第195話 ご退場が意味するもの

「どういう事だ?」

「ゴールデンウィークの時に村山先輩が話してた内容を覚えてる?」

「リアル脱出ゲームが始まる前の事だろ?たしか平川先生が・・・『見付け出した』!?」

「そう、平川先生と前の部長が『見付け出した』という事は、うちの学校の図書室には、本当に『知識の女神』と呼ばれた人が書いた本、もしくはその人が残したノートみたいな物があるという事よ」

「そうだろな。そうでなければ村山先輩が『見付け出した』などという表現を使うのはおかしい」

「多分、村山先輩は『知識の女神』が残した書物があるという事は聞いてるけど、書物そのものは見付けてないようね。もし見付けていたら、3年生の成績上位者として名を連ねるはずよ」

「なるほど・・・理にかなっている」

「だとしたら、私が『知識の女神』が残した書物を探し出しちゃおうかな?それなら目の上のタンコブともいうべき篠原君を蹴落として名実共に女王陛下になれるからね」

「そうだよな。篠原が成績トップのキングとして君臨している以上、藍は単なるクイーン、つまり女王だからな」

「そういう事。そうすれば篠原君がいなくても『高校生クイズキング選手権』の全国制覇なんて楽勝よ。なんてったって『知識の女神』が拓真君を導いてあげられるんだから」

「じゃあさあ、仮に俺と藍が組んだとして、あと一人は誰だ?『高校生クイズキング選手権』は三人一組なんだぞ」

「そうねえ、どうせなら『佐藤きょうだい』三人で全国制覇しちゃいましょう。唯さんは飛行機に乗った事が無いんでしょ?唯さんも東京へ連れていってあげるわ」

「うわっ、『折角だから』とは物凄く強気だよな。かよ!?」

「あったり前でしょ!『知識の女神』の知性をもってすれば漢字数学王も看板倒れね。よね」

「まあ、本当に『知識の女神』の書物を藍が見付け出したら、俺がお前と本気で勝負してやる。それで藍が俺に勝つようなら『知識の女神』が残した書物は本物だと言わざるを得ないから、クイズ同好会を解散させてもいいかもしれない。篠原と言えども、漢検準1級レベル以上の漢字の読み書きは俺の足元にも及ばないし、計算の正確さと素早さは篠原自身も『拓真に勝つのは無理だ』と認めているくらいだからな」

「じゃあ、私が拓真君に勝ったら本当にクイズ同好会は解散してもらうわよ」

「ああ、構わん。その代わり敵に回った時の篠原は強敵だぞ。それに長田を含めた『クイズ同好会』は今でも道内最強だ。これだけは自信がある。恐らく全国でもトップ10に入るだけの自信はある。仮にお前が相沢先輩と藤本先輩の三人で組んで俺たちに挑んでも蹴散らす自信があるさ」

「本当にクイズ同好会は解散してもらうという事でいいわよね」

「松岡先生の言葉ではないけど、『男に二言は無い』」

「・・・その時には唯さんにもご退場願うわよ」

「!!!!!」

 俺はその瞬間、確かに背中に冷たい物が流れた事が分かった。ご退場が意味するもの、それは藍が俺の隣に立つという事だ。つまり、藍が4つの目の謎を解いた瞬間、唯を問答無用で俺から引き剥がすと言ってるのと同じだ。しかも藍は文芸部所属だ。図書室を活動場所としている文芸部員だから、藍が図書室で本を探していても誰も不自然に思う奴はいない・・・。

 平川先生、『知識の女神』が残した書物とは、どんな物なんですか?・・・それが見付かるとどうなるのですか?・・・それとも、俺は4つ目の謎が解明されないよう、藍を止めるべきなのですか?

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