第234話 お前が言った話が事実なら・・・

「おい、拓真!どういう事なんだ?」

「兄貴、わたしも言ってる意味がよく分からないんだけど、舞ちゃんが全部話してもいいの?」

「・・・・・」

 俺は何も言い返せなかった。でも、このまま沈黙を続けても時間の無駄だ。それに泰介と歩美ちゃんには唯との仲介役をやってもらう目的の為にここで待ち合わせをしたんだ・・・後は三人を信用するしかあるまい。

「・・・舞、本当に俺がこの場で言ってもいいのか?」

「わたしは覚悟が出来ています。後は小野先輩と杉村先輩に聞く度胸があるかどうかです。それに、話を聞いたら小野先輩も杉村先輩も、それにわたしも後に引けなくなります。恐らく山口先生や教頭先生は立場上、事情を知っている筈ですがわざと口外していないと思いますよ。公になったら大騒ぎですから」

「・・・泰介、この話を聞いたらマジで後に引けなくなるけど、それでもいいのか?」

「・・・俺たちは親友だろ?それに歩美との事でお前には随分借りがある。恐らく口外できないような事だとは容易に想像出来るけど、おれはお前が口外しないでくれと言うなら口外しない。それは約束する。歩美はどうする?」

「泰介がそれでいいならわたしは構わないわよ。それに、わたしもいくつか疑問があったのも事実だから解消できるかもしれないからね」

「・・・分かった。聞いたら卒倒するような事も含めて全部話す。その代わり、この場を離れたら忘れてくれ」

「ああ、いいぞ」

「分かったわ」

「拓真先輩、お願いします」


 俺は順を追って3人に話した。

 元々俺と藍は父方の玄孫やしゃご同士、俺と唯は母方の玄孫同士だということ。入学時はお互いに気付いてなかったが、1年生の1学期の時に色々あって玄孫同士だというのが分かったということ。唯の父親が亡くなった後の親戚会議で唯を俺の両親が引き取る事になったこと。その3日後に藍の父親が亡くなった後の親戚会議で藍を引き取る事になったこと。藍は俺の義理の姉で唯は義理の妹になっていること。校長先生を始めとした先生方の間ではトップシークレット扱いになっていることも話した。

 舞は既に事情を自分なりに想像していたと見えて納得顔をしていたが、泰介と歩美ちゃんはそれこそ顎が外れるんじゃあないかというくらいの表情をして聞いていた。

「・・・たくまー、おれもようやく2年生になってからお前がおれの家に入り浸っている理由が分かったような気がするぞ」

「そうよね、1年生の時は兄貴の部屋で夏休みとか冬休みに一晩中ゲームしまくってた事があったし、兄貴のお父さんと4人で明け方まで麻雀した事もあったけど、それをやらなくなった理由はこれだったのね」

「拓真の家におれたちが行けば必然的に藍さんと唯さんが同居している事がバレてしまうから、絶対に呼ぶ訳にいかなった。だから拓真がおれや歩美の家に出向いていたって事だよなあ」

「・・・スマン」

「たしかに兄貴が藍ちゃんや唯ちゃんと同居してたら、内山君や中村君が発狂して兄貴に襲い掛かるかもねえ。とてもじゃあないけど先生方も口が裂けても言えないね。他人事のようで申し訳ないけど山口先生も災難だよねー」

「・・・だけど、泰介と歩美ちゃんには、もう1つ話さないといけない事がある」

「「もう1つ?」」

「ああ、もう1つだ」

 それから俺は藍と唯との関係も正直に話した。

 藍が俺の元カノだという事、藍は俺と唯の関係を知っているが唯は俺と藍の関係を知らない事。藍は今でも俺を諦めてなくて唯を蹴落とすのを虎視眈々と狙っていて、義理とはいえ姉妹の関係上、表向きは仲の良い姉妹を演じているが既に俺に対して唯から俺を奪い返す事を宣言しているのも正直に話した。舞は俺と藍、唯の関係に気付いているが、それを藍は知ってるが唯は知らない事も正直に話した。

「・・・以上だ」

「「「・・・・・」」」

 泰介も歩美ちゃんもさっき以上に唖然とした表情をしている。舞はというと藍が既に宣戦布告をしているというところでかなり驚いたような表情をしていたから、舞も見抜いてなかったのだろう。

「・・・あにきー、これって本当の話なのー?」

「ああ、全部本当だ」

「『事実は小説よりも奇なり』っていう諺があるけど、まさにそれだよなー。たくまー、お前、校内の噂話は知ってるかあ?」

「ああ、それも知ってる。俺は藍と唯の好意に気付いてない超鈍感男って話の事だろ?」

「お前が言った話が事実なら、超鈍感男どころか修羅場の一歩手前じゃあないのか?」

「まさに泰介が言った通りだ。唯がもし全ての事情を知ったら、その瞬間、恐らく修羅場どころか内山や中村たちをも巻き込んだ血で血を洗う抗争が勃発するぞ」

「あにきー、その抗争に耐えられるの?」

「正直、分からない。唯の嫉妬深さは泰介や歩美ちゃんの想像を遥かに上回るものだし、藍の女王様ぶりは3年生といえども恐怖の対象だから、どっちの味方をしても俺たちきょうだいは崩壊する・・・」

「たいすけー、あんた、もし藍ちゃんと唯ちゃんの抗争が勃発したらどっちの味方をするのー?」

「おいおい、そんな怖い話をおれにしないでくれよー。おれは正直どっちの味方もしたくねえよ。どっちかが折れて拓真を諦めてくれるか、あるいは抗争に決着がつくまでは静観するしか出来ないぞ」

「兄貴だってどっちかに肩入れ出来ないんだから、結局は静観するしかないんでしょ?この五人組も終わりかもねー」

「たくまー、どっちかが折れる可能性はあるのか?」

「・・・あるとしたら唯の方だが可能性は非常に低い。期待しない方がいいと思う」

「どうして唯ちゃんだと思うの?」

「あきらかに家の中では妹としての立場をわきまえている。意識してやっているのか無意識かは分からないけど藍より前に出る事は基本してない。だから折れる可能性があるのは唯だ。でも、限りなくゼロに近い」

「そうか・・・」

「あのー、小野先輩に杉村先輩、その話は後回しにしてもいいと思います。今は修羅場でも抗争中でもないから、ひとまず拓真先輩と唯先輩を穏便な形で和解させる事を考えるべきじゃあないでしょうか?」

「たしかに舞ちゃんの言うとおりね。たいすけー、何かいいアイディアある?」

「勘弁してくれよお。そういうのをおれに振らないでくれえ」

「だよねー。泰介に聞いたわたしが馬鹿だったかもね」

 そう言うと泰介も歩美ちゃんもため息をついた。舞も沈黙しているという事は妙案がないという事だろう。

 ただ、本当は素直に俺が家へ帰って唯へ頭を下げれば済む事だ。それが出来ない最大の理由はだ。正直に言うが、唯に合わせる顔がない。


 まさかとは思うが俺はきょうだい崩壊の2つ目の引き金を弾いたのか?


 でも、全ては俺の責任だ。今回ばかりは舞に責任を押し付ける訳にはいかない。俺が舞を拒絶すれば済んだことなのだから。

 こんな苦しみを味わうくらいなら唯一筋だと覚悟を決めた方がマシだ。俺には二股、三股などという器用な事が出来ないとハッキリ自覚できたことだけは収穫なのかもしれない。あくまで自分を納得させるだけの言い訳かもしれないけど。

 舞には申し訳ないが、俺はお前の望みを叶えてあげる事は出来ない。俺は唯を支える、そうしよう。


「・・・そうだ、舞ちゃん、ちょっといい?」

「あー、はい。杉村先輩、どうかしましたか?」

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