第269話 本当の意味での・・・
突然、俺が舞の左頬を平手打ちしたから舞の眼鏡が吹っ飛んだ。しかも俺が舞を平手打ちしたから、俺の周りにいた他の客の視線が俺と舞が座っているテーブルに集中した。
俺は舞の言葉に苛立ちを覚えていたから、最後の一言でブチ切れた格好だ。
舞は茫然とした表情で自分の左頬を左手で押さえていた。眼鏡は床に転がったけど、それを取ることはしなかった・・・
「拓真先輩・・・」
「俺は舞を選ぶ。唯を選ばないし藍も選ばない。舞を選ぶ。ただそれだけだ。お前は唯の代用品ではない、俺の彼女は舞だ。それだけだ」
「・・・・・」
「俺は昨日、唯にハッキリ言った。『俺は唯を選ばない』と。唯も最初は泣いていたけど、お前を選ぶと言ったら納得してくれたよ。唯は藍の説得役もやったよ。だから藍も受け入れた」
「・・・・・」
「唯は父さんと母さんに『たっくん』という言葉は使わないと宣言したよ」
「・・・どういう事ですか?」
「唯としてはケジメという意味もあったんだろうけど、俺のことを『お兄ちゃん』と呼ぶようになった。藍の前でも、父さんと母さんの前でも、ましてや姉貴の前でも『お兄ちゃん』と呼んでいる。唯は俺の横に立つという選択肢を放棄して
「・・・藍先輩はどうなんですか?」
「藍は義理とはいえ姉になった時から『元カノ』だ。これからも『元カノ』だ。
舞はヨロヨロとした動作で席から立ちあがり床に落ちた眼鏡を拾って掛けなおした。眼鏡を掛けたら再びヨロヨロとした動作で席に座り直し、そのまま残ったコーヒーを一気に飲みほした。飲み干したコーヒーカップをテーブルに置いた時の舞の顔は普段の舞の顔に戻っていた。
「・・・拓真先輩、いくつかお聞きしていいですか?」
「・・・ああ、構わない」
「わたしは唯先輩のような愛嬌はないですよ」
「構わない」
「わたしは藍先輩のような胸はないですよ」
「構わない」
「わたしはお二人のように可愛くないですよ」
「構わない」
「わたしは先輩に対してもズケズケ言いますよ」
「構わない」
「わたしは超がつく程の音痴ですよ」
「構わない」
「藍先輩と唯先輩に合わせて下さい」
「へ?」
「先ほど拓真先輩が言った事が本当かどうか、藍先輩と唯先輩に直接確かめさせて下さい」
「構わない。なんなら二人を呼ぶか?」
「お願いします」
「おそらく5分もあれば来る」
「はあ?」
「伊勢国書店にいる筈だからなあ。『俺の話が信用できない』って言い出したら自分たちが乗り出すって二人とも妙にハイテンションだったぞ」
「・・・・・ (・・;) 」
「あの二人、本当の意味での『佐藤三姉妹』になろうって本気で俺を
「・・・・・ (・・;) 」
「だから二人にメールすれば5分もあればここに来る。メールしてもいいか?」
「・・・お願いします」
「分かった」
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