第198話 堂々とあなたを連れ出してもいいかしら?
姉貴たちはスーパーの駐車場が閉鎖されてしまうので夜の9時半過ぎには帰っていったが、俺はシャワーを浴びた後は自分の部屋に戻った。
“トントン”
俺はベッドの上で部屋にあるマンガ本を読んでいたが、部屋のドアを誰かがノックした。
「はーい、誰ですかあ」
「藍だけど、入ってもいいかなあ」
「いいよー」
藍は俺の部屋のドアを開けるとゆっくり入ってきた。風呂上がりのようでパジャマの上に薄物のセーターを1枚羽織っている。それに部屋一面にシャンプーのいい匂いが充満してきた。
藍はドアを閉めると俺の机の椅子に座ってニコッと微笑んだ。
「・・・拓真君、明日の予定は?」
明日はトキコー祭があった関係で代休日だ。だからと言って俺は特に用事を入れてるわけではない。いや、正しくは明日の俺はどう転んでも藍か唯に振り回されるのが分かってたから事前に周囲の連中に断りを入れておいた。言われるまでもなく「何もない」としか答えられないのだが、藍もそれを分かっていて言うのだから、ある意味意地が悪い。
明日の俺は特に予定はないけど、唯は2年生の女子の一部と打ち上げをやるというので出掛ける事になった。閉会式が終わった後に決まったようなのだが、既にカラオケこま犬をフリータイムで予約して明日はお菓子やお握りなどを持ち込んで夕方まで歌いまくる気でいる。
藍はというと・・・別の女子から2~3件お誘いがあったのだが、全て断りを入れた。その時点で俺はある程度の事が読めたから、俺は既に諦めムードである。
俺には篠原と泰介から誘いがあったのだが、俺はこういう展開になるのが読めていたから断った。泰介は「まあ、お前がいないなら歩美と一緒にどこかへ行ってくる事にするかなあ」とか言って逆にニコニコだったけど、篠原は「頼むから明日は一緒に遊んでくれ」と結構食い下がった。食い下がった理由というのが、相沢先輩と藤本先輩の誘いを断る方便として俺を使いたかったからだ。それにしても篠原の奴、いい加減に二人からのお誘いの意味を理解しろと言ってやりたかったが、相変わらずストーカー行為だと本気で思い込んでいるようで最後は泣きそうになっていたなあ。
「・・・何もないよ」
「そう。じゃあ、私は出掛けるけど出来れば一緒に来て欲しいなあ」
「『出来れば』ではなく、『一緒に来なさい』が正しいんじゃあないか?」
「・・・そうね、そう言い直した方がいいかしら?」
「・・・どこへ行く気なんだ?」
「大丈夫よ。別に取って食べるつもりはないから」
「分かった。じゃあ、任せる」
「唯さんは明日の拓真君の行動を縛る気はないって言ってるから、朝から堂々とあなたを連れ出してもいいかしら?」
「・・・勝手にしろ。唯は『舞ちゃんとデートしようがお姉さんとデートしようが勝手にすればいい』とか言ってたから、お前が唯の目の前で俺を堂々と連れ出しても許してくれるさ」
「・・・本当にそう思ってるの?」
「・・・許してくれる事を祈ってる、という表現が正しいさ。恐らく、唯はそんな事をしたら昨日の比ではないくらいにキレるだろうな」
「そうでしょうね」
「唯の奴、最近ますます独占欲が強くなったような気がするんだけど・・・」
「・・・そういう拓真君は変わったわね」
「変わった?何が?」
「拓真君、あなた、自分で気付いてないの?」
「?????」
「・・・まあいいわ。唯さんの行先は分かってるから、かち合わない場所で落ち合う事にしましょう。私は唯さんと同じ時間に出掛けるから、とりあえず家にいて頂戴」
「・・・分かった」
「悪いけど、月末だから結構小遣いがピンチなのよねえ。明日は拓真君持ちでいいかなあ」
「はあ?俺の小遣いもピンチなんだけどー」
「それなら折半という事で」
「・・・分かった」
「じゃあ、明日は楽しみにしてるわよ」
それだけ言うと藍は立ち上がった。
ただ、部屋を出る時の藍の表情が少し暗かった。俺は「ひょっとして、俺と唯が一線を越えた事に気付いたのでは?」と危惧したが、それを考えてたら何もできない。明日の藍は俺をどこへ連れ出す気なんだろう。何を言うつもりなんだろう・・・。
それに・・・俺は変わったのか?
一寸先は闇・・・いや、
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