3匹目 向き合うこと

 朝が来た。

 とっても清々しい気持ちでいっぱいだった。

 昨日のことが夢のようで今日から働けるのがありえない。天国にいるようだった。

 さて、支度しようか。そういえば、何着て行けばいいんだろうか。聞いてこなかったな・・・ちょっと調子乗りすぎたか。んー、動きやすいできるだけ綺麗な格好でいいか。

 支度できたので、いつものように栄養ドリンクだけで朝ご飯を済ませた。さて、そろそろ行こうかと玄関のドアを開けた。

「おはようございますですにゃ!ちゃんとご飯はちゃんと食べなきゃだめですにゃ。」

「・・・・っっえぇ!?何で居んの!?」

 ビックリした。何で家の前に居るんだ。家のことを教えてないのに。それにご飯の内容まで。もしかして、つけてきていたのか?まぁ、ネコだしな。・・あれ、ムーさんの笑顔がいつもと違う気がする。悲しそうな笑顔だ。それより、あれを聞こう。

「おはようございます。あの、服って・・・」

「・・・」

 やっぱりおかしい。ムーさんに笑顔が無い。いつも笑顔が満ち溢れてる人なのに。

「あの・・・ムー・・さん?」

「・・・ぁあ、その格好で大丈夫ですにゃ。十分働けるですにゃ。」

 なんだろう。笑顔があってもやっぱり悲しそうな笑顔だ。何かあったのかな。

 もやもやするけど・・まぁ、気にしすぎか。

 この格好。これでよかったのかな。不安になってきた。動けるのかこれしかないから今度街で服を買いに行こう。


 ネコネコ学食へ向かっている途中、1匹の白い子ネコを拾った。薄汚れている。血が出ているところもある。これは何かありそうだ。

「・・ムーさん、この子・・・」

 申し訳なく聞いてみた。ムーさんは笑顔で答えてくれた。でも、作り笑顔がばればれだ。それでも心配をかけないようにと言わんばかりの笑顔で

「いいですにゃよ。綺麗にしてあげましょうですにゃ。この子は女の子ですにゃ。洗えば美人になりますにゃ。」

 やっぱり何かおかしい。まあ、とりあえずこの子の問題からだな。

「早くこの子の美人な姿みたいので行きましょう?」

「そうですにゃ。」



 ネコネコ学食に着いてすぐ、裏口のお風呂を借りた。ガルルさんが先に使っていた。ガルルさんは女の子なのですごく殴られた。そんな怒ると思わなかった。おとなしい性格なのに。

 謝った後、事情を説明したら、また殴られた。「この子女の子なんでしょ!デリカシー無し男だにゃ!」なんて言われたら傷つくなあとおもいつつ、ガルルさんにこの子を任した。

 15分ぐらいして、お風呂から2人が上がってきた。ガルルさんは真剣な顔で

「ムーちゃん、すぐそこにいるかもね。」

 なんだろう。って誰だろう。そこにサナさんが来て、

「・・・!!?その子!どうしたの!?あいつに追われてて、逃がしたんだけどどこにいるか分かんなくてさっきまで探してたのに。でもよかった。ここにいたのね。」とふぅとため息をつきながら椅子に座った。

 展開に頭がついていかない。聞きたいけど、これで険悪な雰囲気になってもなぁ。腹をくくって聞いてみた。

「・・あ、あの・・・みなさんがおっしゃってるって誰・・ですか?」

 やはり、みんなの顔が曇る。これは触れちゃいけなかったなと思う。

「す、すみません!!!アルバイトの僕がこんなこと聞いちゃいけないけど気になってしまって・・・」

 慌てて謝った。でも、ここで働いているんだし、これからの仕事にも役立てたい!そういう気持ちでいっぱいだった阿弓はとてもいい顔をしていた。

 3分ぐらい沈黙が続いた。ロッシーさんがその沈黙を破った。

っていうのは・・・」

 話し始めたロッシーさんをエゾさんが止めた。

「ちょ、ちょっと待つにゃ!こいつに言うのかにゃ!?職探しの間で働くだけだし、もっと言えばネコじゃないじゃにゃいか!」

「そうだそうだ!俺はエゾに賛成だにゃ!」とバンさんが言った後に続いてガルルさんもサナさんも野次を飛ばしていた。

 そうだ、と思った。僕はここで職探しの間に働く前に、《人間》だ。ネコじゃない。落ち込みかけていたところ、

「そんなことないにゃ、みんな。阿弓くんは、人間。でも、ここで働いてもらうとなれば、いくら職探しの間とはいえ、だにゃ。みんな、思い出すにゃ。ここを開く前のことを、決めたじゃにゃいか?《いくら人間でも、一緒に居たら仲間》だって。」

 あんまり喋らない、意見を言わないおとなしいペルンさんが熱弁していた。それにみんなが唖然としていた。まさかペルンさんが意見を言うなんて考えもしなかった。

「・・・そうにゃ。ペルンの言う通りにゃ。仲間だもんにゃ。」

 ペルンさんはすごいな。さっきまで反対していたエゾさんやガルルさんやサナさんとバンさん達、何も言えなかったメイさんやムーさんもここにいる全員がペルンさんの意見に賛成した。

「・・・こんなことを言える立場じゃないのは、わ、分かってます。けど、その・・ペルンさんが言ったように、僕もここで働かさせてもらうんです。一緒に居るの中に入るんじゃないですか?僕は・・・思うんです。ネコも人間も同じで、も同じだと思うんです。だから、教えてくれませんか?もしかしたら、僕が解決できるかもしれないです。可能性は0ではありません。僕もみなさんに相談したように、頼ったようにみなさんも僕を頼ってくれませんか?ここにいる、《仲間》ですから。ちゃんと問題と向き合ってください。これだけの人数がいても、同じ人達だけでは解決しないことがあります。・・僕の会社がそうでしたから。だから、頼ってください。」

 全員が固まった。阿弓も、言いすぎてしまったと後悔している。そこにムーさんが言葉をかけた。

「・・・ありがとうですにゃ。さあ!みんな手伝うにゃ。ティータイムにゃよ。お茶飲みながら教えようにゃ!」

 そう言ってみんながお茶の用意を始めた。

「阿弓くんは座っててにゃ」と笑顔を見せるペルンさんがいた。

「すみません。僕、あれだけ言っておいて何もしないだなんて・・」

「いいですにゃよ。もし、阿弓くんがいなければ喧嘩ばっかりしていたかもですからにゃ。よく意見が分かれるんだけど、なかなか決まらなくて・・・人間も同じだったんだにゃ。阿弓くんが来てくれておとなしくなったんだにゃ。みんなを代表して言うにゃ。ありがとう。」

 人に感謝されるっていいなと思った瞬間だった。

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