第270話 いつも通りの・・・

 いつも通りの朝だ。


「「「行ってきまーす」」」


 いつも通り3人で登校した。


 いつも通りの東西線のいつも通りの場所に乗った。


「おはようございまーす」


 いつも通り4人に増えた。


「「おーす、おはよう!」」

「おはよう」

「「「「おはよう」」」」


 いつも通り7人に増えた。


 今日は誰も喋らない。というか先に乗り込んだ4人が全員ニコニコしたまま何も喋らないから、後から乗り込んだ3人が話すきっかけを掴めず、3人だけで立っているような感じになっている。


 いつも通り大通駅で降りて南北線に乗り換えて、いつも通り水色ネクタイの集団が7人を出迎えた。


 いつも通りの駅で降りた。


 いつものように地上に出たら水色ネクタイの集団は倍くらいに膨れ上がった。


 いつものように正門のところには二人の風紀委員が立っている。今日の担当は藤本先輩と真鍋先輩の三年生コンビだ。


 俺たちの目にもハッキリと藤本先輩たちが見える。

「・・・じゃあ、このあたりでいいか?」

「いいわよ」

「いいよー」

「いいですよ」

 俺たち4人は頷き合うと並び方を変えた。事前に示し合わせていた通りに・・・。


 その瞬間、周りにいた水色ネクタイの集団は一斉に足を止めた。

 誰もが声も出さずに見守る事しか出来なかった。

 やがて、その集団が一斉に


「「「「「「「「「「えーーーーーーーーー!!!!!!!!!」」」」」」」」


「マジかよ」「ホントにこれでいいのか?」「藍さんも唯さんも本気なのか?」「オレは夢を見てるんじゃあないよな」「いや、夢じゃあない」「こんな事って有りかよ!?」「有り・・・って答えるしか無いよな」「ああ」


 俺は左手で舞の右手を握っている。

 藍は俺の右にいて俺の右肩に左手を乗せている。いつものような女王様を彷彿させるクールな笑みで。

 唯は左にいて舞の左肩に右手を乗せている。いつものような自然な笑みで。


 まるで周囲が俺たちの為に道を開けてくれたかのように正門までの道が開けている。


 藤本先輩も顎が外れるんじゃあないかというくらいに唖然とした表情をしている。

 藍派会長の内山も唯派会長の中村も自分の目を何度も擦って、しかも互いの頬を何度も捻ってる。


 それくらいの出来事だったのだ。


 今にして思えば、俺は今年の4月、新1年生の入学式の日に答えを出していたんだ。『藍と唯の両方と均等の距離を保つ』と。でも同時に俺は『俺は不器用だから、両方同時に、なんて器用な事は出来ない奴だ』とも。両方と同時に付き合えないなら、両方との距離を均等に保つには二人をという事だ。


 姉貴は俺に『ウチの影を断ち切れ』と言った。姉貴の影を断ち切る、それは『容姿が高校時代の姉貴と瓜二つの唯』『姉貴の声と聞き分けられないくらいに声がソックリで性格も高校時代の姉貴とソックリの藍』の両方とも諦めろという事だ。姉貴は俺に『ウチの面影が無い子を彼女として選べ』と間接的に言っていたんだ。

 その人物が誰なのかも姉貴は俺に教えてくれていたんだ。姉貴は恐らくトキコー祭の時に舞を見て、舞の仕草や口ぶりから俺に脈ありだって事を見抜いていたんだ。姉貴が知っていて俺も知っている人物は一人しかいない事に気付いたから、俺は思わずボストで大声をあげてしまった。


 俺が舞を選んだのは決して後ろ向きな理由からではない。姉貴の影を断ち切り、それでいて藍と唯が納得できる答えを見付けたからだ。姉貴に言われてみて初めて自覚したというのもあるけど。俺は舞の知識にばかり目を向けていたけど、舞を信用していたんだ。だから舞にある種の安心感を持っていた。それがいつの間にか俺の心の拠り所になっていたんだって事に気付かされたからだ。


 後は俺が舞を手放さなければいい。5年先か10年先か20年先かは分からないが、藍と唯の横に立つに相応しい人物が現れて俺から離れていくまで、いや、その後もずっと。だから俺は舞が離れていかないよう、ずっと舞だけを見ていればいい。藍と唯の事は二人に任せればいい、俺は舞だけを見ればいいんだ。何も難しくない。

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