第175話 人生相談じゃあないんだから・・・

 そんな山口先生に今占ってもらっているのが3年C組の三島春樹輩だ。三島先輩はどうやら恋愛運について山口先生に占ってもらってるようだが・・・

「あのー・・・山口先生、これって本当なんですか?」

「あー、みしまー、ボクの占いを信じてないなあ?」

「だってー、この占い通りなら『今が最高の時、すぐにでもやれ』って事ですよねえ。信じていいんですかあ?」

「おーし、それなら三島、お前のリアルの話をこの場で聞いてやろう。それなら文句あるまい」

「えー!ちょ、ちょっとそれは話が進み過ぎですよお」

「なーに言ってんだあ!?お前が言い出したんだろ?だったらこの場でこの占いが正しいかどうか試せばいいんだろ?」

「はあ、たしかにそうですが・・・」

 おいおい山口先生、全然台本と違うぞ。それに三島先輩も迷惑してますよ。人生相談じゃあないんだから、少しは空気読んでくださいよお。

「三島、お前、そう言うからには狙ってる奴がいるなあ?それが誰なのかボクに言ってみろ」

「えー!マジでそれは勘弁してくださいよお。たしかにそれは認めますけど、これだけの連中の前で言うのは恥ずかしいですよ」

「そうかあ、じゃあ、筆談にしてやる。三島、この紙の裏にお前が狙ってる奴の名前を書け。そいつがこの学校の生徒なら後でボクが直接聞いてやる。それなら文句ないだろ?」

「それなら文句ないですけど・・・」

「じゃあ、ここに書け」

 そう言うと山口先生は三島先輩の占い結果を印刷した紙を裏返すと同時にボールペンを差し出した。その紙に三島先輩は後ろや左右から見えないように小さく字を書いて

「あのー、これでいいですか・・・」

「ああ、いいぞお・・・ふむふむ、なるほどねえ」

 そう言ったかと思うと山口先生はその字をボールペンでグシャグシャっと上書きして誰からも見えないようにしたかと思うとニヤニヤし始めた。

「なーるほど、三島、お前が狙ってるのはこの子かあ」

「山口先生、ぜーったいに誰にも言わないでくださいよお」

「あー、ボクは言う気はないけど、あいにく、そいつが今この部屋にいるんだけどなあ」

「えーー!!」

 そう言うと三島先輩は周囲を見渡して、ドキッとした表情となった。恐らく三島先輩本人は気付いてなかったのだろうが、紙に書いた女の子がこの教室にいたんだ。客か?だとしたらタロットの列にいる2年E組の柴田さん、三島先輩の次に易で占ってもらうべく座っている3年C組の七条先輩、伊藤さんに占星術を占ってもらっている最中の軽音楽同好会部長でもある3年E組の田中律子先輩、占星術の最後方に座っている1年C組の新田さん、それとついさっき教室に入ってきた子で、あれはたしか明日の『ミス・トキコー』にもエントリーしている1年A組の藤上さん、それと俺の横に立っている舞の誰かなのか?それとも今の占いを担当している2人、平野さんとタロットカードを代わった加藤さん、花澤さんと占星術を代わった伊藤さんのどっちかなのか?

 当然だが占い待ちの連中は山口先生と三島先輩のやり取りを聞いていて興味津々に二人を見ているし、柴田さんたち女の子は「え?もしかして私?」という顔をしている。でも田中先輩と伊藤さん、それと加藤さんは占いに集中しているから全然気付いてない。

「おっし、『鉄は熱いうちに打て』の格言通り、占いに従って、そいつをここに呼ぼう!」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよお、俺、恥ずかしいですから勘弁してくださいよお」

「だーめ。おーい、伊藤!お前が占ってる奴をここに連れてこい」

 そう山口先生が言った途端、三島先輩以外全員の視線が一人の女の子の集中した。伊藤さんが占っている相手、それは軽音楽同好会部長の3年E組の田中先輩だ。

 伊藤さんも最初は何を言ってるか全然分からず、俺の方を見て「あのー、何かあったんですか?」と言わんばかりの視線を送っていたから、俺が伊藤さんの所へ行って小声で事情を説明した。そうしたら伊藤さんもニヤニヤして

「田中せんぱーい、大変申し訳ありませんが、先輩の恋愛運の占いはここでしゅーりょーでーす」

「はあ?どういう意味?」

 そう言うと田中先輩はキョトンとした顔になって伊藤さんを見たが、同時に周囲の視線が自分に集中している事に気付いてドキッとした顔に変わった。そのまま自分の右手の人差し指を自分に向けたかと思うと

「わ、わたし?・・・なんか変なことやりましたか???」

「はーい。山口先生がお呼びでーす。占いの続きはそちらでお願いしまーす」

 そう言うと伊藤さんは田中先輩の右腕を無理矢理掴んで立ち上がらせ、そのまま山口先生のところへ引っ張っていった。田中先輩は何が起きたのか全然理解してないが三島先輩の横に立たされた時には顔が真っ赤になっていた。

「ちょ、ちょっと山口先生、これはどういう事なんですか?意味不明なんですけど説明してくださいよお」

 田中先輩は山口先生に猛然と抗議したけど、山口先生はどこ吹く風と言わんばかりの顔で

「あー、律子、悪いんだけどさあ、ここにいる三島がボクの占いを信じてないんだあ。だから『論より証拠』、この場に上手い具合に律子がいたから、この占いが正しいかどうかを証明したいんだ」

 そう言ったかと思うと山口先輩は机の上に置いてあった三島先輩の占い結果の紙をビシッと田中先輩に突き出した。

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