第260話 マジであの時にキレておけばよかった!!
「丁度いい機会?」
「うん・・・ウチ、来年の春にママになる !(^^)! 」
「へ?」
「実はさっきまで産婦人科へ行ってた・・・2か月目だって」
「そうか・・・雄介さんは知ってるの?」
「いや、まだ仕事から帰ってないから言ってない。メールじゃあ味気ないでしょ?父さんにも母さんにも、それに石田の父さんと母さんにも言ってない。拓真が一番最初に言った人になるね」
「予定日はいつなんだ?」
「来年のゴールデンウィーク明け。あー、ゴメン、ウチ、基礎体温とか測ってないし、だいたい前回の生理が終わった日をハッキリと覚えてなかったから正確な日を出せなかった。後で日記を読み返して正確な予定日を出してもらうつもり」
「・・・とりあえず、おめでとう」
「たくまー、『とりあえず』は余計だよ。普通に『おめでとう』って言って欲しかったなあ」
「あー、ゴメンゴメン・・・正直に言うけど、俺、足が地についてない」
「だろうね。それだけあんたにとって衝撃的な事実を告げられたって事じゃあないの?」
「・・・うん」
「だからこそ、ウチの影を断ち切る丁度いい機会だよ」
「影を断ち切る・・・それって、まさか・・・」
「おー、拓真もウチが言いたい事が分かったみたいだねえ」
「でも、そんな事をしたら・・・」
「あの二人が納得すればいいんでしょ?拓真の判断に委ねるって言ってるんだよね」
「そ、それはそうだけど・・・」
「あんたの心の整理がついたらもう1度ウチは相談に乗ってやってもいいわよ。だけど心の整理がつかないならウチに会わない方がいい」
「・・・・・」
「高校生が理解するのは酷かもしれないけど、綺麗ごとだけで済ませられるほど世間は甘くないよ。両方とのバランスを取るのがどれほど難しいのか、この5か月ほどで骨身に染みてるはずだよ。理想論ばかりを追い求めても現実が追いつかなければ、その後には破滅しか残らないんだって事をいい加減に理解しなさい」
「・・・姉貴、ホントに時間をくれ。今の俺では頭が追いついていかない」
「・・・分かった。ウチは拓真ならやれると思ってる」
「・・・・・」
姉貴の言いたい事を俺は理解したつもりだ。だが、それを口に出して言うのを正直憚っているのも事実だ。それに、俺は藍と唯だけにそれを押し付ける形になるのは嫌だ・・・。
姉貴は俺に「影を断ち切れ」と言った。その意味も理解している。俺は藍と唯の中に半分の姉貴を見ていた。「姉貴の影を断ち切る」という言葉が何を意味するのかも分かっている・・・だが、それをやったらどうなる?藍や唯よりも先に俺の方が潰れないか?・・・い、いや、それでは駄目だ。いつまでたっても姉貴の影を断ち切れない。
姉貴の影を断ち切りつつ、藍と唯が受け入れてくれる選択で、しかも俺が潰れない方法なんてあるのか?そんなの夢物語にしか過ぎない・・・。
俺はそう思って食べかけのロールケーキを少しだけ口に放り込み、再びドリンクバーのお替りをした。そのまま席に戻ってコーヒーを口にしたけど・・・
あれ?
そう言えば・・・もしかして・・・姉貴がさっき言っていた言葉・・・その意味は・・・
「あーーーーーー!!!!!!」
いきなり俺が大声をあげて立ち上がったから、姉貴だけでなく他の客、それに店員さんも驚いたような顔をして俺に注目した。
「たくまー、一体、何を驚いてる!?」
姉貴も唖然とした表情で文句を言ってるけど、俺は慌てて周囲に向かって「すみません、考え事をしていて大声を出してしまいました」と言って謝り何とかその場を凌げた。
俺はもう一度座ってから超がつく程の真面目な顔で
「あねきー、俺なりの答えを出せたような気がする」
「へえ、あんたのミジンコ並みの頭でねえ」
「ミジンコは酷いぞ。こう見えても石田絵里の実の弟だ」
「あんたがウチを石田姓で呼ぶのは珍しいわねえ。明日は早くも大雪かしら?それとも
「あねきー、冗談も程々にしてくれ。多分これで上手く収まる。いや、全て収まる。あとは藍と唯がスンナリ受け入れてくれるかだけだが恐らく二人共受け入れざるを得なくなるはずだ」
「妙に自信満々だけど、ホントにそれでいいの?後悔しないの?」
「ああ、それでいい。まさに姉貴が言った通りだ。俺は姉貴の影に拘り過ぎていた。だから姉貴の影をどうやったら排除できるのか、その方法も分かった」
「じゃあ、あんたに全てを任せるわよ。失敗したらもう1回相談に乗ってあげてもいいわよ」
「多分、次に会う時には悩み相談ではなくなってると思うよ」
「ホントかなあ。まあ、ここは楽観論でもないと自分の心を落ち着かせられないのかもしれないから拓真の判断を尊重しておくわねー」
この後の俺は終始ご機嫌だった。この2週間の悩み事が一気に解決したような気になって、急にテンションが上がったのかもしれない。
姉貴もこの後は終始ニコニコ顔だった。
「姉貴、雄介さんが帰ってくるのは何時頃だ?」
「んーっと、最近は遅いからねえ。あんたを送ってから帰っても帰宅してないかもねー」
「そんなに遅いのかよ!?」
「まあ、いつもの事だけどね。今のうちにガッポリ稼いでもらわないと困るからねー」
「まあ、たしかに」
「そろそろ行くわよー。次が最後のお替りね」
「はいはい」
姉貴は俺を家まで送ってくれた。俺は姉貴が父さんや母さんに会ってから帰るとばかり思ってたけど「入ったら拓真がウチと会ってた事が藍ちゃんと唯ちゃんにバレて一悶着ありそうだからね」とニコニコ顔で言って俺を揶揄っていた。
でも・・・俺は車を降りる直前になって姉貴に言い忘れた事があるのに気付いた。
「・・・そう言えば、姉貴に言うのを忘れてた事がある」
「はあ?あんたさあ、全部正直に白状しろって言ったのを忘れたの!マジで金返せ!」
「その件じゃあないよ。山口先生の事だよ」
「山口先生?」
「そう、山口先生の事。それなら支払いは姉貴持ちでいいよな」
「うん、それなら構わない。で、何を言い忘れてたの?」
「ついに自分の年齢を公表したよ」
「うっそー!?ウチたちには教えてくれなかったし、雄介の従妹の担任だった時にも教えてくれなかったって聞いてるわよ。それで何歳なの?」
「うーん、今はゾロ目だけど、今月で俺の年齢の2倍になる」
「ゾロ目?2倍?・・・あー、なるほどねえ、ウチより8つ上かあ。それでまだ独身とはお気の毒にねえ」
「あのー・・・その事でなんだけど・・・」
「え?なになに?ついに結婚が決まったの?」
「いや、その・・・姉貴に国語を教えていた時が新婚だった」
「えーーーーー!!!!!」
「子供が出来たら公表するつもりだったみたいだけど、今まで隠し続けてたってさ」
「・・・・・ (・_・;) 」
「つまり、無効扱いとはいえ、史上唯一の既婚者でミス・トキコーに選ばれた人物なのさ」
「・・・・・ (・_・;) 」
「姉貴の手が届かなったミス・トキコーに既婚者が選ばれた感想は?」
「・・・マジであの時にキレておけばよかった!!(#^ω^)」
俺が帰ってきた時には当然だが藍も唯もいた。制服を脱いで着替えた後は普段通りの夕飯になったけど、夕飯の最中に父さんも帰ってきて、途中からではあったが久しぶりに5人で夕飯を食べていた。父さんが食べ終わった頃に家の固定電話に電話があり、母さんが出たけど電話の相手は姉貴であった。俺は姉貴からの電話だと分かった瞬間に何の電話かに気付いたが黙っていた。姉貴からの電話を受けた母さんはそれこそ自分の事のように喜んでいて、父さんも手放しで喜んでいた。当然だが藍や唯も姉貴に祝福の言葉を掛けていた。
そんな中、俺は一人だけ電話に出る事もなく一人黙々と部屋に籠った。
俺の気持ちは固まった・・・だが、1つだけ問題がある。それは藍と唯、どちらに先に言うかだ。対応を誤れば全ての計画が破綻する・・・俺としては熟慮したつもりだが、本当にそれでいいのか、もう1度考え直して納得したつもりだったが、正直、やってみないと分からない部分もある。
全ては明日だ。明日、全てが決まる・・・。
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