第189話 ミス・トキコー⑤~異様な雰囲気
安孫子先輩の判断で、俺たちは担当を変えた。安孫子先輩が一人でエントリー番号1番から8番までの表を集め、鈴村は一人で『あきらかにおかしい票』『おかしいと思われる票』を集める事にして、俺たちは開票作業を再開した。
だが、『あきらかにおかしい票』『おかしいと思われる票』の数が半端ではない。しかも似たようなやり方だ。俺は藍の票を探して10票ずつ輪ゴムで綴じて籠に移しているが、どうみても鈴村の負担が半端じゃあない。
「安孫子先輩、鈴村の作業を安孫子先輩も手伝った方がいいと思うけど」
「ああ、おれもそう思う」
「せんぱーい、ちょっと助けてくださいよお。どう見たって異常ですよ」
「たしかに。他の投票箱もそうなのか?」
俺は他のテーブルを見たけど、他のテーブルも異様な雰囲気に包まれている事に気付いた。それに、会場にいる連中も開票作業の異様さに気付いてざわめき始めている。
既に開票が始まって5分以上経過しているのに、どのテーブルも開票が終わっていない。会場のざわめきはますます大きくなっている。
俺たちにテーブルが一番先に開票作業を終えて唯と黒田先生の所へ結果を報告した。他のテーブルも次々と開票を終えたが、やはり俺たちのテーブルと似たような状況だ。
その結果を唯が集計したのだが、ここでまたおかしい事に気付いた。それに俺たち実行委員全員もおかしい事に気付いた。黒田先生と唯はこの状況をどうすべきか話し合ったが、黒田先生の判断は『再集計』だ。唯もこれに同調したが、特に『あきらかにおかしい票』『おかしいと思われる票』をどう扱うかが最大の焦点になりそうだ。
黒田先生はマイクを持って立ち上がった。
「えー、会場の皆さんにお知らせします。開票結果に疑問があるので再集計を行う事といたします。それと、会場内にいる先生方は大変申し訳ありませんがステージの上に集まって下さい」
黒田先生の声を聞いて、会場内にいた山口先生や松岡先生、清水先生、それに斎藤先生や植村先生、原田先生や武田先生、伊達先生まで集まってきて、教頭先生の指示で『あきらかにおかしい票』『おかしいと思われる票』、いわゆる『疑問票』『無効票』の再確認を始めた。俺たち実行委員は有効と判断した票の再集計を行い、本当に有効票が10票ずつまとめられているか、計算結果に間違いがないかを確認する作業を始めた。
ただし、俺が集めた藍の票だけは全部教頭先生が回収した。他のテーブルの藍の票もやはり教頭先生が回収して山口先生たちが再確認を始めた。そう、『おかしいと思われる票』は藍の票に集中しているからだ。
開票が始まって20分たち、ようやく再集計が終わった。だが、ここで新たな問題がある事に誰もが気付いた。そう、『あきらかにおかしい票』『おかしいと思われる票』が有効投票数の合計よりも僅かだが多いのだ。この投票結果を果たして有効と認めるのか、それとも今年度は投票そのものが無効と判断すべきなのか、それが問題になった。
やがて教頭先生が立ち上がり、ステージ下の貴賓席に座っていた理事長のクラーク博士、校長先生、それとPTA会長のところへ順に話をして、暫く四人で話し合っていたが、全員が立ち上がって教頭先生と一緒にステージ上に上がってきた。会場は重苦しい空気が支配していて、誰も喋ろうとはしない。
教頭先生はマイクを持って重苦しい表情で話し始めた。
「えー、開票結果について発表する前に事態を簡単に説明します。今年の投票率は95%を超えていて過去最高なのは間違いありません。ただし、投票された物のうち52%がいわゆる無効票です。そのため、この投票そのものが有効かどうか実行委員長の佐藤唯さんや生徒会顧問の黒田先生も判断しかねる状況となってしまい、やむを得ず理事長のクラーク博士や校長先生、PTA会長などの意見を求めた次第であります。それではクラーク博士、お願い致します」
教頭先生はマイクをクラーク博士に渡したが、クラーク博士はマイクを持つと優しく語り始めた。
「あー、今回の『ミス・トキコー』は有効である事をここに宣言する。それでは、開票結果は実行委員長である佐藤唯さんから発表してもらう事にするぞ」
クラーク博士はマイクを教頭先生に返し、教頭先生はそのマイクを唯に渡した。唯はマイクを受け取ると2、3歩前に出た。さっきまでなら唯が出てきたら大歓声があがるところだが、今はそれもなく静まり返っている。
“それでは、開票結果を発表します。まずは『準ミス・トキコー』から発表しまーす”
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