第238話 マジで勘弁して欲しいぞ その7
俺と唯はまだ6時だというのに家を出た。これから泰介の家へ行って泰介と歩美ちゃんに宿題をやらせるためだ。
実は・・・唯は朝から超がつく程不機嫌なのだ。
今年も泰介は俺に、歩美ちゃんは唯に泣きついたのだが、二人共藍に情報が筒抜けになるのを知っていて泣きつくのだから説教覚悟でいたとは思うが、何故か藍は「私は別の所へ行く事にしているから拓真君と唯さんが行ってね。それに歩美さんは唯さんに頼んだのよね」とか言って、クールな目であっさり引き下がった。去年はそれこそ俺がビビるくらいにキレたのに・・・。
だが、唯にとっては歩美ちゃんの泣きつきも、藍の押し付け(?)も迷惑この上ない。何しろ本当なら唯は俺とデートする気満々だったのだから。その夏休み最終日の楽しみを潰された挙句宿題を手伝わされるのだから、不機嫌になるのも当たり前だ。
だから朝から不機嫌なのを隠さないし、さっきだって半ばキレて玄関のドアを『バターン!』と勢いよく閉めて出てきたくらいだ。
「ホントにあの二人、全然反省してないわね!」
「まあ、そんなに怒るなよ」
「お姉さんの一言が無かったら絶対に拒否してたわよ!ぷんぷーん!!」
「歩美ちゃんだってそれが分かってるから、わざわざオ・タルのケーキで唯を釣ったんだろ?しかも2個だぞ」
「それとこれとは別問題!」
「じゃあ、オ・タルのケーキは俺が一人で食べても文句ないよなあ」
「そ、それは・・・わーかったわよ、ちゃんとやりますよ」
「その代わり、俺のケーキを1個やるからさあ、機嫌直してくれよ」
「えっ?いいの?じゃあやりまーす」
おいおい、唯の奴、結局物に釣られてやる気を出したじゃあないか!?ホントに唯は甘い物には目が無いからなあ。
そのまま俺と唯は東西線からJRの学園都市線に乗り継ぎ、7時半頃には泰介の家へ着いた。泰介の家に行ったら歩美ちゃんは既に来ていた。というか、同じ学園都市線沿いに住んでいても泰介の家の方が札幌駅に近いから歩美ちゃんに「泰介の家へ来い」と言って呼び出したと表現するのが正しい。当然だが3駅しか離れてないから歩美ちゃんの方が先に来ているのも当たり前だ。
「「お邪魔しまーす」」
「おー、待ってたぞー。遠慮しないで上がってくれー」
「たいすけー、頼んだ側なのに結構態度デカいぞ」
「わりーわりー、あのテキストの山を見るとやる気が失せちゃうんだよなあ」
「泰介くーん、『千里の道も一歩より』だよ」
「あー、スマン、分かっているつもりだったけど、結局今日まで手付かずでさあ」
「はあ?お前、今の言葉は本当か!?」
「スマン・・・」
「はああ・・・泰介くーん、さすがに今の一言には唯も引いたよー」
「今日ばかりは甘んじて批判を受けます・・・」
「たいすけー、玄関で話すのも何だから早速始めようぜ」
「ああ。じゃあ、客間にテーブルを出してあるから、そこに行ってくれ。テーブルの上にジュースやお菓子が置いてあるから適当に食べていいぞ」
「泰介くーん、先に行ってるよー」
「歩美は既に宿題と格闘中だぞー」
「はいはい」
俺と唯が並んで客間に入ると歩美ちゃんが既に宿題をやっている最中だった・・・のだが、明らかに全部持ってきている!もしかして何もやってなかったのかあ!?去年は紛いなりにも半分近くやってあったのに・・・ったくー。
「あーーー!やっと来てくれたあ。唯ちゃーん、頼むからテキスト写させてー」
「はー・・・たっくんから聞いたけど去年はテキスト丸写しが出来なかったら結構大変だったみたいだけど、今年はどうするつもりだったのー?」
「だーかーら、唯ちゃんに頼んだのよー。テキスト持ってきてくれたんでしょ?」
「まあ、たしかに持ってきたけど・・・」
そう言うと唯は持っていた鞄を開けて、そこから全部のテキスト、プリントを取り出した。もちろん全部唯の物で、俺は持ってきてない。
「歩美ちゃんさあ、これを全部写すだけで確実に夕方まで掛かりそうだよねえ」
「そんな事を言ってる暇があったら早く貸してよー」
「はいはい」
歩美ちゃんは唯の鞄から英語のテキストを取り出すとバサバサッと乱暴に目的のページを開くと一心不乱に写し出した。はー・・・これでも去年のクラス委員だよなあ。
「あのね歩美ちゃん、真面目な質問だけど、昨日の段階でどこまでやってあったの?」
唯は真面目な顔をして歩美ちゃんに話し掛けたけど、歩美ちゃんは唯の顔を見る事なくテキストに一生懸命答えを書き写しながら
「あー、えーとねー・・・自慢じゃあないけど一文字も書いてなかったよー」
「「はあ?」」
「まあ、そこは夏休み最後の行事を盛り上げる為にわたしなりに努力した結果っていう事よねー」
「あゆみー、それは単なる屁理屈だろー?」
「そういう泰介はどうだったのよ!」
「へへーんだ。俺は自慢じゃあないけど、世界史を3日分終わらせてあるぞー。お前とは格が違うという事を思い知れ!」
「あのさあ泰介君、唯から言わせれば『五十歩百歩』だよ」
「うっ・・・たしかに」
「それに今の泰介君の発言は、まさに『
「そういう事だ。泰介も歩美ちゃんも『同じ穴の
「「すみません・・・」」
「とにかく、泰介もどんどんやれよ。それとさあ、読書感想文はどうするつもりだったんだあ?」
「あーーーー!おれもすっかり忘れてたあ!!唯さーん、読書感想文も持ってきてる?」
「あっきれたー。さすがの唯も読書感想文は持ってきてないよー」
「えー!たくまー、何かいいアイディアないか?」
「たいすけー、お前の部屋にコミックの三国志が全部揃ってるだろ?あれは三国志演義の小説をコミック化したんだからさあ」
「おー、ナイスアイディア!三国志ならおれにも分かるぞ」
「だったらさっさとやれ!」
「じゃあ、おれは読書感想文から。こんなの10分もあればお釣りがくるさ」
「そういう歩美ちゃんは?」
「わたしも読書感想文はやってないけど『若草物語』のコミック版は持っていて知ってるからそれをやる!」
「あゆみー、それってお前の部屋にある小学生向けのコミックだろ?」
「コミックだろうと小説だろうと若草物語は若草物語よ!背に腹は代えられないわよ!!でも、まずは英語!!!」
ったくー、お前らさあ、山口先生がこの話を聞いたら間違いなく『トキコーの〇クセン』全開で説教されるぞ!一体、夏休みを何だと思ってたんだあ!!単なるラブラブタイムかあ?
泰介も歩美ちゃんも、マジで勘弁して欲しいぞ!
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