第242話 バレてしまった・・・

「「「「「「「「「「えーーーーーー!!!!!!」」」」」」」」」」


 突然の藍の行動に水色ネクタイの集団が驚きの声を上げた。ある者は驚いたような顔をして、ある者は歓喜の顔をして、ある者は泣きそうな顔して藍を見ている。

 俺も突然の事で何が何だか最初は分からなかったが、藍が俺と腕を組んで歩き出した事で全てを理解した。そう、藍はこのタイミングで、まさに唯が見ている前で以前の言葉通り唯から俺を奪い取る行動を起こしたのだ!

「あ、あい、ちょっと待てよ」

「拓真、何か言った?」

 藍は女王様を彷彿させるクールな瞳で俺を見ている。その瞳で睨まれた俺は何も言えなかった。ついさっきまで俺は唯を選ぶと決めていた筈なのに、その事さえも言い出せなくなっていた。「しまった」と思ったけど全ては後の祭りだ。

 冷静になって考えてみれば、唯が俺との仲を公にすると言った時点で唯の心境に明らかな変化があった、つまり、唯が「彼女であると同時に義理とはいえ妹である」という事を認めた時点で、唯が甘えを捨てて自立したという事に気付かなければならなかったのだ!それは同時に藍に頼らない、つまり、夜、寝る時に引き戸を開けない事を意味するのだから、藍も当然姉である事をやめるという事だ!

 しかも、まだ唯は俺との仲を公表していない。あの小心者の唯がこんな大勢の前で交際宣言をするだけの度胸があるとは思えない!風紀委員としての立場もある。となれば唯は大人しく見てるだけだから、周囲が勝手に藍の勝ちを認め唯は自身の負けを認めるしかなくなる!!

 まさかこのタイミングで藍が仕掛けてくるとは・・・想定外の事態、しかも「これしかない」と言わんばかりのタイミングで仕掛けてきた。まるで全てお見通しであったとしか思えないタイミングだ。

 当然だが唯の目の前で藍が俺と腕を組んで歩き始めたのだから、唯も何の事か気付いた。

 唯は一瞬だけ躊躇する仕草を見せたが、顔を真っ赤にして唯は左腕につけた風紀委員の腕章を外してスカートのポケットに入れるとズカズカと歩いてきて俺と藍の前に立ちはだかった。おい!まさかとは思うがここで『A組の女王様』と『A組の姫様』のバトルをするつもりかあ!!

「ちょっと、これはどういうつもりなのよ!」

「見れば分かるでしょ。拓真を返してもらっただけよ」

「返してもらった?」

「そういう事よ。それだけ言えば分かるでしょ」

「たっくん、それって本当なの?」

「そ、それは・・・」

 結局、俺はその言葉しか言えず後は黙ってしまった。藍は勝ち誇ったような顔をしているし、唯はあからさまに不機嫌な顔をしている。

「人から勝手に奪っておいて返してもらったとはいい身分ね!元カノの分際で寄りを戻したとでも言いたいの!」

「寄りを戻したとは酷い言い方ね。昨日だって最後のお情けでデートさせてあげた事に気付かなかったの?ただ単に貸していただけという事に気付かなかったあなたが鈍感だったという事を自覚しなさい」

「貸していたとは上から目線もいいところよ!結局は唯から大切な物を奪っていい気になってるだけじゃあないの!」

「口の言い方に気をつけなさい。自分の立場を分かって言ってるの?」

「立場?よくもそんな言葉をこの場で言えるわよねえ」

義妹いもうとの分際で義姉あねに歯向かうとはいい度胸ね。お仕置きが必要なようね」

「誕生日が半年しか違わない、学年も一緒、それなら義姉あね義妹いもうとも関係ないわ。そんなの勝手な言い分よ!たっくんの手を今すぐ離しなさい!!」

「だから『たっくん』と呼ぶのは止めなさい。何度も言うけどお義兄にいさんに失礼でしょ?」

「そっちこそ呼び捨ては失礼よ!せめて『くん』をつけてやらないと義姉あねとして失礼じゃあないかしら?」

「揚げ足を取ったつもり?それとも屁理屈?」

「事実を述べただけよ!たっくんは渡さないわよ!」

「拓真は渡さない。その一言で十分よね」

「たっくんの意思も確認しないで渡さないもヘッタクレもないわよ。たっくんは唯を選ぶとハッキリと意思表示をしているわ!」

「それなら、なぜ拓真は私の腕を離そうとしないの?あなたを選んだのならこの腕を離せば済む話でしょ?それをしないという事は、拓真は私を選んだという証拠よね」

「たっくんの顔が恐怖で引きつってるわ。そんなの証拠にならない!」

「そういうあなたの言葉を証明してくれる人はいるの?いる訳ないわよねえ」

「たっくん、何か言ってよ!」

「・・・・・」

 俺は唯に言いたい事が沢山あるのだが、藍がその目で俺を見ているから俺は何も言い出せない。殆ど『蛇に睨まれた蛙』状態だ。藍はますます勝ち誇ったような顔をしているし、唯は唯でますますヒステリックな顔になっている。

「おーい、ちょっと待て!こんな場所で修羅場してるんじゃあない!特に唯、風紀委員の立場をわきまえろ!」

 唯の後ろから藤本先輩が走ってこっちへ向かってきた。どうやら騒ぎを聞きつけて藤本先輩が飛んできたというのは直ぐに分かったのだが、藍と唯が凄まじいまでの殺気を漂わせて藤本先輩の前に並ぶような形で睨み返したから、『トキコーの女王様』藤本先輩も逆にビビってしまって何も言い出せなくなってしまった。その二人に挟まれるようにして立っている俺はビビるどころか逃げ出したいくらいだ。自分でも分かるが間違いなく顔が真っ青になっているはずだ。藍が手を離してくれないから仕方なくここにいるけど、マジで怖くて逃げだしたい。

 藤本先輩が何も言い出せなくなって立ち尽くしてしまったから、その後は藍と唯は正門の前で睨み合いになった。殆ど顔を突き合わせたかのような距離で睨み合っているから、当然だが俺たちの周囲の連中は腫れ物を触るかのように避けて立ち止まって見ているし、俺は藍に左腕を組まれてるから離れるに離れられない。しかも藍も唯も殴り合いを始めてもおかしくない程の殺気を漂わせている!


「お前たち、いい加減にしろ!」


 その一言で藍も唯も殺気を引っ込めた、というよりさっきまでの態度が一変して真っ青になって立ち尽くしてしまった。藍に至っては右手を俺から離してシュンとなってしまった。そう、山口先生が『トキコーの〇クセン』を全開にして藍と唯を怒鳴りつけたからだ。当然だが藤本先輩まで真っ青になっているし、周囲にいた連中まで真っ青になっている。もし山口先生が爆発したら・・・校長先生も理事長も止められない!

「とにかく、佐藤藍、佐藤唯、佐藤拓真!三人とも校長室へ来い!」

 そう怒鳴りつけると、藍と唯の腕を両方の腕で抱え込んで連れて行った。俺は茫然と立ち尽くしているだけだったが、山口先生が「たくまー!お前も来い!」と再び怒鳴ったから、慌てて俺も山口先生の後ろについて行く形で走って行った。

 とうとう、藍と唯が修羅場に突入した・・・血で血を洗う抗争の勃発だ。

 それに・・・藍も唯も、俺も義理とはいえだという事がバレてしまった・・・。

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