第196話 舞、撮影会と握手会をする

 藍はクールな目で俺を見てたけど、急に廊下が騒がしくなったので俺も藍もそちらを向いた。分かっていたとはいえ、舞が大勢の観衆(?)を連れてミステリー研究会の部屋へ入った来たのだ。

 村山先輩も興奮気味で

「あらー、舞ちゃん、本当にメイドさんをやってたんだ」

「そうなんですよー。相沢先輩が特別サービスで貸してくれたから着てるんだけど、どこへ行っても大騒ぎでもう大変なんですよお」

「まあまあ。これから撮影会でしょ?」

「そうです。ミステリー研究会のPRも兼ねて、この部屋で撮影会と握手会ってところですかね」

「うわっ、握手会までやるの?」

「本当はそんな事をやるつもりは無かったんですけど、さっきまでいた1年B組でも『どうしても』っていう人が多くて、結局撮影と握手がセットになってしまいました」

「どこぞのアイドルグループの影響かしらねえ」

「そうかもしれませんね」

「じゃあ、後でわたしもお願いしますよ。ところで舞ちゃんはどこに立つつもりなの?」

「やっぱりミステリー研究会ですから『トキコー七不思議』の前じゃあないですかねえ」

「たしかにその通りね」

 舞は俺たちがさっきまで立っていた『トキコー七不思議』の前に立つと撮影会兼握手会を始めた。舞との撮影を望んでいたのは以前高崎さんが言ってた通り緑ネクタイの3年生が多いけど1年生と2年生も少なからずいた。それにミステリー研究会のメンバーも来てるし、なぜか廊下まで並んだ列には奥村先輩と世良先輩、それに平川先生と原田先生までいる。さすがに騒然としているけど、部屋の中に藍がいたから順番待ちで騒ぎを起こす奴はいなかった。

 俺は藍に遠慮して列に並ぶのをやめたし、藍も俺に目で「並んだら承知しないわよ」と言ってるから、俺と藍は舞に手を振ってこの部屋を出て行った。


 旧校舎を出てからも藍は声を掛けられ続け、結局俺と藍は3年F組のメルヘン喫茶に行くまでは落ち着く事が出来なかった。

 さすがに3年F組は童話の世界をモチーフにしただけあって受付から接客、調理担当までコスプレしているから藍が目立つことはない。3年F組はコスプレに予算を集中したからメニューの種類は少ない。それでも俺と藍は紅茶とビスケットでくつろいで・・・といきたかったのだが、藤本先輩に服を返す時間まで残り少ないからノンビリ過ごす事は出来ず、ホントのティータイム程度で終わってしまった。それでも藍は満足できたようで、席を立ちがある時に「楽しかったわよ」と言って自然な笑みを見せてくれた。


 閉会式は例年通り小ホールで行われ、生徒会三役がメイド服で登場する最後の行事となるので手の空いた連中が大挙して押し寄せて大騒ぎだった。

 閉会式で発表された各クラスの人気投票の結果は1年B組が優勝で、俺たちは僅差の2位で残念ながら準優勝に終わった。やはり『重力ペイント』の部屋のインパクトが超強烈だったけど、全クラスで唯一コスプレをしなかった(まあ、廊下の受付担当だけはネコえもんの着ぐるみをしていたけど)事で逆に目立ったのも事実だ。俺たちが2位になれた最大の功労者は何といっても山口先生だ。結局山口先生は昨日の占いの場で引き合わせる事が出来なかった5組全ても成立させ、カップル成立95%という驚異的数値を叩きだし、今日も山口先生のところには恋愛相談に来た男子、女子が20人を超え、そのうちの8割が成立(残りの2割は『もう付き合っている人がいる』という理由で断られた)したのだから、さすがの藍と唯も山口先生には脱帽していた。ただ、この2クラスが3位の3年F組以下を大きく引き離しての得票だったので、これはこれで満足すべきなのかもしれない。優勝賞品のクオカードは手に入らなかったけど、準優勝の賞状は代表して村田さんが受け取った。

 閉会式が終わったら藍は再びメイドとして食堂で午前の続きの記念撮影会。山口先生が食堂で撮影係を担当したけど、最後に藍を中心にして食堂のおばちゃんたち全員と記念撮影をして無事終了となった。俺はというと2年A組を元に戻す必要があるから閉会式には参加しなかった。唯は閉会式が終わったら制服に着替えてからA組を元に戻す作業を手伝った。


 俺たち3人は夏の夕暮れを家へ向かった。途中、寄り道をする事もなかった。


 今日の俺は1回も藍や唯と写真を撮る事をしなかった。その理由は・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る