第243話 何も言えなかった

 俺たち3人は校長室でみっちりと絞られて・・・ではなく、校長先生は不在で藍と唯だけが校長室に入るように山口先生から言われて大人しく入って行ったが、俺は山口先生に生徒指導室へ連れていかれた。

 山口先生は俺に座るように言った後、生徒指導室の扉を閉めた。生徒指導室には俺と山口先生しかいない。

 山口先生は俺の正面に座ると「はーーー・・・」と深いため息を吐いた。

「・・・たくまー、お前、どっちを選んだ?」

「・・・すみません・・・本当は唯に決めたつもりだったんだけど、藍に言えなかった。いや、藍の気迫に負けて言い出せなくなった・・・」

「そうか・・・藤本でも手に負えないほどの修羅場に突入か・・・」

「・・・恐らく藍も唯も相手が負けを認めるまでは諦めないと思います」

「だろうな。こうなった以上、逆にお前がどちらかに肩入れするのは火に油を注ぐのと一緒だからやめた方がいいだろう」

「・・・・・」

 俺は何も言えなかった。

 本当はあの場で「俺は唯を選んだ」と言えば良かったのだが、あの藍の目を見せられたから言い出せなくなった。気迫に負けたと言うのは嘘だ。藍は小樽で「私の気持ちは今でもずっと変わってない」「逆に止まってしまった」と言っていた。藍の時間を止めたのは俺だ。その責任を取ってない事に気付かされたというべきなのかもしれない。俺は唯だけを見ていればいいと思っていたのは独り善がりだったのかもしれない・・・。

「・・・あいつらが勝手に暴走したという訳か・・・」

「すみません・・・」

「いや、お前のせいではない。お前なりに苦労したというのは先生にも分かる」

「・・・・・」

「だがなあ、あの二人のせいで先生も立場がないなあ」

「・・・どういう事ですか?」

「藤本はどう思ったかは知らんが、生徒どもはお前が二股していると思い込んでる奴がいても不思議ではないぞ。そういう連中は決まって先生に「拓真をなんとかしてくれ」って言ってくるからなあ。そうなると先生はお前を見逃す訳にはいかない。しかも、既にお前らが義理のきょうだいというのを喋った馬鹿が二人もいるから、隠す事も出来なくなった。拓真に二股しろと命じたのは先生だから拓真一人に全ての責任を押し付ける訳にもいかないからなあ・・・」

「・・・すみません」

「とにかく、二学期の始業式には藍と唯は出さない。悪いが拓真もショートホームルームと始業式は出なくていいからこの部屋にいてくれ。藍と唯の二人はあの部屋に閉じ込めて反省してもらう。幸いにして校長先生は急用ができて外出したから反省室代わりに使わせてもらっている。職員室との間にある扉は全開になってるから、あそこで口論になったら隣の職員室に丸聞こえだから大人しくしている事しか出来ない。お前たち三人は始業式が終わった後に先生と一緒にクラスに行ってもらうが、とにかく何も喋るな、いいな」

「はい・・・」

 それを言うと山口先生は「校長室へ行ってくる」と言って立ち上がったけど、普段の山口先生からは考えられないような悲壮感を漂わせていた。俺も何か山口先生に申し訳なくなってきて、黙って山口先生の後ろ姿を見送る事しか出来なかった。

 さっき、俺は山口先生の後ろをトボトボと歩いている時に浴びせられた他の連中からの視線が痛かった。みんなは俺の事をどう思っていたのだろう・・・単なる軽薄な奴だと思っていたのか?藍と唯の両方から迫られても決められない程の決断力が無い無能男?それとも合法ハーレム男?・・・みんな、どういう印象を持っていたんだろう・・・

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