第233話 そろそろ本当の事を言うべきじゃあないですか?答えは1つしか見付かりませんよ 

 俺と舞は大通駅で東西線を降りて、そのまま待ち合わせ場所である地下街のマイスドに行ったが、予想していた通り泰介と歩美ちゃんは先に来ていて二人でコーヒーを飲みながら談笑している最中だった。

「おーい、お待たせー」

「遅いぞー、というか、どうして舞ちゃんがいるんだあ?」

「いやあ、色々あって舞もついてきてるんだ」

「まあ、今は兄貴の言う事を信用する事にしましょう。それより何か注文してきたら?」

「分かった。じゃあ、ちょっと待っててくれよ」

 俺も舞も適当なドーナツとコーヒーを注文すると再び席に戻ってきたが、俺の横に泰介、俺の正面に舞、舞の横に歩美ちゃんが並ぶ形で座った。泰介と歩美ちゃんは結構な時間ここにいたのではないかと思うくらいにミルクの空き容器が転がっていた。

「・・・んで、拓真がおれたちに話したいって件は一体何だ?」

「・・・唯と喧嘩した」

「ちょ、ちょっと待ってよ!舞ちゃんがいる前で言ってもいいの?」

「・・・舞は既に知っている。というか5月の後半の段階で気付いていた」

「・・・そう、兄貴がヘマをしたんじゃあないのね」

「すみません、わたしが勝手に気付いただけです」

「たしかに舞ちゃんの観察眼だったら気付いても不思議ではないよねー」

「まあいいや、それで、お前はおれたちにどうして欲しいんだ?」

「実は・・・2つ頼みがある」

「「2つ?」」

「1つ目は唯との仲介役をやって欲しい。それと、もう1つは俺の不自然さを取り繕うために協力をして欲しい」

「「協力?」」

 俺は正直に話した。夏祭りに藍と唯と俺の三人で行って唯と傘の取り合いになって祭り会場を飛び出していたこと、ずぶ濡れになった俺を舞が見付けて、舞の家で雨宿りをさせてもらったこと、その時に乾燥機を借りて服を乾かしてもらったこと。でも、唯からも藍からも連絡が入ってないことなどを順を追って説明した。

 ただ、やはり舞との間で起きた出来事だけは話せなかったので、それを匂わせる話は一切ださなかった。

 泰介と歩美ちゃんにお願いしたのは、この後、しばらく一緒にいて帰る前に唯のところへ泰介か歩美ちゃんの方から『一緒に遊んでた』と電話をして欲しいと伝えた。

 泰介も歩美ちゃんも半ば呆れたような顔をしていたが

「・・・そういう事があったのか。お前にしては珍しいな」

「でもさあ、何で舞ちゃんの家に行ったの?それに舞ちゃんの家族は兄貴が来たのを知ってるの?」

「あー、母がずぶ濡れの拓真先輩を気遣って風呂に入るよう勧めたんです。母はさっき仕事に行って今はもういないから、わたしも拓真先輩についてきただけです」

 はー・・・舞のやつ、サラリと言ってのけたけど、これはお前のアイディアだぞ。お前のお母さんがある意味娘を放任しているから言える事であって、もしバレたらお前も疑われるぞ。まあ、舞のお母さんもルーズだから舞に話を合わせる筈だとは言ってたが確証はないからな。でも、そこまで問い詰める奴がいるとは思えないから、ここは泰介と歩美ちゃんが信じてくれるのを祈るのみだ。というより、この話を信じてくれないと先に進まない。

「へえ。舞ちゃんのお母さんがいたなら変な事をしてないと思うけど、兄貴さあ、来週の本選をパーにするつもりだったって事を理解してるの?」

「それは・・・舞にもケチョンケチョンに言われた・・・」

「じゃあ、その件はこれでお終いという事でいいんじゃあないの?泰介は?」

「拓真が結構シュンとなってるって事は反省してるんじゃあないのか?おれもお終いでいいと思うぞ」

「じゃあ、決まりね。後は唯ちゃんにどう謝るかだけど、今日はとりあえず帰ったら?今夜のうちに唯ちゃんにはわたしから電話しておくわよ。明日、わたしと泰介が一緒にいてあげるからその場で仲直りって事でどうかしら?」

「おれもそう思うぞ。拓真だって毎日クイズ漬けだったから他に用事がないんだろ?だったらそれでいいと思うぞ。決してお前に悪いようにはしないからさあ」

「・・・・・」

 俺は何も言えなかった。本当は家に帰ると唯と顔を合わせる事になるから、その場で唯に謝らないといけなくなる。俺は唯と顔を合わせるのが怖いから泰介か歩美ちゃんが電話口で唯を説得して欲しいけど、さすがにそれは俺のわがままだ。一緒に来てくれるのが一番だが、それを頼むという事は俺と唯が同居しているというのを話さないといけなくなる。でも、それをこの場で言ってもいいのだろうか?


「・・・拓真先輩、そろそろ本当の事を言うべきじゃあないですか?」


 この舞の一言に俺は心臓が止まるのではないかという衝撃を覚えた。

 だから思わず舞をマジマジと見てしまった。でも、この場所でこれを言ってしまったら・・・


「舞、何の事だ?俺には意味が分からないんだけど・・・」

 俺はあくまで惚けた顔で言ったけど、舞の顔は真剣そのものだ。いや、既に目が座っている。なんらかの決心を持って俺に話し掛けているとしか思えない。

「拓真先輩がなぜ夜遅くまで小野先輩や杉村先輩と一緒にいた事にして欲しいのか、どうして電話で唯先輩に連絡して欲しいのか、その本当の理由を言わないと小野先輩たちも納得しないですよ」

「・・・・・」

「舞ちゃん、どういう意味?」

「おれにも理解できないぞ。舞ちゃんは何か知ってるのか?」

「いいえ、知りません。ですが、拓真先輩がさっきボロを出しましたので全て理解できました」

「「ボロを出した?」」

「!!!!!」

 えっ?・・・いつ、何をしたんだ?俺には心当たりがないんだけど、一体、あいつは何をきっかけに・・・


「・・・村山先輩が推理していた事、藍先輩がかつてわたしに言った拓真先輩と藍先輩と唯先輩の関係、それと、その時に藍先輩が言っていた『もう1つの関係』という言葉、それと『守るべき子』という言葉、そこにさっき拓真先輩が言った最後の言葉『正直、帰りたくないなあ。今は顔を合わせたくないからなあ』・・・これを全部総合すると、答えは1つしか見付かりませんよ」


 ま、まさか・・・さっきの東西線の車内でのボヤキか・・・確かにあれはヤバイ!しかも舞の目の前で!!

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