第205話 何か手段はあるのか?

「はあ?どういう事だあ!?」

「昨日、生徒会室で藤本先輩が言ってたわよ。『今年の高校生クイズキング選手権には、みさきちと篠原の三人で出場するつもりだから、藍は拓真と唯の佐藤きょうだいで挑んだらどうだ?』ってね。私は冗談だと思ってたけど、藤本先輩の目が座ってたから恐らく本気よ」

「藤本先輩は本気で引き抜くつもりなのか?」

「うーん、その可能性は否定できないわね。相沢先輩も藤本先輩も去年は大見栄を切った割に二人共1問目で間違えて早々に御退場となったのは拓真君も知ってるはずよ。だから今年は藤本先輩も相沢先輩も一時休戦して手を組んだと見るべきね。それに、国語だけだったら相沢先輩、数学だけなら藤本先輩でも十分拓真君と長田君の二人を合わせた力に匹敵するくらいの実力があるから、予選に早押し問題が出る可能性が低い以上、北海道代表を目指すだけなら今のクイズ同好会三人と同等の力を発揮できると私は見てるわ」

「唯もそう思うよー」

「私としては拓真君と唯さんの三人で挑んでも、予選突破だけを考えれば篠原君と相沢先輩、藤本先輩のトリオと互角に勝負できると見ているのも事実よ。さすがに全国制覇となると今のクイズ同好会が上だというのは私も認めざるを得ないけど、年々傾向が少しずつ変わってるでしょ?今年も知識のガチンコ勝負の場になる保証はないわ。それに、篠原君も拓真君も長田君も三人とも女の子向けの化粧品とかファッションといった分野は超がつく程の無知よね。篠原君に至っては北京原人かと思うくらいに無頓着だから、こんな問題が出題されたら予選落ち確実よ」

「唯もそう思うよー。もし篠原君が相沢先輩と藤本先輩と組むって言うなら、三人で挑戦しようよ」

「拓真君もそう思うでしょ?」

「・・・・・」

 俺にとって、この藍と唯の発言は衝撃的な発言だ。藍の言葉ではないが、恐らく藤本先輩と相沢先輩も『呉越同舟』ではあるが、篠原を引き抜けば少なくとも予選を勝ち抜けると見ている筈だ。それに、藍だって『知識の女神』が残した書物が見つかれば黙っていても俺を引き抜くつもりだ。どちらにせよ、俺たちクイズ同好会に解散の危機が迫っている事は事実だ。

 先に参加申し込みをすれば?いや、父さんたちが学生の頃は往復葉書での応募だからメンバー変更は不可能だけど、今はスマホやケータイでの応募に変わっているし、期日内ならメンバー変更も可能だ。篠原の性格を考えると相沢先輩と藤本先輩が揃って誘ってきたなら断れないはずだ。そう考えると先にメンバー登録をしても無意味だ。

 どうする?何か手段はあるのか?


 俺は登校している間はずっと考えていたから、舞だけでなく中村たちと一体何を話したのか全然覚えてない。それに今日の授業だって殆ど上の空だ。何をやっていたのか全く覚えてない。

 そのまま全ての授業を終えて放課後、俺たちはいつも通り伊勢国書店へ・・・と思っていたけど、俺のスマホに篠原からメールが入った。


『話したい事がある。食堂へ来て欲しい』


 それだけしか書かれてなかったが、俺にはこの瞬間『話したい事』が何なのか想像がついた。ほぼ間違いなく藤本先輩か相沢先輩から引き抜きの話が篠原のところへきたはずだ。しかも篠原の事だから、相沢先輩と藤本先輩のどちらから言われても断る事が出来ないから素直に首を縦に振る事しか出来ない。まあ、即決しろと迫ったかどうかは分からないが、少なくとも篠原の元へ話が来たのは間違いないとみるべきだ。

 そのまま俺は食堂へ行ったが、長田は既に来ていた。でも、長田の表情も暗いを通り越して殆ど泣きそうなくらいだし、クールな篠原も申し訳なさそうな顔をしている。

 俺はこの瞬間、想像が確信に変わった。

 案の定、俺が席に座ると篠原は淡々と話し始めた。

 今日の昼休み、篠原のスマホに相沢先輩と藤本先輩の両方からメールが入り「すぐに生徒会室へ来るように」と書かれていたから篠原が恐る恐る生徒会室に行ったら相沢先輩と藤本先輩の二人しかいなくて、席上、藤本先輩から「今年の『高校生クイズキング選手権』には、この三人で挑もう」と言われた。だが、篠原から見たら殆ど脅迫だから返事に窮してしまい、今日の放課後に俺と長田に話をして、その結果は月曜日の昼休みまでに必ずするから返事は待って欲しいと伝えて、とにかくその場から出てきたようだ。

 篠原の事だから、仮に俺と長田が反対しても二人に『ノー』と言えないのが見え見えだ。だからと言って、返事を引き延ばしたところで妙案が出てくるわけでもない。それに下手をしたら藤本先輩が「風紀委員長の強権を発動するぞ」などと訳の分からない事を言って無理矢理篠原を引き抜くかもしれない。さすがの藍も藤本先輩の暴走を止めるのは不可能だ。

 長田は「篠原がそれでいいと言うなら構わない」と、殆ど諦めムードではあるが俺個人としては納得がいかない。それに、折角ここまで頑張ってきたのに相沢先輩と藤本先輩に手柄を横取りされたような気分で面白くないし、篠原がいなくなれば藍も暴走しかねない。なんとしても阻止しなければならないと思うのだが妙案がないのも事実だ。

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