第185話 ミス・トキコー①~今年もこの時間がやってきました

 時刻はまもなく11時になるところだ。

 校内の手の空いている連中は間違いなく講堂に集まっている。そう、これから行われるイベントの結果が気になるからだ。


“ただいまより『ミス・トキコー』を開催します”


「「「「「「ウォーーーーーー!!!!!!」」」」」」


 唯が講堂のステージで『ミス・トキコー』の開催を宣言すると、講堂内にいた連中が一斉に歓声を上げた。

 唯は『ミス・トキコー』の司会進行役としての参加だが、司会者の服には制約がないからメイド服のままだ。でも、相沢先輩や藤本先輩は『ミス・トキコー』にエントリーした出場者だから規則により今は制服だ。当然だが藍を始め、他のエントリー者と推薦者も制服だ。

 今日の俺は朝イチで雑用係の担当をやった後は『ミス・トキコー』の開票担当だ。俺は藍の推薦者だけど、もう一人の推薦者である村田さんが藍の応援演説をやる事になっているからステージの横の会場からは見えない位置で待機している。投票箱はステージの下に3つ置かれていて、いつでも投票できるようになっている。4つ目の投票箱は先ほどまで職員室の教頭先生の机の横に置かれていた事前投票用の投票箱であるが、今は俺の前に移されている。この投票箱も後で開票する事になるが、最後の撮影会で使われるので、それまではここに一時的に置かれる事になる。

 その肝心の『ミス・トキコー』の栄冠の行方なのだが・・・エントリー開始前の評判は「ミス・トキコーは藤本先輩、準ミス・トキコーは相沢先輩で決まり」だった。でも、唯がエントリーを辞退した事で「藍と藤本先輩の一騎打ち」とまで言われたのだが、昨日の夕方時点での分析結果は「相沢先輩、藤本先輩、藍の三つ巴で、誰が勝ってもおかしくない」とまで変わった。

 混戦の評価になった理由は支持層の違いが明らかになったからだ。

 元々3年生は『藤本さんファンクラブ』の人数が『相沢さんファンクラブ』より5割近く多くて圧倒的に藤本先輩有利なのだ。2年生は唯がエントリーを辞退したので藍を統一候補として応援する事になったので、藍の圧勝の状態だ。

 でも、草刈り場となった1年生は、神谷や中村の分析では逆に相沢先輩だ。1年生の女王様派は『トキコーの女王様』藤本先輩と『A組の女王様』藍の二人も女王様がいる事で分散してしまったが、姫様派は『白雪姫』相沢先輩の支持率の方が圧倒的に『A組の姫様』唯よりも高い。つまり、姫様としての人気は相沢先輩の方が高い事で1年生だけを見たら圧倒的に相沢先輩が有利なのだ。

 もし藍と唯が二人共エントリーしていたら、昨日の夕方の時点での分析結果は「相沢先輩と藤本先輩は互角で、藍と唯が割り込む余地はない」になったのだろうが・・・ある意味、唯が辞退した事により問題が複雑化している。いわば、3勢力がほぼ互角になっているようなのだ。

 これらが全員組織立った投票をしたら、まさに『三つ巴』で誰が勝ってもおかしくない状況になる。唯がエントリーを辞退した理由が誤った形で広がった事で、どの勢力も他派支持層の切り崩しそのものが出来なかったので、今年の選挙戦の行方はさらに混沌とした状況になっている。まあ、仮に切り崩しを行ったとしても今年は植村先生と斎藤先生の睨みがかなり厳しかったので自派の評判を下げるだけの結果になっただろうから、ある意味切り崩しをしなかったのは結論だけを言えば正解だったのかもしれない。

 申し訳ないが、この三人以外を支持する勢力は無視できるほど小さくて影響を与える要素は見当たらない。

 それに、今年は既に多くの人が事前投票を済ませている。しかも例年になく多いようで、俺の目の前にある投票箱もかなり重く感じる。かくいう俺も事前投票を済ませた上での開票作業だが、誰に投票したのかは想像にお任せします。

 という事は、今年は当日のPRタイムでの評価を待たずに投票先を決めた無党派層の人が例年よりも多い可能性があるという事だ。これが読みを複雑にしている理由の1つになっている。中村や神谷の分析では、元々、誰を支持すると決めてない人が全体の二割程度いたようで、この人たちが誰に投票するのか、あるいはどれだけ投票そのものをしてくれるのかが全く予想できないので、それが今年の『ミス・トキコー』の行方が読めない原因にもなっている。

 恐らく、いわゆる無党派層の人たちは当日のPRタイムでの評価で投票先を決めるのだろうが、藤本先輩たち三人が去年の唯のような問題発言をするとは思えないし、かと言って墓穴を掘るような真似をするとも思ない。安全運転をするのは目に見えている。

 そうなると『三つ巴』のまま投票が終わって、全てはサイコロを転がした時の出目のように結果が出るまで分からない事になる。

 一言で言い表すなら『混沌カオス』に尽きるだろう・・・。

 まさに『昨年の遺恨試合』に相応しい(?)状況だ。


“さあ、今年もこの時間がやってきました。第5回トキコー祭から行われているトキコー美少女ナンバー1を決めるコンテスト『ミス・トキコー』も今年で20回目を迎えました。司会は実行委員長である2年A組の佐藤唯です。どうぞよろしくお願いしまーす”

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