第245話 誠心誠意謝ろう
ここでチャイムが鳴ったので休み時間になった。今日はもう1時間ロングホームルームをやれば終わりだから特に授業がある訳ではない。山口先生は教室を出て行ったけど、クラスの連中は早速山口先生が実は既婚者だという事を他のクラスの連中に話をしに行ったりメールするなどして騒ぎ立てていた。
俺はというと・・・泰介と歩美ちゃんが気を効かせて俺を廊下へ連れ出して
「たくまー・・・お前が来るまで結構キツイ話が出てたぜー」
「どんな話が出てたんだあ?」
「内山なんか『藍さんという人がいながら唯さんに走った拓真は許さん!』とか言って鼻息を荒くしてたし、逆に中村は『唯さんが藍さんから拓真を横取りしたなんて信じられない』とか言って目茶苦茶凹んでたぞ」
「それにさあ、去年山口先生に説教された連中はどのクラスでも揃いも揃って『拓真が藍さんと唯さんを天秤に掛けて遊んでたツケが回った』とか言ってたからねー。みんな事情を知らないから言いたい放題だったわよー」
「結果論から言えば山口先生の捨て身技でみんなを黙らせたって事だよなあ。俺はますます山口先生に頭が上がらなくなった・・・」
「それもそうだよなー」
「たいすけー、そうなると例の賭けはどうなるんだ?」
「賭け?あー、お茶戦争とアンパン戦争の事かあ?」
「そっちじゃあない。山口先生の方」
「あー、あれね。誰一人として『既に結婚している』に賭けた人はいないから不成立よー。というより、浮いた話が出るどころかずっと以前に結婚していたんだから賭け自体が無効よねー」
「だろうな。おれは2番人気の『今年度中は無い』に賭けてたけど、結婚していて浮いた話が出てきたら逆にヤバイよなあ」
「わたしは超大穴の『●●先生とくっ付く』に賭けてたからある意味助かったけどー」
「俺はブービー人気の『■■先生とくっ付く』だったからなあ。俺も正直ホッとした」
「ところで兄貴さあ、藍ちゃんと唯ちゃんは次のロングホームルームに出るの?」
「さあな。山口先生の考え次第だと思うけど」
「もし来たらどうするつもりだ?」
「・・・今の俺はどっちの味方にもなれないぞ。それとも泰介も歩美ちゃんも俺にどっちかの肩を持てと言いたいのか?」
「おいおい、おれはそんな気は一切ないぞ。お前が改めて中立を宣言してくれてホッとしてるけど、間違いなく拓真は中立だよな」
「ああ、俺も正直さっきの出来事でマジでビビったから、どっちかの味方をするのは非常にヤバイと分かったからなあ」
「兄貴さあ、わたしたち『仲良し五人組』はどうなると思う?」
「さあな。下手をすると『仲良し三人組』になるかもな」
「だよなー」
「わたしもそう思うよー。しばらくは藍ちゃんと唯ちゃんは顔を合わせないかもねー」
藍と唯は次のロングホームルームには出席したが、山口先生に連れられて教室に入ってきた時には二人共物凄く緊張した顔をしていた。ただ、取り立ててみんなが騒ぐ事もなかったし山口先生も普通に話してたからそれは最初だけだった。でも、最後まで唯は笑顔を見せる事はなく、藍もクールな顔は一切見せずどちらかと言えば無表情に近い感じだった。
2時間ある筈だったロングホームルームが1時間だけになった事で結構慌ただしかった。提出物を出した後に学校側からのプリントの配布、それと明日以降の注意事項を簡単に説明しただけで終わった。本当なら今日やるはずだった席替えは明日の朝のショートホームルームでやって1時間目の国語が始まる前に終わらせる事になった。
帰りのショートホームルームがかなり伸びてしまったけど下校となった。
運動部は全部が活動しているけど文化部は吹奏楽部などの一部を除いて本日は活動していない。唯も放課後の巡回担当にはなっていない。本来なら俺は泰介たちと帰るか、あるいは藍と唯の三人で帰るかのいずれかになるのだが・・・俺と藍、唯は山口先生に呼び止められて職員室へ来るように言われたので山口先生についていく形で職員室へ向かった。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
俺も藍も唯も職員室へ向かう間は一言も喋らなかった。いや、正しくは俺は荷物持ちをやらされたから両手いっぱいの荷物を抱えながら正面を向いて歩いてたけど、藍も唯も荷物持ちをやっていたにも関わらず項垂れたようになって前を向いて歩いてないのだ。藍も普段も女王様ぶりが影を潜めて縮こまっているし、唯も別人のようになって落ち込んでいる。
まあ、たしかに正門前で『トキコーの女王様』藤本先輩をもビビらせる大騒ぎ(?)を起こした挙句、校長室に軟禁(?)され、挙句の果てには山口先生が自分の髪を自分で切り落とす事態にまで発展させた責任は誰にあるのかと言われたら一目瞭然なのだから、これで普段通りに振舞えと言われたところで出来る奴はいない。俺だって自分がどう振舞えばいいのか分からなくて半ば自分を見失っているというのが本音だ。
俺たちは山口先生についていく形で職員室に入って行ったけど、何故か山口先生は俺たち三人が持ってきた夏休みの課題やプリント類を机の上に置いたら
「おーい、行くぞー」
「あのー・・・どこへ行くんですか?」
「決まってるだろ、お前たちの家だ」
「「「はあ?」」」
「心配するな。お前たちの親に怒鳴り込む訳じゃあない。ただ単に送っていくだけだ」
「いや、それだと先生に悪いですよ」
「たくまー、お前、校内の連中の奇異な目にさらされた中を帰りたいのか?」
「そ、それは・・・」
「藍も唯も立場がないんじゃあないのか?新旧生徒会副会長があれだけの騒ぎを起こして、そんな状態で帰れるのか?」
「「・・・・・ (・_・;) 」」
「だから送っていく。でも、その前に校長先生の所へ行ってくる。さっき戻ってきたから事情を説明してくる。かれこれ15分か20分くらいかかると思うから、その間に用事は済ませておいてくれ」
それだけ言うと山口先生は鞄を持って職員室を出て校長室へ向かった。
俺たち三人は取り残された様になったが、だからと言って他の先生と雑談する訳にもいかないし・・・
“グイグイ”
あれ?誰かが俺の左袖を引っ張ってる?
俺は左を向いたけど、唯が
「・・・たっくん、さっきお姉さんとも話してたんだけど、生徒会室へ行こうよ」
「生徒会室?」
「そう、生徒会室」
「何の為に?」
「さすがに藤本先輩に一言詫びないとマズいでしょ?私も唯さんも正門の真正面で藤本先輩をガン見してるでしょ?恐らく藤本先輩はカンカンよ」
「唯もそう思うよ。唯なんか風紀委員の立場を無視してタイマン張ってたからね」
「たしかに・・・」
「とりあえず、三人で謝りにいこうよ」
「おいおい、俺は完全な被害者だろ?」
「えー、たっくんも来てよー。唯とお姉さんだけで行くのは正直怖いよー」
「お願い!私も今回ばかりは藤本先輩に怒鳴られるのを覚悟してるけど、唯さんと二人だけだとマジでヤバそうな気がする・・・」
「はー・・・分かった。じゃあ俺も行くから三人で誠心誠意謝ろう」
「「ありがとう」」
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