第254話 ホントに胃が痛くなってきた
俺は職員室から藍と唯が出てくるのをずっと待っていたが、なかなか出てこない。相沢先輩もかなり前に出て行ったし、他のクラスの連中も入れ替わり立ち替わりで俺の前を通っていくから、さすがの俺も見せ物にされている気分になったので一人でA組に行った。
俺が教室へ入った時には篠原と藤本先輩の話題一色になっていて、その騒ぎのお陰で俺が入ってきた直後だけ一瞬沈黙があったけど、それ以後は篠原たちの話ばかりだ。俺も泰介や歩美ちゃん、村田さんたちと一緒に篠原たちの話で盛り上がっていた。
でも、いつまでたっても藍と唯はこない。それに間もなく予鈴が鳴るぞ。今日の日直である平野さんは既に来てるけどホントに二人共どうしたんだ?
でもその時
「「おはようございまーす」」
そう言って藍と唯が入ってきた。藍は鞄以外にプリントを抱えて入ってきたし、唯は1学期の席替えでも使った抽選箱を持っての登場だ。
それに引き続いて
「おーす、おはよう!」
そう言って山口先生が教室へ入ってきた・・・へ?・・・あの人、誰?
「「「「「「あーーーーー!!!!!!」」」」」」
「おいおい、おまえらー、一体、何を騒いでいるんだ?」
俺たちが騒ぎ出すのも無理はない。ジーンズなのは普段通りだが山口先生は背中まで伸ばした茶髪のストレートヘアーをしていたからだ。昨日は自分で髪をバッサリ切り落としたんだから一晩で髪があれだけ伸びる事はあり得ない!しかもあれはトキコー祭の時に軽音楽同好会のメンバーと一緒にライブした際に『けいおんぶ』の顧問のコスプレした時に使った鬘なのはバレバレだ。
「山口先生!どうしたんですかあ?」
「そうですよー、トキコー祭の時にやったコスプレの続きですかあ?」
「やっぱり先生も髪が気になるですか?」
特に女子が大笑いしている。まあ、男子も大半が唖然とした表情をしているし俺も同じだ。藍と唯はさすがに一緒に来ただけの事はあって事情を知っているから何も騒いでなくてニコニコしている。
「山口せんせー、まさかとは思いますが、それで今日の授業をやるつもりですかあ?」
内山が茶化すようにして山口先生に笑いながら話し掛けたが、山口先生はニヤッと笑ったかと思うと
「おー、お前らー、こんなチャラチャラしたモンして授業をやるとでも思ったのかあ!?」
そう言ったかと思うと右手を頭の上へ持っていた。クラス全員が山口先生に注目した瞬間、山口先生は一気に鬘を取った。
「「「「「「「「えーーーーーー!!!!!!」」」」」
俺たち全員は驚きの声を上げた。それは藍と唯も例外ではなかった。そう、山口先生のヘアースタイルが昨日までの髪を高くまとめ上げるスタイルから、超がつく程のボーイッシュなショートヘアーになってたからだ。たしかに昨日のロングホームルームの時に自分からバッサリと髪を切ったけど、その時はセミロングに近いスタイルだったから俺もある程度のスタイルに整えてくるとは予想してたけど、あんなに大胆なショートヘアーにするなんて、一体、誰が予想できたんだあ!
山口先生が「おらー、他のクラスに迷惑だぞー」とか言って騒ぎを収めようとしたけど、それでもまだ完全に収まった訳ではない。
「山口先生!どうしてそこまでショートにしたんですかあ!?」
「あー、これかあ。別におかしくないだろ?中学、高校の頃のスタイルに戻しただけだ。こっちの方が考えようによっては髪を乾かす手間が省けるから楽だぞ」
「そういう問題ではないと思うんですけど・・・」
「おかしいと思うならネコえもんの秘密道具で髪を一瞬にしてフサフサにする未来の道具でも出してもらえ。そんな便利な物がある訳ないんだから、別にこのスタイルで問題ないと認めろ!というか、髪の事でワーワー騒ぐな!」
教室中が未だに騒めいているけど山口先生はお構いなしに点呼をして、それが終わると「時間が勿体ない」とか言って、早速昨日のやり残しである席替えの抽選を始めると宣言した。
1学期の時は山口先生自身がクジを引き、その番号の席へ移動した。2学期は出席番号の後ろから順番にクジを引き、書かれた番号の席へ移動する事になった。当然だが「個人的に番号を交換するなどというチート行為は認めないぞー」と宣言してからのクジ引き開始だ。
抽選待ちの間に唯がコッソリ教えてくれたけど、山口先生はわざと朝からトキコー祭の時に使った鬘をしていたらしく、しかも日直の平野さんから「山口せんせー、もしかして恥ずかしいんですか?」と言われたみたいだけどニヤニヤしながら「ショートホームルームが始まってからのお楽しみだから絶対に口外するな!」と口止めしていたみたいだ。
抽選の方は順調に進み既に半数以上がクジを引いている。俺が座っていた後方12番の席は堀江さんに引き当てられたから、そこに座る事はない。歩美ちゃんは今回は31番。つまり廊下側最前列の席だ。歩美ちゃんの次は唯の番だ。唯の次が俺で、その次が藍になる。
唯が気合を込めた顔で左手を抽選箱に入れてクジを引いて・・・19番を引き当てた。この位置は最前列の窓側から見て4列目だ。
その次は俺だ。俺は右手で抽選箱から適当に選んだ紙を引き抜き、無造作に開けた・・・が、それを見た瞬間、思わず絶句してしまった!そこには『13』と書かれていたからだ。つまり唯の左だ!
俺が『13』と書かれた番号を全員に見せた時、教室内に一瞬だが緊張した空気が走った・・・。そりゃあそうだろうなあ、俺の取り合いをしている片割れが1学期に続いて隣の席に座るのだから。しかも今度は教壇の真ん前なのだ。
だが、騒ぎはこれで終わらなかった。藍が次にクジを引いたのだが『7』と書かれていたからだ。山口先生だって「おーい、勘弁してくれよお。本当ならクジを最初からやり直したいぞ」とボヤいたが、今更発言を撤回する訳にはいかない。結局、俺たち佐藤きょうだいは1年生の3学期、2年生の1学期に続いて三度同じ並びとなった。俺を巡って昨日の朝に修羅場(?)を演じた二人が俺を挟んで睨み合う構図を、しかも教室の一番前の真ん中でやる事になったのだから教室中が静まり返ったのは言うまでもない・・・。
全ての抽選が終わった。因みに藍の左である1番は藍派会長の内山、唯の右である25番は唯派会長の中村が引き当て、さらに唯派副会長の神谷は唯の後ろである20番を引き当てたのだから、この三人は超がつく程のご機嫌だ。俺の後ろはクラス委員の村田さんだ。逆に泰介は大声で「頼むから32番!」と言って両手を合わせて祈祷(?)してからクジを引いたのだが不幸にも『6』を引いた。つまり窓際最後方で、歩美ちゃんとはまさに対角線の位置に座る事になったのだから超がつく程に落ち込んでいたのには少しだけど同情させられた。
「おーっし、じゃあ1時間目の授業を始めるから早く移動しろー!」
そう山口先生が俺たちに席替えを指示したから俺たちは席替えをしたが・・・考えようによっては俺はクラス全員の注目が集まる場所に座らされたって事だよなあ!?俺の一挙手一投足が注目されるのだから、ますます藍を選ぶのか唯を選ぶのか、軽い気持ちで選べなくなった・・・ホントに胃が痛くなってきた
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