第184話 美少女メイドを従えた学園長

 そう、この場所はだからだ。堀江さんと平野さんは大勝負をかけたのか他の連中が誰も待ってないの前にいたのだ。職員室も校長室も昇降口から見たら廊下を曲がった先にあるから目立たない事この上ない。

 堀江さんと平野さんが叫び声を上げた事でドタバタと廊下を走る音が俺にも聞こえて来た。どうやら生徒会室や風紀委員室、生徒指導室の前などにいた連中が二人の叫び声に気付いてこっちに向かっているに違いない。

「失礼しまーす」

 唯が校長室のドアを開けると、その扉を開けた正面には校長先生が一人、ニコニコしながら椅子に座っていた。

「すみませーん、遅くなりましたー」

「いやいや、別に遅くはないぞ。まあ、気にしないで入ってくれ」

「はーい」

 そう唯は言うとズカズカと校長室へ入っていき、藤本先輩と藍も続いた。

 俺は今でも状況をイマイチ把握出来てなかったが、校長先生が机の上に置いてあったデジカメを取り上げて俺に渡す素振りをみせた事で、ようやく全てを理解でき、そのまま校長先生からデジカメを受け取って机の前に立ち、藍と唯は校長先生の椅子に後ろに並んで立った。つまり、今日の撮影場所は校長室であり、しかも校長先生の椅子に座っての撮影だ。「美少女メイドを従えた学園長」の雰囲気を味わいながら撮影できるという、男子高校生から見たら妄想の世界を現実化したようなシチュエーションで撮影できるのだ。まさにトキコー祭という年に1回しかない祭典ならではの超特大イベントだ。

 当然ながら校長先生が1番手、2番手が藤本先輩で撮影し、3番手についてはジャンケンに勝った平野さん、堀江さんは4番手という事になった。5番手は男子の一番手という事で何と長田になった。藤本先輩は自分の撮影が終わって俺からスマホを受け取った後は風紀委員の腕章をつけて校長室前に陣取り、そのまま整理係を始めた。さすがに職員室の奥にある場所の校長室前で、しかも藤本先輩が風紀委員の腕章を左腕に巻いて陣取っている前で順番待ちの争いをするバカは誰もいない。騒ぎを起こしたら間違いなく『トキコーの女王様』と『校内2恐』のトリプルでの『ありがたーい(?)お話』を延々と聞かされる事になるからなあ。

 いやはや、藤本先輩の行動力は凄まじいものがあるけど、これを許可した校長先生も校長先生だな。俺はそう思いつつも、次から次へと訪れる撮影希望者からスマホやデジカメを受け取ると、ほとんど機械的に撮影を続けていた。藍はいつも通りのクールな笑みを、唯はいつも通りの自然な笑みをしながら椅子の後ろに立って撮影を続けていたけど、肝心の会長たる内山も中村もなかなか来ない。福山や鈴村があっさり撮影を終わらせたのとは対照的だ。どうやら今日の場所を全然別の場所だと読んでいたようで、かなり出遅れたようだな。このままだと制限時間内に撮影できるか分からないし、それは奥村先輩や世良先輩も同じだ。

 でも、なぜか今日は生徒に混じって先生方が三人来た。清水先生と松岡先生、それと山口先生だ。おいおい、よく並ぶ気になったなあ。ある意味、感心するぞ。

 結局、水樹さんが撮影しようとして俺にスマホを渡した直後に予鈴が鳴り、さすがに校長先生が見ている前では水樹さんも「撮影させてくれ」とは言えず、諦めて椅子から立ち上がったけど校長先生が「まあ、君まではOKにしよう」と言ってくれたので最後の撮影者は水樹さんになった。でも、水樹さん以降に並んでいた人は撮影を認められなかったので自分たちの教室へ戻って行ったが、水樹さんの次に撮影するはずだったのが因縁深い(?)宮野だったのだから、まさに占い通りの結果になり、納豆を食べる量が神様が見越したより少なかったのか「泣きっ面に蜂」状態だ。内山と中村は何とか撮影できたがほとんど予鈴が鳴るギリギリだ。奥村先輩と世良先輩はとうとう校長室に入って来なかった。どうやら予鈴が鳴ってしまったため、こちらも諦めて教室へ戻って行ったようだ。

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