第259話 認めたくない自分がいる

「どうして分かった!?」

「あんたの顔に書いてあったから」

「マジ?」

「嘘だよー。そんなの顔に書いてあったら苦労しないよ。当てずっぽうに言ったら一発で正解だったというだけ。ホントに偶然だよ」

「脅かさないでくれよお」

「まあ、あんたが最初に電話してきた時の口調からおおよその見当はついてたけどね。ま、それは置いといて・・・洗いざらい白状するなら拓真の悩みに答えてやってもいい」

「洗いざらい・・・ですか・・・」

「そう、洗いざらい白状しなさい」

「分かった。全部白状する・・・」

 それだけ言うと俺は姉貴に話し始めた。

 藍とは1年生のゴールデンウィーク明けから10月上旬まで付き合っていた元カノであること、その間のお互いの何気ない会話から玄孫同士だと気付いたこと、唯とはその後の11月、正確には10月の最終日から付き合っている今カノであること、でも藍は俺をずっと諦めてなかったことも正直に話した。

 二人とも俺ときょうだいになった直後は非常に精神的に不安定であったこと、担任である山口先生には藍が元カノ、唯が今カノである事が今年のゴールデンウィークの段階でバレたが、山口先生自身の主義に反する形で一時的に二股になってもいいから藍と唯を支えてやってくれと頼まれたこと、でも藍と唯が精神的に落ち着いたら二人のどちらかを選べと言われていたことも正直に話した。

 俺は一度は唯を選ぶと決めたけど、藍と唯が夏休み明けの2学期初日、正門の真ん前で俺の取り合いの修羅場を演じて学校中が大騒ぎになった事と、その時に藍と唯に対して「唯を選んだ」と言えなかった事も正直に言った。それを山口先生が仲裁に入ったが、俺の二股を黙認していた事でクラス内に亀裂が入りそうになった時に俺を庇う形で自分から髪を切る捨て身技でクラスみんなを黙らせたことも正直に話した。

 山口先生が校内では修羅場禁止令を出した事もあるし、家の中では父さんと母さんの前で揉め事を起こさない約束をしているから、藍と唯は形の上ではクリスマスまで休戦中で俺自身に判断を委ねるとは言ってるが、実際には今でも修羅場紛いの事を起こす寸前の状況が続いていて、風紀委員長も半ば匙を投げた格好になっている事も正直に話した。

 しかも、俺の周囲の友達は揃いも揃って仲裁を断ったので最後の手段として姉貴に相談している事まで話した。

 姉貴はその間、俺の話に口を挟む事をしなかった。かと言ってニコリとしていた訳でもなく無表情に近くて、どちらかと言えば怖いくらいだった。

「・・・ふうーん、なるほどねえ・・・ウチもここまでの状況になってるなんて知らなかったなあ」

「・・・父さんと母さんの前では藍も唯も大人しくしているから、まさか学校で修羅場を演じていたなんて夢にも思ってないはずだ」

「あの二人、女優になれるかもねえ」

「あねきー、感心している場合じゃあないぞ。俺の方は殆ど地獄だぞ」

「地獄かあ。その表現は見方によっては正しいんじゃあないの?でもさあ、あんた自身の身から出た錆でもあるよね」

「俺の錆?」

「そう、錆。あんたが最初からどっちかの肩を持つって鮮明にしていれば問題は発生しなかった筈だよ。それを両方とのバランスを取る事だけに気を使っていたから問題がここまで大きくなったとしか思えない」

「そ、それは・・・」

 さすが姉貴、言ってる事が鋭い。しかも俺の心にグサリとくる言葉をストレートに言ってくるから反論もできない。

「・・・それと拓真、ウチは全て白状しろと言ったはずだ。本当にこれで全部か?まだ言ってない事があるならこの場で言え。そうでないとウチはこのまま帰らせてもらうぞ!」

 姉貴の顔は怖いくらいだ。そう、『エリ様』と呼ばれてた頃の女王様みたいな鋭い視線を俺に向けている。唯が2学期の初日に正門の前で藍に見せた、あの凄まじいというか恐ろしいといか、その時の姿で、その時の表情で俺を見ている。姉貴と唯は双子かと思うくらいに瓜二つだ・・・。

 しかも俺は今でも藍に頭が上がらない。姉貴の声は藍と聞き分けられないくらいにソックリだから、そんな姉貴に言われたら俺は隠し事なんか出来る訳ない。

 まさに俺の目の前には、それが俺を睨んでいると言った方がいいかも・・・。

「・・・分かった、全部言う。その代わり父さんと母さんには絶対に言わないでくれ。もちろん兄貴にも、藍と唯にも。当たり前だが雄介さんにも」

「それは約束する。ウチを信用しろ」

 それだけ言うと姉貴はニコッとした。そう、まさに唯を彷彿させる笑みだけど、ここでそんな事を思っている場合ではない。目の前にいるのは唯ではなくて姉貴だ。唯、申し訳ないけどお前とのトップシークレットであっても姉貴には逆らえない。恨むなら俺を恨め、姉貴は悪くない。

「頼むよ。俺も正直に言うけど・・・実は・・・唯とは既にやっちゃった。それも両手の指の数だけでは足りない。だけど藍とはまだやってない。当然だが父さんも母さんも知らない。藍も知らない筈。知ってたら恐らくもっと醜い争いに発展していた可能性が高い」

「はーーー・・・夏休み中に嫁入り前の娘とやりまくったなあ。責任取れるのかな?」

「・・・ゴメン。でもさあ、姉貴は俺の部屋をガサ入れした時に証拠の品を見付けていたんだろ?」

「ガサ入れ?何の事だ?」

「はあ?じゃあ、完全にハッタリだったのかあ!?」

「ハッタリ?・・・ああ、なるほどねえ。あんたさあ、あの時、ウチがあんたの部屋をガサ入れして追及してきたと思い込んでたなあ」

「だってさあ、あまりにもリアルな追及だったからさあ」

「ま、ウチも女優だって事よねー」

「・・・・・」

「既に何発もやった今カノよりも元カノが忘れられないから、元カノともやりたいとでも思ってるのかなあ?」

「あねきー、言葉がストレート過ぎるよ。勘弁してくれよ」

「そのくらいストレートに言わないと拓真だって本音で喋ってくれないだろ?」

「うっ・・・」

「だいたい、修羅場している最中に片方とやってるところをバッタリ目撃されたら火に油を注ぐ程度じゃあ済まないからねえ (*^^*) 」

「ちょ、ちょっと勘弁してくれよお。さすがの俺もそこまでの度胸はないぞ。それに協定違反だろ!」

「だから早く決着をつけて正々堂々とやりたいんだろ?」

「うっ・・・それは・・・」

「まあ、それは冗談として、とにかく拓真、ウチから言わせれば今でもあんたはウチの影を引きずっている。違うか?」

「そ、それは・・・認めます」

、藍ちゃんと唯ちゃんのどっちを選ぶべきか決めらない。それを自分でも分かってるの?」

「・・・分かってる」

「はーー・・・たくまー、いい加減にウチから離れなさい。これは命令よ」

「・・・はい」

「まあ、あんたにとっては今でも佐藤絵里かもしれないけど、ウチは石田絵里だよ。見た目は佐藤絵里だった頃と変わってないかもしれないけど・・・」

「・・・ゴメン」

 そう、俺にとって目の前にいる人物は『佐藤絵里』だ。実際には『石田絵里』なのに、俺の中では今でも『佐藤絵里』のままだ。どうしても俺の中で踏ん切りがつかなくて『石田絵里』という存在を認めたくない自分がここにいるのも事実だ。本当はこれでは駄目だというのが分かっているのに・・・やっぱり俺は子供なのかもしれない。


「・・・でも、あんたにとってもウチの影を断ち切る丁度いい機会かもしれないね」

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