弓。」

「いい名前だね。阿弓くんか。本当にありがとう。・・・俺様も阿弓くんになりたかったな。君はいい人間になるよ。」

「ありがとうございます。」

 2人で抱き合い、実験室で泣いた。戻れてよかった、などと言いながら泣きまくった。

 それから、また1時間かけて店に戻った。そこで、鬼頭は僕にこんな提案をした。

「阿弓くん。わたくしと一緒に動物や人を助けないか?ここで働くのもありだが、どうする?」

 僕は少し迷った。どうしようか。

「ぼ、・・・僕は九猫なんでしょうか。それに、ここで働き続けてもいいんでしょうか。」

 震えた声で聞いた。その場が静かになった。すぐに返事が返ってきた。

「心配する事無いよ。ちょっと特殊だけど、いつでもネコになれるし、人間にもなれる。そんな力を阿弓くんは持ってるんだ。だけど、研究者に狙われないようにするために、私らは守りたいんだ。ここまでしてくれたんだからね。だから、ここで働いてくれないと困るんだ。」

 ペルンさんが言ってくれた。みんなも賛成して、そうだ!とかうんうんなど言ってくれた。僕は泣きそうになった。でも、こらえて、

「ありがとうございます!みなさん!鬼頭さんも一緒に働きましょう!・・賛成してくれますか?」

 と少し控え目にみんなの方を見た。みんなは目配せをして、満面の笑みで

「もちろんだよ。」

 と答えてくれた。

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