第247話 〇〇でビビらせたと思ったら、そのまま・・・

 俺と藍、それと唯は三人で顔を見合わせた後、頷きあって扉に手を掛けて少しだけ風紀委員室の扉を開けた。

 そこには藤本先輩と篠原がいたが、藤本先輩は顔を真っ赤にして怒り心頭といった感じだが、逆に篠原は真っ青になっている。

「篠原、お前、何か言ってみろ!」

「勘弁してくださいよお。まさかお土産買って来いっていう意味だとは思わなかったから、ホントにゴメンナサイ」

「あのさあ、わたしが直接手渡しで現金を渡した時に『〇形焼きでも東京〇ななでも構わないから適当に選んでくれ』と言ってたのを忘れたのか?」

「ホントに済みません!!今になって思い出しましたあ!」

「勘弁してくれよお。じゃあ、あのお金はどうしたんだよ!」

「てっきり餞別だと思ってたから東京から帰った後に拓真と長田の三人でボストで残念会をやった時のケーキ代に使っちゃいました」

「マジかよ!?人の小遣いをケーキにしたのかよ!」

「だからホントにゴメンナサイ!」

「謝って済む問題じゃあないだろ!」


“ドン!”


 うわっ!藤本先輩、ここで壁ドンかよ!しかも女が壁ドンやって男がビビってるって立場逆じゃあないか!?藤本先輩の迫力に篠原のやつ、完全にビビってるぞ!


「しのはらー!お前のように言っても分からない奴にはこうしてやる!」


「!!!!!」

「!!!!!」


 えーーーーー!!!!!

 藤本先輩ったら、壁ドンで篠原をビビらせたと思ったら、そ、そのまま篠原にキスしてやがる!それも、く、唇に!!しかもいきなり大胆に抱きしめながら!!!

 おいおい、何秒やってるつもりなんですかあ?かれこれ30秒以上やってますよねえ。見てる方が恥ずかしくなってくるんですけどお、俺たちが覗いてる事に気付いてないんですかあ?あー、いや、気付いてたら絶対に抱き着いたりキスしたりしないよなあ・・・。


「・・・あのー・・・藤本先輩・・・もしかして以前からおれにあーだこーだ言ってたのは・・・」

「・・・ったくー、お前は超がつく程の鈍感だなー。こうでもしないと分かってくれないのかあ?」

「・・・今、ようやく分かりました」

「少なくとも満員電車の中でドサクサに紛れて抱き寄せた時に気付けよー、アホ」

「・・・トーチュウにポスターを届けに行った時の話ですよね。あれは電車が揺れた時におれの方に倒れ込んできたのかと思ってた」

「はーー・・・まあいいや。ところで、まさかとは思うがこれだけの恥ずかしい事を今年の『ミス・トキコー』にやらせておいてゴメンナサイと言ったらタダでは済まさないぞ」

「と、とんでもないです!こちらこそよろしくお願いします」

「分かればよろしい。それじゃあ今後は藤本先輩は禁句だ。真姫と呼べ」

「えー!それは勘弁してくださいよお。もろバレじゃあないですかあ」

「仕方ないなあ。じゃあ学校の中では真姫先輩で勘弁してやる。その代わり、一歩学校を出たら真姫と呼べ。それと、お土産の代わりと言っては何だが放課後は付き合ってもらうぞ」

「はいはい、わかりました。図書室にでも行ってますから巡回と生徒会が終わったら呼び出してください」

「『はい』は1回だけ!」

「はい!気をつけます!!」

「分かればよろしい (^_-)-☆」


 ヤバイ!藤本先輩がこっちへ来るぞ!!

 俺と藍、唯は慌てて扉を閉めてから離れ、ワザと10歩以上離れた廊下まで下がった。そのまま風紀委員室へ歩いていくフリをして藤本先輩が風紀委員室の扉を開けて廊下へ出て来た時にワザとらしく立ち止まって

「あ、藤本せんぱーい」

「藤本先輩、今朝は大変失礼いたしました」

 そう言って俺たち三人は深く頭を下げた。でも俺は内心笑いを堪えるのに必死だった。何しろ藤本先輩が風紀委員室から出た来た時に、あきらかに俺たちの顔を見て狼狽していたからなあ。それに藍も唯も笑いたいのを堪えているのが丸わかりだ。

「さ、佐藤きょうだいかあ。び、びっくりしたぞ。な、何で三人揃って頭を下げてるんだ?」

「あのー、今朝は正門の前であれだけの騒ぎを起こして、挙句の果て藤本先輩を睨みつける暴挙に出た事はホントに弁解の余地はありません」

「あ、あ、あれ、あれの事だよなあ。う、うん、うん、わ、わたし個人としては別に気にしてないから大丈夫だ。そ、それより、お、尾ひれ背ひれがついて変な噂話が広まらないよう、ふ、風紀委員会としても気を配らねばならないからなあ。ま、まあ、そこは明日の会合で議題に上げるつもりだけど、唯、お前も言い訳の一つや二つは考えておけよ」

「はい、わかりました」

「じゃあ、わたしは巡回に行ってくるぞー。そういう訳だから風紀委員室に行っても誰もいないから拓真も藍も唯もあっちへ行こう!」

「「「はい、分かりましたー」」」

 俺たちは藤本先輩に引きずられるような形で風紀委員室に背を向けたけど、藤本先輩が珍しく愛想笑いをして俺たちの気を後ろに向けないよう必死になっているのが正直笑えた。まあ、あそこで俺たちが風紀委員室を覗き込んだら風紀委員室に篠原と二人だけでいた事がバレちゃうから必死になって隠そうとしているんですよねえ。いつになくアセアセしてるのが丸分かりですよ!?

 それにしても篠原の奴、ようやく藤本先輩の事に気付いてくれたかあ。でもなあ、この後に相沢先輩はどう動くのだろう?今朝の藍と唯のように『トキコーの女王様』と『白雪姫』の全面戦争になるのか、それとも相沢先輩が黙って身を引くのか・・・他人事ひとごとのようで申し訳ないけど明日以降が見物みものだな。

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