4匹目 諦めないで
「さ!お茶の用意ができたにゃ!」
と元気にエゾさんがお茶とお菓子を持ってきてくれた。
「・・・!?このお菓子美味しい!」
「ですにゃ?」とにやにやしながらメイさんが答えた。
「・・さて、じゃあ話しますか」
と、みんながネコの姿になって教え始めてくれた。最初に教えてくれたのはエゾさんだった。
「阿弓は知ってるかにゃ?《猫に九生有り》ってことわざ。迷信なんだけど、たまに生まれるんだにゃ。人間の超能力?と似たようなものだにゃ。1から9まで級みたいなのがあるんだにゃ。人間基準でいくと、1から3までは赤ちゃんみたいで、ニャーしか言えないの。4から6までは高校生ぐらいだけど、やっと単語喋れるかな。7は、社会人寄りの大学生ぐらいで、人間になれるかな?っていう境目。8は、会社を定年退職するぐらいで人間になれて、言葉が達者になって、ニャーが抜けるかな。9は、孫ができてそろそろ死んじゃうかなぐらい。」
次はロッシーさん。
「だからボクらは喋れるんにゃよ。それを狙って研究者たちが追いかけてくるんだにゃ。9つも命があるって、最高にゃんでしょ?人間にとっては。ちなみに、俺は5つ目、ムーは8つ目、メイは6つ目、ガルルは6つ目、バンは4つ目、エゾは4つ目、サナは8つ目、ペルンも8つ目だにゃ。」
そりゃあ、そうだ。9つも命があれば何でもできるから。というか、あとちょっとで9つになる人もいるんだ・・・
次はメイさんが話し始めた。
「阿弓ってば、嘘をつけないね。顔に全部でるにゃね。はははっ。にやにやしながら喋るなって?おもしろいなぁ。はは。それはいいや、今度ネタにするにゃ。で、その研究者なんだけどバカなことしたんだにゃ。猫と犬の中身を入れ替える実験してたらしくて、実験中に九猫に騙されて、ネコがいたとこに座っちゃって、犬になったんだにゃ。その犬は死んじゃったんだって・・・。まぁ、実験は失敗ってとこかな。そんなことがあったから、九猫を探して、全滅させようとしてるんにゃ。ちなみに、九猫ってのは9つの命を持ったネコの略だよ。」
その次はサナさん。
「その九猫、だれか知りたいっしょ?それはね・・・ムーなんだよ。」
「・・・・・・・・っっえええ!」嘘だろ、と思った。まさかそんな。あの優しいムーさんが。だから朝、顔が曇ってたのか。
「考えてるとこ悪いけど、話進めるにゃよ。でさ、それで抜け出してきたムーが人間になってここ始めたんだけどやっぱりバレちゃって、さっきの・・・白猫ちゃんも最近3つ目になったばっかりの九猫だったの。昨日の夜かな?に来て、朝早くに散歩に行くって出てっちゃって探したらあいつに追いかけられるとこで・・・それでかもしれないね。まあ、それだけじゃないんだけどね。」
続いてガルルさんが話した。
「ボクが入るのばれちゃったのが原因だよ・・・ごめん。こないだ、あいつ見つけて、急いで逃げたんだ。でも、すぐそこまでつけてきてたみたいで、姿はくらませたみたいだけど・・・その・・看板が、ね、犬派はお断りとも書いてるでしょ?それで察したんだと思う・・・。」
それをフォローするかのようにバンさんが
「ガルルだけじゃないよ。俺らも特徴的な匂いがあるからだろうよ。犬になってから敏感になってるんだろうよ。」
ちょっと待って欲しい。あいつの名前ってなんだろう。
「・・・あの、あいつの名前って?」と新たに話しかけているバンさんに聞いてみた。
「ん?ああ、えっとね、日本とハワイのハーフだったんだよね。《鬼頭 ケパノ 幸雄》だったはず。ハワイの血が多いらしいけど、ハワイの人にもおじいちゃんが日本人だとかが多いからそこまで変わんないよね。俺の英語の先生もそうだったよ。ほら、こないだの40日の休暇の時に英語教室行ったらハワイ出身でさ。」
え、英語喋れんの!?と叫びそうになった。ネコが英語かぁ・・・と思った。それは阿弓だけではなかった。ガルルさんも驚いていた。
「えぇ!?お前、そんなことしてたの!普通は故郷に帰るもんだよ!?・・・って言っても親居ないもんねー・・・あ!英語、喋って見せて!」と一人で勝手に話を進めるガルルさんにため息交じりに
「・・わーったよ!Hello!Everyone. I am Van. Nice to meet you. I love fish!ってとこだ。」
なんだ。その程度か。40日の間、何をしてたんだよ、と思っていたのがばれて、すごく怒られた。
「にゃんだ!!!お前、バカにしてるな!」
「ご、ごめんなさいって!そ、それより話の続き、聞かせてくださいよ!」
「ふんっ!」
完全にふてくされたバンさんの次はペルンさんだった。
「もー、バンってば怒りっぽいんだから。で、話の続きね。・・・驚くよね。
というところで止まってしまった。どうやらお湯が沸いたようだ。急いでペルンさんが火を止めに行く。行ったあとにムーさんが重そうに口を開いた。
「・・・阿弓くんは、もしかすると九猫の血を引いてるかもしれないんだ。これは特殊なんだよ。僕らが人間を咬めば人間は一瞬だけネコになってしまう。でも、耳と尻尾が生えるぐらいで被害は少ないんだ。完全にネコになるには僕らの血を飲まなければいけないんだ。それと逆で僕らも人間の血を飲む・・っていうか舐めるだけで人間になれる。7つ目ぐらいの時に人間のところへ行って、怪我した子供の血を舐めるんだ。それですぐ逃げれば人間になれる。それを勉強して、8つ目や9つ目に向かうの。そう、阿弓くんなんだけど、ほんのり九猫の匂いがするんだよね。理由が分かれば話が早いんだけど。」
と言われた阿弓は何が原因だろうと考えているとこに、さっき助けた白猫が目を覚ました。
「・・・にゃ?ココ、ドコ・・・?」
かたことの日本語で喋る白猫はとても美しかった。きっと思いがけない美人になるんだろうなと思った。やっと単ド覚えたところか。それより、名前を考えないと思ったため、みんなに聞いてみた。
「この子の名前、どうします?」
5秒ぐらい考え込んで色んなアイデアがでた。
「俺は、シロでいいと思う。」
「えーなにそのセンスの無さ―!やっぱ、可愛い名前じゃなくっちゃ!」
「そうだな―。・・・・!これだ!プルメリア。ハワイの花だ。あだ名は、メリーちゃんで決定だな。」
ペルンさんってやっぱり凄いと思う。一瞬でこんないい名前が思いつくなんてこの人は知識が豊富なんだろうな。
「じゃあ、メリーちゃんだね。可愛い♥あ、そうだ、僕から九猫の匂いがするって言ってたじゃないですか。考えてみたんですけど、小さい時、4歳ぐらいだったかな?祖父母の家に行ったんですよ夏に。何にも無い田舎で、車は危なかったですけど。ある日、暇だし散歩に行こうと思って出かけて、畦道をずっと歩いてたんですよ。普通の道路に出たときに前からネコが歩いてきて僕の足元で倒れちゃったんです。車が走ってるし、倒れちゃったから危ないなと思ってとっさにその子抱えて近くの小学校の木陰まで行ったんです。ネコをおろしてからコップ付き水筒を持ってたのでコップにお茶入れて、飲ませてあげたんです。そしたら元気になってって、嬉しさからネコを抱き上げちゃって・・・咬まれちゃんたんですよね。で、ネコをもう一回おろして、腕に血がついてるのに気がついて、舐めちゃったんです。僕、自分の血を舐めちゃう癖があってよく舐めてて、ネコに引っかかれてできた傷かなと思って・・・あとでネコに傷があるのを知ったんですけどね。そのあとはその子を祖父母の家で面倒見てましたけどいつの間にかいなくなっちゃってて。・・・たぶんそれが理由です・・。」
思い出に浸りながら、それでかぁとがっかりしつつ喋っていた。これもまた、静かになってしまった。その空気を断ち切ったのはやはりムーさんであった。
「・・そうなん・・ですね。」
少しビックリ口調で喋ったムーさんの顔を見ると、とっても驚いていた。何もかも聞きたい阿弓は聞いてしまった。
「どうしたんですか?僕、変なこと言いました?」
「い、いや、そうじゃなくて。その、阿弓くんが助けてくれたネコって言うのが・・・僕の・・・お母さんなんだ。お母さんも九猫で、人間になる特訓の時に『ねえ、お母さんが何日か帰って来なかった日あるでしょ。その時に、お母さんは怪我をしていたの。それを人間の子供が助けてくれたの。とっても優しかったのよ。あなたもそんな人にネコになりなさい。』と、教えてくれたんです。それが蘇ってきて・・・」
その場の全員が驚いた。阿弓が助けたネコの息子がここにいるなんて思いもしなかったことだ。
「でも、よかったです。お母さんが元気になって。それにこんなところで息子と会えるだなんて夢みたいで・・・」
と言いかけたところ、バンッとドアが開いた。一斉にドアの方を見た。するとそこに居たのはあの犬の鬼頭だった。
「やっと見つけたぞ!九猫!いや、ここではムーという名前だったか。まあいいや。・・・お前はネコにならんのか?人間のままじゃ体力がなくなるだろう?」
待て。ネコとは何だ。僕は人間だ。あ、そうか。九猫の匂いがするって言ってたな。
「ま、待ってください!僕は、正真正銘の人間です!」
「・・・そうか。あ、最近入ってきた九猫の匂いがする人間か。ほーう。俺様がネコにしてやろうか。」
それだけはごめんだ。それより、入ってきた瞬間から思っていたのだが、こいつ、チワワになってる。なんとも怖さが無い。思わずわらってしまった。
「おい!なぜ笑う!?」
「い、いや、だって。ふふっ。チワワの姿で ふふっ 脅されても ふふふっ。」
「俺様をバカにしよって!これでも名の知れた有名天才学者だぞ!・・ふんっ。それより、ムーだったか。お前のせいで俺様がこんな姿になってしまったのだ!責任を取れ!そのためにこの場で死んでもらう!!!」
そういって、部下を呼んだ。部下は銃を持っている。これはまずい。でも、ムーさんと鬼頭の問題だから、口出しはできない。いやいや、ムーさんに助けてもらったんだからお返ししないと・・・でも・・・。と延々考えた末、阿弓はこれだ、と決めた。
「ま、待ってください!鬼頭さん・・ですよね。考え直してくれませんか?鬼頭さんは、人間に戻るために何かしましたか?」
「む・・・い、いや何もしていない。それがどうした!お前は部外者だ!入って来るな!」
「関係あります!ムーさんに助けてもらったし、僕も・・ある意味九猫です。関係あるんです。・・鬼頭さん、ネコとイヌで実験しようとしてましたよね。」
「そうだ。何か問題でもあるかね。イヌネコだけではないぞ。」
「あります。大アリです。・・・動物の命を何だと思っているんですか!!!!イヌもネコも命があるんです!僕らよりも短い命だってあるんです。もちろん、長い命も。それを実験で粗末に扱ってはこの世に生まれてきた命が、無駄じゃあ無いですか!平等に、・・・平等にできないんですか。人間中心主義もたいがいにしてください。・・鬼頭さん、諦めないでください。僕もみんなも手伝います。人間になる方法を探しましょう。復讐だけでは人生が無駄ですよ。」
僕は自然と泣いてしまっていた。優しく語りかけているつもりが、なぜか泣いてしまっていた。それを見ていた鬼頭はビックリしていた。
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