第191話 藍、不貞腐れる

 当初の予定では、俺と藍、唯の三人はこの後に食堂へ行って昼飯を食べる筈であった。でも、『ミス・トキコー』の再集計の影響で占いの交代時間までの余裕がなくなってしまい、唯はとてもではないが食堂で食べる時間はない。

「おーい、唯、そろそろ行かないと間に合わないぞー」

「えー、もうそんな時間なのー!?少しくらい休憩させて欲しかったんだけどー」

「わがまま言うなよー」

「まあ、仕方ないよね」

「なーんか、唯さんも災難ね」

「そうだよねー。まさか再集計をするなんて、しかもあーんなに長く掛かるなんて予想してなかったからねー」

「昼飯はどうするんだ?」

「仕方ないから購買のサンドイッチかお握りね」

「急ぎなさいよ。恐らく2年A組の前には長蛇の列が出来てるはずだから」

「はーい。それじゃあ佐藤唯、クラス担当の義務を果たしてまいります!」

「頼んだわよー」

 俺は講堂の舞台裏で唯と別れ、「どうせなら食堂で一緒に食べましょうよ」と藍に声を掛けられて食堂へ向かう事になったのだが、「どうせなら」は明らかに口から出まかせだ。藍は最初から俺と二人だけで食堂へ行く気満々だ。

 だが、講堂から出た途端に俺のスマホに着信が入った。

『もしもし拓真先輩ですか?』

「そうだけど」

『昨日の約束通り、お昼ご飯を一緒に食べましょう!』

「あー、そう言えばそうだった。ちょっと待ってくれ」

 俺は一度スマホを耳から話すと、音を拾わないようにスマホを指で塞いでから

「おーい、藍、舞が一緒でもいいか?」

「はあ?どういう事?」

「昨日、舞と一緒に食べる約束をしていたのを忘れてた」

「拓真くーん、あなた、ひょっとして本当に舞さんに乗り換える気でいたの?」

「そ、そんな事はない。たまたま昨日会った時に休憩時間が被っている事が分かったから舞に誘われただけだ」

「まあ、それは冗談よ。折角だから舞さんも一緒に食べましょう。私は別に構わないわよ」

「ちょっと待ってよ。舞に確認を取るから」

 俺は指を話すと再び話し始めた。

「おーい、藍も一緒にいるんだけど、三人でもいいかあ?」

『あー、別に私は構いませんよ。どこで待ち合わせしますか?』

「それじゃあ、食堂の入り口でもいいかあ」

『いいですよー。そこで待ってまーす』

「すぐ行く」

 俺と藍は食堂へ向かって歩き始めたが、藍は普段通りの女王様らしいクールな表情だ。さっきの自己PRタイムでは唯を彷彿させる自然な笑みを見せていたが、今はいつものようなクールな女王様でいるのは、まさに名女優(?)さすが2年連続『準ミス・トキコー』だ。でも、藍さーん、本心は怒ってますよねえ、不貞腐れてますよねえ。その証拠に右手はブルブル震えてますよー。

 そう言えば、藤本先輩は史上二人目の『ミス・トキコー』2回の栄誉を達成したのだが、もう一人は2年生と3年生の時に達成しているから、1年生と3年生の時に達成したのは藤本先輩だけという事になる。相沢先輩と藍の『準ミス・トキコー』2回というのも過去には3人しかいないが、そのうちの一人は三年連続の姉貴なのだから実質的には3人目、4人目という事になる。相沢先輩の1年生と3年生での2回は初めてのパターンだが、藍の1年生と2年生での2年連続『準ミス・トキコー』は姉貴以外では1人しかいない。でも、この人の場合は唯一の『ミス・トキコー』連覇の時の『準ミス・トキコー』だから相手が悪すぎたのだ。その証拠に3年生の時には『ミス・トキコー』に輝いている。

 来年の藍はどうなるのか・・・

 ただ、藍とすれ違う人が揃いも揃って藍に祝福の言葉を掛けていくから、藍も「ありがとう」と言葉を返している。藍としても負け戦確定とまで言われたにも関わらず最終的に2年連続ナンバー2の座を射止めたのだから結果に不満があるとは思えない。不満があるとすればだろう。

 だから不貞腐れているんですよねー、藍さーん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る