第176話 制限時間は30秒!
田中先輩はその紙を見せられた時には「何の事だ?」と言わんばかりの怪訝な表情をしていたが、その紙を読んでいくうちに再び顔が真っ赤になって、ワナワナと体が震えだした。
「さあ律子、もうボクが言いたい事はわかったよな。悪いけどこの場で返事をくれ。そうすればボクの占いが正しいかどうか証明できるからな。制限時間は30秒、すたーとお」
そう言うと山口先生はニヤニヤした顔で三島先輩と田中先輩を両方を交互に見ている。三島先輩はさっきから椅子に座ったまま顔を真っ赤にして顔を伏せているが、田中先輩はまだ立ったままだけどこちらも顔を真っ赤にしたまま固まっている。でも、時々チラッチラッと三島先輩を見ている。
「あのー・・・この場で答えないと駄目ですか?」
「そうだぞー。残り10秒、9、8、7、6・・・」
「あーーー!!!分かりましたよ!答えればいいんでしょ、答えれば」
「そうそう。律子、イエスか?それともノーか?」
「あのー・・・実は・・・ついさっきまで占ってもらってたのは私の恋愛運だったんだけどお、その意中の相手が・・・こいつでして」
田中先輩が顔を真っ赤にしたまま右手の人差し指を向けた相手、それは三島先輩だったのだ。
「「「「「えーーーーーーー!!!!!!」」」」」」
当然だが、この結果にクラス中が大騒ぎになって拍手喝采の渦だ。まさかこういう結果になるなんて予想してなかったからなのか山口先生もニヤニヤを通り越して呆れ顔になってるけど、その結末には非常に満足しているようだ。
三島先輩は自分が田中先輩に指さされているなんて気付いてなかったけど、周囲の反応に顔を上げた。それで周囲が拍手や歓声を上げている事から事情が呑み込めたようだ。さっきまでの表情が嘘のようになって歓喜の表情をしている。
「よーし、さっそく今日のカップル成立第1号だあ!おまえたち、ここにいると邪魔が入るから、どこか別の場所でイチャイチャしてこい!あー、その代わり律子、ライブまでには帰ってこいよー」
そう言って山口先生は三島先輩と田中先輩を送り出したけど、A組を出ていく時に三島先輩の方から田中先輩の手を握ったから、見ていた全員から大歓声が上がった。
「諸君、これでボクの占いの正しさが証明できただろ?何しろ、今のボクは神懸ってるぞ。ボクが占った3人ともさっきの三島と同じ結果で恋愛運は最強だったから、これはボクが神懸っている証拠さ。田村と
と自慢げに話していたら、いきなり七条先輩と柴田さんの二人のポケットから音がした。「あっ、メール。占いの邪魔になるからマナーモードにするのを忘れてた」と言いながら二人ともスマホを取り出したけど、その瞬間、ほぼ同時に
「「えーー!!」」
いきなり二人が叫び声を上げたから全員が二人に注目したけど、七条先輩が「うわー、田村さん、
「そうらみろ、全部ボクが言ったとおりになっただろ?これで今日のボクが神懸っている事が証明された。成功率100パーセントだぞ。今ならボクが占うまでもなく君たちの願いはきっと叶うぞ。あ、そうだなあ、自分の想いを伝えたい人がいる奴はどんどんボクの所へ言ってきたまえ。なんならこの場でそいつを呼び出してボクが結果を見届けてやってもいいぞお」
山口先生が鼻高々に宣言したから、もう占い待ちの順番関係なく山口先生の所へ女子が殺到して「好きな人がいるんですけど」とか「どうしても気になる人がいるんです。お願いですから山口先生の力を貸してください」などと次々言ってくるし、男子も「おれもお願いしますよ」とか「ここに呼んで欲しい子がいるんですけどいいですか」と言って山口先生に詰め寄ってくる始末だ。
完全に山口先生主催の公開告白会場と化してしまった2年A組の教室は、山口先生が次々と「3年B組の〇〇を呼び出せ」とか「2年F組の××の連絡先を知ってる奴はいるか」などと言っては男も女も関係なく呼び出し、その間にも噂が噂を呼んで特に女子が山口先生の所へ相談を持ち掛けてきている。もう占いをやっているような状況ではないから、仕方なく実行委員である俺の判断で占いを一時中断して、ここにいる2年A組全員が呼び出し係をやる事になってしまった。かくいう俺も電話で長田に連絡して2年C組の女子を呼んでもらったり、わざわざ1年A組まで行って目的の男を連れてきたりもした。
結局、山口先生の担当時間内に30組以上の公開告白が行われ、不成立が2組のみという、驚異的な結果に終わった。まさに恋愛キューピッド・山口先生の面目躍如といったところだ。それ以外にも5人ほど本人がクラスや部のイベントで2年A組に来れない人がいたので、山口先生が後で直接本人に確認を取る事を約束している。しかも山口先生の仲介で成立したカップルは少なくともトキコーを卒業するまでは別れないというジンクスまであるから当人たちは大喜びだ。別れたというのが発覚したら後で山口先生から何を言われるか分からないから、絶対に別れるなんて言い出せない、というのが正しい表現だな。
しかもドサクサに紛れて2年A組同士がくっ付きやがって、周囲からひんしゅくを買っていた事に気付けよお、ったくー。
残念ながら2組(?)が不成立になったのだが、これにはやむを得ない事情がある。
1つ目は、3年生の男子が「この子と付き合いたい」と山口先生に言って、伊藤さんが2年生の女子を連れて来たが、1年生の男子が「先輩ではなく、おれと付き合ってくれ」と言っていきなり参戦した事でその子も躊躇してしまい、迷った挙句「ごめんなさい」と両方共断ったという件。まあ、この件では山口先生が三人に対し「恨む事は決してするなよ」と念押ししているから後で揉める事はないだろう。もう1つが、2年生の女子一人と1年生の女子二人が同じ3年生男子を指名して女子同士が険悪なムードになって山口先生が困っていたら「そいつは私の彼氏だから絶対駄目」と3年生と2年生の女子が来た事で二股交際が発覚し、その3年生男子は山口先生の逆鱗に触れ担任経由で山口先生の呼び出しを受けて2年A組で公開説教された挙句、二人の彼女と、その男子を狙っていた三人の女子の計五人から罵倒され当然不成立に終わった件。それ以外は全て成立したという、まさに神懸かった成功率に終わった。
まあ、場の雰囲気に流された感もあるけど、それにしても「凄まじい」の一言に尽きる。
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