第183話 正門前はほとんど・・・

 俺たちはいつもの駅で降りて5人でトキコーへ向かう形になったけど、案の定、今日も正門前はごった返している。しかも昨日以上の人数、恐らく昨日の倍以上の百人を超える人数だ。ただ、明らかに殺気立っているけど、昨日のような騒然とした風景ではない。

 それもそのはず、昨日の夕方、藤本先輩が

「明日の朝、正門が開く前に正門前で騒ぎを起こす奴は開門と同時に風紀委員長の強権を発動するからそのつもりでいろー!」

と、何と校内放送を使って事前に警告(?)を発していたのだから、『トキコーの女王様』の説教を受けたい程のMの奴は校内にいないから誰も騒ぎを起こす気になれないのだ。

 だが、目だけは明らかに血走っている連中が大半だ。 

 内山は「二日連続1番先に撮影するのはおれだ」と昨日の午前のうちから言ってたし、中村は「二日連続で内山が1番なのは唯派会長としての面目丸つぶれだから絶対に阻止する」とこちらも早々に宣言してたから今朝も早速内山を目の敵にしている。神谷や福山も「会長だからと言って内山と中村だけが甘い汁を吸うのは許さない」とか言って早々に宣戦布告して列の中程にいる。宮野も昨日の帰り際に「大嫌いだけど納豆を食べまくってやるから明日こそ1番はいただきだ」と俺と藍に宣言していたから、どうやら本当に納豆を食べてきたようだし今日も列の先頭に立っている。鈴村に至っては「今日は相手が誰であろうと手加減する気はない。誰であろうと撃ち落とす」とか言って今日だけは『トキコー弓道部の那須与一』の本領を見せつける気だ。いや、会長や副会長だけでなく、平野さんや堀江さんの女子連中、他にも男女・学年関係なく殺気立った目をしている。

 しかも、この集団の中には長田までいるじゃあないか!理由を聞いたら「C組の連中は結構騒いでたけどおオレ自身はどうでも良かったんだ。でも、二度とないチャンスだから撮っておこうって思っただけさ。篠原も誘ったんだけど、あいつは『疲れるから嫌だ』とか言って早々に断ったぞ」などというアホな理由をあっけらかんと言ってるし。お前は藍派でも唯派でもないんだろ?一体何を考えて並んでるんだあ!?

 それに、どういう理由かは知らないが『相沢さんファンクラブ』会長の世良先輩、『藤本さんファンクラブ』会長の奥村先輩までいる。その理由を聞いたら奥村先輩は奥村先輩で、世良先輩は世良先輩で

「昨日、藍さんに占ってもらったら今日のラッキーアイテムの欄に『可愛い後輩二人』って書かれてたから、どう考えても藍さんと唯さんの二人だとしか思えない。藤本さんが『ミス・トキコー』に返り咲く意味でも絶対に記念写真を撮らせてもらう」

「昨日は奥村だけが藍さんに占ってもらって、おれ自身はあと少しのところで出来なかったから、今日も奥村に甘い汁を吸わせるのは、相沢さんに『ミス・トキコー』の栄冠に輝いてもらう意味でも不都合だし、三度目の正直を実現させる意味でも絶対奥村に先に撮らせるのは嫌だ」

などと二人とも訳の分からない理屈を並べてけん制し合っている感じだ。

 つまり、正門前はほとんど混沌(カオス)に近い状態だ。

 さすがの藤本先輩もここまでの状況を予想してなかったようで唖然としていたし、当然俺たちも開いた口が塞がらなかった。

 午前7時に学校事務の人が正門を開けた途端、この百人を超す連中は一斉に走り出したが、昨日以上の凄まじさに俺たち5人はただ茫然と見送るしかなかった。


 俺たち5人は走る事なく昇降口まで歩いて行ったが、舞だけは目的が違うのでここで別れ、残る俺たち4人は更衣室へ向かった。

 藍と唯、それと藤本先輩は一緒に女子更衣室へ入って行った。さすがに更衣室前で待ち構えている無謀者はいないが、俺は女子更衣室に入る訳にいかないし、かといって女子更衣室前で待っているという変態行為をする訳にもいかず、少し離れた廊下で藍たちが出てくるのを待っていた。

 時間にして5分も経たないうちに藍と唯がメイド服に着替えて出てきたが、三人ともニコニコしながら出て来た。という事は藍も唯も更衣室内で藤本先輩から今日の撮影場所を聞いたはずだ。

「たっくーん、お待たせー」

「別にたいした事はないぞ。じゃあ、行こうかあ」

「それじゃあ、私たちについてきてねー」

 俺は三人の後ろを追い掛けるようにしてついて行ったのだが、三人が向かったのは昨日とは別の場所だ。当然、こんなところで順番待ちをしている生徒は一人もいない・・・と思ったら女子が二人いた。あれは堀江さんと平野さんだ。この二人は自分たちが待っていた場所が正解だと思って歓喜したが、唯はこの二人の前をサラッと通過したかと思うと、その奥の部屋、つまり突き当たりの部屋の前で止まった。

 その瞬間、堀江さんと平野さんは

「「えーーーー!!!!」

と大声をあげながら走ってきた。当然だが俺も口には出さなかったが「なんだこりゃあ!」と叫びたくなった。

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