第192話 色々な意味でお前は校内の風紀を乱している

 その舞は食堂の入り口付近で俺と藍を待っていた。丁度時間的にかなりの人数が食堂にいるし、一般の来場者も利用しているから普段以上の賑わいだ。

「おーい、拓真せんぱーい」

「いやあ、遅くなってスマン」

「そんな事はないですよ。それより藍先輩、このたびは『準ミス・トキコー』おめでとうございます」

「ありがとう。舞さんが頑張ってくれたお陰ですよ」

「とんでもないです。藍先輩の実力ですよ」

「そんな事ないですよ。私は立っていただけですし、みんなが私に投票してくれたお陰よ」

「おーい、後ろが迷惑するから早く食券買おうぜ」

「それもそうですね。藍先輩、お先にどうぞ」

「あら、いいの?じゃあ、お言葉に甘えて・・・」

 藍が選んだもの、それは『たらこスパ』と『イカリングフライ』だ。おいおい、明らかに後者は舞への当てつけだよな。さすが女王様、こんな形でを表現するとは。舞は『たらこスパ』と『サラダ』、俺は『ハンバーグ定食』。今日もA定食とB定食が無い代わりに普通のレストランのようなメニューになってるからなあ。

 俺たち3人は『おおきなのっぽの古時計』の前のテーブルが空いたから座った。俺の正面に藍、俺の右に舞だ。

「ところで拓真先輩と藍先輩は午後はどうするんですか?」

「うーん、俺は午後はずっとフリーだから、校内をフラフラする事になるのかなあ」

「そうね、私も午後はフリーだけど特に決めてないわ。でも、唯さんに占ってもらうのは無理そうね」

「それじゃあ、是非旧校舎3階に来て下さい」

「「旧校舎3階?」」

「ミステリー研究会ですよ。お二人とも『トキコー七不思議』がどう書き換わったのか興味ありませんか?」

「言われてみればそうだよなあ」

「そうですよねえ、因みに昨日は高崎先生も来たって村山先輩が言ってましたよ」

「へえ、高崎先生もやっぱり興味あったんだあ」

「まあ、高崎先生の懸案事項だったんだから、それがどう変わったのかは本人も気になったんでしょうね」

「そんなところだと思いますよ・・・あれ?あそこに立っているのは相沢先輩と藤本先輩じゃあないですか?」

「あー、本当だ」

「あの二人、どこに座るべきか迷ってるみたいですね。恐らくどの席の人も自分たちのテーブルに座って欲しいんでしょうね」

「まあ、あの二人が横に座ってくれれば、それだけで有頂天になる人も続出だろうな」

「藍先輩、ダメ元でこの席に来るよう、声を掛けてもらえないですかねえ」

「藍、俺からも頼むからさあ、立ち上がってあの二人に手を振ってくれないかなあ。そうすれば『ミス・トキコー』と『準ミス・トキコー』の三人が同じテーブルで食事する事になるんだぜ」

「それもそうね。折角の機会だから・・・」

 藍はそう言うと立ち上がって「相沢せんぱーい、藤本せんぱーい、こちらへどうぞ」と手を振ったから、他の連中も逆に遠慮したのか、それとも三人揃い踏みのシーンを見たいのか俺たちのテーブルへ行くよう勧めたので、相沢先輩と藤本先輩は俺たちのテーブルに来た。

 藍の横に藤本先輩、その横に相沢先輩が座ったから、まさに『ミス・トキコー』を真ん中にして両側に『準ミス・トキコー』の二人が並んだ形になり、周囲の連中が一斉に写真を撮り始めた。そりゃあそうだよな、まさに夢の共演だからな。

 相沢先輩は優雅に(?)『サンドイッチ定食』、藤本先輩は勝利祝いなのか『チキンカツ定食』だ。まさにといったところだな。

「藤本先輩も相沢先輩もおめでとうございます」

「あー、舞ちゃん、どうもありがとう」

「ありがとう」

「それにしても藤本先輩は2度目の栄冠ですかあ。わたしなんか絶対に手が届かないような称号を2回も取るなんて凄いですね」

「おいおい、あんな得票率で『ミス・トキコー』に選ばれたから逆に恐縮してるぞ。それに無効票の中には藍の有効票にしてもいいような物がいくつかあったのも知ってるから、本当の勝者は藍だと思ってるからな」

「藤本先輩、私は結果を素直に受け入れますから、先輩はもっと堂々として下さい」

「そうよ、真姫らしくないわよ」

「まあ、たしかに自分で言うのもなんだが、らしくないよな。もっと堂々しないといけないな」

 そう言うと三人は互いの顔を見て笑いあった。

「あ、そうだ。佐藤藍、閉会式直前までメイド服を着てもいいぞ」

「えっ?それはどういう意味なんですか?」

「いやあ、実はだなあ、殆どの連中と撮り終えたからさっきは結構暇だったんだ。それに午後の最後は3年A組の担当が待ってるから今のうちに校内を見て回りたいけど、あの服を着てると食べたり飲んだりする時に結構気になって落ち着かないんだ。だからこっちの方が気が楽だから使っていいぞ」

「そういう事でしたら、遠慮なく使わせて頂きます」

「あー、それなら舞ちゃんも着てみない?」

「えー!いいんですかあ?」

「いいわよ。クラスの担当は今日の朝イチで終わったし、正直、アニ研で準備した物も昨日のうちに全部完売して今日は開店休業状態だし、わたしも真姫と一緒で最後の学園祭を見て回りたいから、メイド服は舞ちゃんが着ていいわよ」

「でもー、わたしが着ると胸周りがスカスカになりますよ。ちょっと無理ですよー」

「あー、それなら大丈夫だ。何しろ『寄せて上げる』ブラを使ってる奴とかパットで誤魔化している奴が何人もいるから、ちょっとパットを拝借すれば問題解決だ。そうだよな」

「真姫の言う通りよ。中には使い捨てのパットを用意してあって『遠慮なく使ってね』とか言ってる子がいるから、それを持ち出せば大丈夫。舞ちゃんでも着こなせるわよ」

「多分、末っ子でも1、2枚使えば十分だろ」

「まきー、3、4枚くらいじゃあないかしら?」

「あのー、ここに男がいるんですけどお」

「あー、そういえばここに一人だけ男がいたなあ。でもなあ、佐藤拓真、お前の校内での評判は情けないぞ!誰も男として認めてないも同然だからなあ。色々な意味でお前は校内の風紀を乱しているから早く女を作れ!これは風紀委員長としての命令だ」

「えー、勘弁してくださいよお」

「あー、そうだ、風紀委員長権限でうちのクラスの子を紹介してやる。何しろ彼氏が欲しいって口癖のように言ってる奴が片手では余るからなあ。飛びっきりの子を紹介してやるから感謝しろ。みさきち、神薙か峰原のどちらかなら問題ないだろ?」

「そうね。あの二人なら自信を持ってオススメできるわよ」

「二人とも結構いいところのお嬢様だからなあ」

「しかも二人共わよ。あんな物でだからね。まあ、真姫や藍さんから見たら結構小さいけど我慢してね」

「当然お前から見たら年上になるけど文句ないよな?佐藤藍も当然文句ないよなあ」

「えっ?わ、私ですか・・・あ、あのー・・・」

「話が飛躍し過ぎですよお。俺の考えは無視ですかあ」

「まあ、それは冗談だ」

「冗談に決まってるわよ。本人にも確認とってないしね。それに真姫が紹介したら卒業しても絶対に別れられなくなるわよ」

「当たり前だ。女王様の命令に逆らったらお仕置きだあ!」

「それより早く食べちゃいましょうよ。佐藤三姉妹のメイド服を見たがる子が沢山いると思うから大騒ぎ確実よ」

「あのー、わたしは午後の最後にミステリー研究会の担当があるんですけど・・・」

「じゃあ、メイド服で担当をやれ。それなら旧校舎3階に人が集まるから万々歳だろ?」

「たしかにそれもそうですけど」

「閉会式の少し前に部長か村山さんに交代してもらうように言っておくから大丈夫よ」

「それならいいですよ」

「じゃあ決まりだ」

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