第214話 絶望という名の泥沼

「えー、では2回戦について説明するから18人は座ったまま聞いてくれたまえ」

 教頭先生がマイクを持って立ち上がったから、ざわついていた小ホールが静かになった。

「2回戦は言葉のよる伝達ゲームだ。1巡目は勝ち上がり順で行うが、2巡目は1巡目のポイントが少なかったチーム順に行うけど同点の場合はキャプテンのジャンケン、それも勝った順に行う事にする。山口先生が持っている箱の中には20通の封筒が入っている。3人のうち説明者1名がその箱から1通を選んで、その封筒の中に入っている便箋に書かれた語句についてヒントを口頭で説明し、それを聞いた残る解答者2人が語句が何なのかを答えていく事になる。ここまでで分からない事があるチームは手を上げてくれ」

 教頭先生は俺たちに質問したけど、18人で手を上げた人はいなかった。

「封筒には文字が書かれているから、それを最初に読み上げてから開封してくれたまえ。便箋に書かれた語句は20個あるが制限時間90秒の間にどれだけ解答者が答えられるかで勝負が決まる。1回で最大で20ポイント、2回やるから合計40ポイントが満点だ。なお、身振り手振りでの説明をさせない為に、説明者は後方の席に座ってマイクに向かって喋ってもらう。解答者は自分の席にあるマイクに向かってどんどん発言するだけでいい。もし正解だった場合は審判長がボタンを押すと解答者の席にある緑ランプが点灯し、同時に発言者の席と解答者の席にあるデジタルカウンターが1つ進む事になる。なお、説明者がパスしたい時、もしくは解答者がパスをしたい時には『パス』と大声を上げるようにしてくれ。その時にも審判長がボタンを押すから赤ランプが点灯してカウンターが1つ進む事になる。注意事項として、説明者が言った言葉がNGヒントだったかどうかの判定は、全部のチームが1巡目を終わった段階で1巡目の、2巡目を終わった段階で2巡目の結果を発表するから、NGヒントを言った発言者のチームはNGヒント1回につき1ポイント減点するぞ。ここまではいいかな?分からなかったら手を上げてくれ」

 教頭先生は再び俺たちに質問したけど、俺たちで手を上げた人はいなかった。

「あー、それと会場のみんなにはそのチームが答え終わった段階で松岡先生の後ろにあるホワイトボードに答えを前川さんが掲示するから、それを見てどの程度のレベルの問題だったかを自分なりに判断してくれたまえ。では、2回戦を始めるぞ。山口先生、お願いします」

 それだけ言うと教頭先生は着席し、代わって山口先生が箱を持って立ち上がった。


“トップバッターは佐藤三姉妹だ。説明者は誰がやる?”


「はーい、わたしでーす」

 手を上げたのは舞だ。となると藍と唯が解答者になるのか。

「じゃあ拓真先輩、行って来ます」

「たっくーん、じゃあね」

 それだけ言うと唯と舞は立ち上がったが、藍はゆっくりと立ち上がった。だが、藍は立ちがる前に小声で

「拓真君・・・どうあがいてもあなた方クイズ同好会は私に勝てないわよ」

 それだけ言うと藍はさっき以上の冷酷な目で俺を見ながら立ち上がった。

 その瞬間、俺は絶望的な気分にさせられた。藍がさっき教頭先生に預けた古いノートのような物、それは『知識の女神』が残したノートに違いない・・・それなら1回戦の藍の神懸ったような解答も納得がいく。平川先生とミステリー研究会の前部長が見つけ出した七不思議の4番目を藍は解き明かしたんだ・・・。

 もし藍があのノートに感化されて、本当に『知識の女神』になったなら、俺たちクイズ同好会に未来はない。このクイズ勝負の優勝は佐藤三姉妹、いや、正しくは藍だ。さっきまでの藍の太々しいまでの態度は俺への挑発ではなく、余裕シャクシャクという意味だったんだ・・・。


 俺は絶望という名の泥沼に沈んだような気になった。

 どうやっても俺たちは勝てないのか?

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