第186話 ミス・トキコー②~手を振ったくらいで大騒ぎするなよ

 唯が会場に向かって手を振ると場内から大歓声と拍手が同時に沸き起こった。おいおい、唯は単なる司会者だろ?唯が手を振ったくらいで大騒ぎするなよ。それに唯を撮影している連中の数も半端じゃあないぞ。お前ら、唯の公演と勘違いしてないかあ!?


“過去に『ミス・トキコー』『準ミス・トキコー』の栄冠に輝いた人の中には、超がつく程の有名女優になられた方や人気バンドのボーカルとしてメジャーデビューを果たした人もいるなど、数々の伝説を生んだ伝統イベント『ミス・トキコー』に今年エントリーしたのは11人の方々です。では、その11人に入場して頂きましょう。みなさん、拍手を持ってお迎え下さい”


 会場から拍手が沸き起こって、エントリー番号1番の3年D組の竹内先輩を先頭に11人が俺の位置とは逆側のステージの裾の部分からステージ上に登場したけど、拍手は起きてるけど歓声が全然起きない。その拍手だってさっきの唯の時の方が明らかに大きかったぞ。去年はエントリーした9人が入ってきたら大歓声と拍手が沸き起こったのに、今年はおかしくないか?

 最後にエントリー番号11番の藤本先輩が出てきて所定の位置についたところで拍手が鳴りやんだけど、なーんか盛り上がりに欠けると俺は素直に思った。それは俺の横にいた安孫子先輩も思ったようで「一昨年や去年はエントリー者が出てきたら司会者そっちのけで大騒ぎしてたのに、今年は静かだなあ」と呟いていたし、中野さんも「なーんか、唯さんを撮るのに夢中になってて誰もエントリーした人を見てないような気がするね」と不思議がっていた。

 エントリー者に続いて推薦者も入場して後ろに並んだけど、こちらは誰も注目してないと言ったら失礼だけど、特に何も騒がない。これは去年も同じだったからいいけど、ただ、今年は何故か藍の推薦者である村田さん以外は全員が男だ。逆に藍が浮いたような存在に見えるのが俺には物凄く気がかりだ。これが投票に影響を与えなければいいが・・・。


“えーと、それではPRタイムと行きたいのですが、その前に今の率直な気持ちを聞いてみたいと思いまーす。まずはエントリー番号1番の竹内先輩に聞いてみます。今の気持ちをお聞かせ下さい”


 唯は台本通りに進めているから、特定の候補を応援したり誹謗中傷したりするような発言や行動をしていない。それに、インタビューを受ける格好になった11人のエントリー者も、規則に違反するような発言をしているとは思えない。一応、エントリー者が規則違反の発言をしたかどうかの審議は黒田先生と植村先生が行う事になっていて、最終的に教頭先生が黒と判断した場合は開票前に教頭先生が失格を宣言する事になっている。ただ、今年は新しい規則が運用されて第1回目なので、どこまでが違反なのかの線引きが分からないという事もあり全員が言葉を選んで発言しているのが丸わかりだ。相沢先輩の回答も優等生そのもので藍も大人しいし、特に藤本先輩は普段の女王様ぶり、いわば豪放さが影を潜めていて安全運転に終始している。去年は最初から最後まで女王様っぷりを前面に出していたから、それと比較したら別人の発言みたいだ。

 やはり11人全員が安全運転に終始しているから、墓穴を掘るような発言をするとは思えない。


“それでは、各人のPRタイムと参ります。エントリー番号1番の竹内先輩と推薦者の遠藤先輩、お願いします”


 PRタイムの使い方は真っ二つに分かれた。竹内先輩、村中先輩、藤上さん、戸松さんは推薦者が時間の大半を使って本人は最後の最後に簡単に話した程度だ。でも三平先輩、大林さん、沢城さん、皆川さんは最初に推薦者が簡単な経歴を述べた後は本人が自身の魅力やチャームポイントを時に可笑しく、時に真面目に、とにかく自身をアピールする場として使っている。それに全員がほぼ2分50秒前後で終わらせているという事は相当練習してきているのが伺える。


“続いてエントリー番号9番、相沢先輩と推薦者の宇津井先輩、お願いします”

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