第213話 屈辱的
“あー、それじゃあ佐藤三姉妹は勝ち抜け第一号という事で、相沢たちも次は復帰してもらうぞ。では第3問。女の子に大人気のプリティ・キュアシリーズの現在放送中のドッキドキ!プリティ・キュアで、プリティ戦士全員が変身し終わった時に掛け声とともに揃ってポーズを取りますが、その時に言うセリフを答えなさい”
はあ?なんだこりゃあ???
マジで小学校低学年か幼稚園の女の子が見てるアニメの問題の答えが分かる高校生がいるのかあ!?俺たち三人は押してない・・・というか篠原も長田も困惑したような顔をしてる。多分、アニ研部長の相沢先輩でも・・・
♪ピンポーン♪
マジかよ!?相沢先輩たちのテーブルのランプが光った!さすがにアニ研部長は知ってるのか?
“おー、さすがアニ研の部長だな。相沢、答えてみろ”
「あのー、山口先生、わたしは押してないんですけど」
“はあ?じゃあお手付きでマイナス2ポイント目か?”
「山口先生、押したのはわたしだ」
『へ・・・藤本!お前、高校3年生にもなって見てるのかあ!』
「いや、そのー、うちには小学生の妹がいて日曜日の朝は必ず見てるんだ。毎週では無いがわたしも朝ごはんを食べてる時とかにテレビがついてたら一緒に見るから知ってる」
“ま、まあ分かったから答えてみろ”
「響け、愛の鼓動!ドッキドキ!プリティ・キュア」
“おーい、松岡先生、これで合ってるのかあ?”
『あ、ああ、合ってる。「相沢でも答えられない」と豪語していた自他共に認める親馬鹿教師の原田先生の自信作だったけど、まさか藤本が正解するとは思ってなかったぞ』
「悪かったですね!それじゃあ、これで0ポイントに戻ったという事で」
『そういう事だ。これで全チーム0ポイントだ』
うわー、藤本先輩に小学生の妹がいたなんて初耳だ。おまけに『藤本さんファンクラブ』の連中がやんややんやの歓声を上げてるし。俺たちクイズ同好会が3問目で未だにポイント無しどころか1回も答えてないなんて屈辱以外の何物でもないぞ!
“4問目。アガサ・クリスティによって1934年に発表された長編推理小説であり、エルキュール・ポアロシリーズとしては8作目にあたる『オリエント急行殺人事件』で、1935年に”
♪ピンポーン♪
ヤバイ!長田が押し負けた。文学王よりも早く押したのは・・・はあ?また相沢先輩のテーブルかよ!?という事は村山先輩が長田に競り勝ったんだ。
「十二の刺傷」
答えたのは予想通り村山先輩だ。しかも自信満々の表情だ。長田も「くっそー」と小声で言ってる。
松岡先生は『〇』の札を上げた。
『おー、さすが校内随一の推理小説オタクだな。1935年に日本語初訳された時のタイトル名を答えろという武田先生作成の問題だったが見事だぞ』
“第5問。1961年に考案された、我々の銀河系に存在し人類とコンタクトする可能性のある地球外文明の数を推定する方程式を考案”
♪ピンポーン♪
やった、俺たちのテーブルのランプが初めて点灯したぞ。押したのは篠原だ。
「フランク・ドレイク」
『正解だ。やっとクイズ同好会にポイントが入ったな。問題は地球外文明の数を推定する方程式を考案したアメリカの天文学者の名前を答えよ、という平川先生作成の問題だったが見事だ』
よし、これで1ポイントだ。とにかくこの調子でいくぞ!
“6問目。バラ科リンゴ属の落葉高木樹のセイヨウリンゴ種で、1665年に”
♪ピンポーン♪
おい、マジかよ!?また篠原が押し負けたぞ・・・はあ?また相沢先輩のテーブルかよ!?
「ケントの花」
藤本先輩が自信満々の表情で答えてるし、篠原も小声で「やられた」と言ってる。という事はこれで・・・
『正解だ。問題文は1665年にアイザック・ニュートンが万有引力を発見するきっかけになったセイヨウリンゴの品種名を答えよ、という伊達先生作成の問題だったが見事だぞ。これで相沢、藤本、村山のトリオは2抜けだな』
いや、これはマジでヤバイぞ。俺たちの最大のライバルともいうべき相沢先輩たちと佐藤三姉妹がクイズ同好会よりも先に2回戦進出を決めたという事だ。
”次の問題は小ホールのスクリーンに出題されるぞー。第7問目は漢検1級レベルの難読漢字問題だ。この国名を答えよ”
『象牙海岸』
♪ピンポーン♪
”あー、やっぱりクイズ同好会がきたかあ。しかも瞬殺かよ!?という事は拓真だな?”
「いや違う、おれです」
”篠原かあ?まあ、たしかに雑学の分野でもあるからなあ。答えて見ろー”
「コートジボワール」 (作者注:アフリカ西海岸の国)
俺はこの問題の答えが分からなかったのではない。スクリーンに問題が出た瞬間に篠原が押したから譲っただけで、答えは当然知っていた。ただ、本当は・・・
松岡先生があっさり『〇』の札を上げた事で俺たちクイズ同好会は3抜けで2回戦進出が決定した。
俺たちは2回戦進出を決めたが、俺にも、それに篠原にも長田にも笑顔がない。そう、クイズ同好会にとって屈辱的ともいえる3抜けでの進出だから、とてもではないが笑顔を見せるほどの気力が湧かない。殆ど苦虫を噛み潰したような顔をしながら山口先生の後ろにある勝ち抜け者の休息用長椅子に座った。
当然だが残る3つの枠を巡ってクイズが続いているから大きな声を出せない。だから藍たちや相沢先輩たちも殆どヒソヒソ声で喋っているか烏龍茶やスポーツ飲料を飲んでる状態だ。舞は相沢先輩たちと笑顔で何かを話しているし、篠原と長田の二人は不貞腐れたような顔をして座ってるから、俺は自然と藍と唯の三人で話す形になった。
「たっくーん、1回戦は唯たちの勝ちよねー」
「はー、それは認めざるを得ないな」
「そうよね。拓真君たちは私たちの足元にも及ばなかったからねー」
「あーいー、結構強気だな。自信あるのか?」
「もちろん、私は拓真君を完膚なきまで叩き潰すつもりよ」
「おー、こわっ。少しくらい手加減してくれよお」
「それはお断りします。藤本先輩からも叩き潰せと言われるからねえ」
「はいはい、分かりましたよ。でも2回戦こそ俺たちがトップ通過だ」
「あれー?たっくんさあ、この手の問題で去年はファイナルに行けなかったんだよねえ。大丈夫なのかなあ?」
「そうそう、クイズ同好会最大の弱点だから、どのチームも1回戦さえ勝ち抜けば五分の三の確率で決勝に進めると思ってるわよ。実際、内山君も中村君も『1回戦さえ突破すればクイズ同好会なんか目じゃあない』って言ってるからねえ。だけど私から見たら二分の一ね」
「二分の一?藍、意味が分からねえぞ?」
「3枠のうち1つは私たちで決定。クイズ同好会は2回戦で脱落確定だから、残る2枠を4チームで争うから二分の一ね」
「好きなだけ言ってろ。俺たちは絶対に負けない!」
「あーあ、その強気、いつまで続くのか賭けてみたいわね」
「そうだよね」
「あ、でも、残る3チームが決まったから、そろそろ2回戦よね」
「あー、言われてみればあっさり決まったみたいな」
そう、俺たちが話をしながら休憩している間に残る3チームが決まった。2回戦に進めた残り3チームは、奥村先輩率いる『藤本さんファンクラブ』の会長・副会長のトリオ、内山率いる藍派の会長・副会長のトリオ、最後は西郷先輩率いる新旧生徒会の苦労人トリオで他のチームは1回戦で敗退決定だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます