第166話 トキコー祭始まる

 時刻は午前8時59分になった所だ。


 俺だけでなく、クラスみんな、いや、多分、どのクラスも、どの部や同好会の生徒も先生も時計を見ている筈だ。各部屋の時計は全て電波時計だからズレているという事はあり得ない。だから、どの部屋にいる生徒もカウントダウンのタイミングを待っている。


「「「「「「「・・・10、9、8、7、6、5、4、3、2、1」」」」」」」


『ただいまより、第24回 私立札幌時計台高校学園祭を開催します』


「「「「「「ウォーーーー!!!」」」」」」


 唯が小ホールのステージからトキコー祭の開催を宣言し、その放送を聞いた学校中の連中が歓声を上げて今年のトキコー祭が始まった。

 唯はそのまま小ホールで行われるオープニングイベントを進行する担当になっている。今年は唯がオープニングイベントをメイド服でやってるので、手の空いている連中は殆どが小ホールに行ってる。A組の連中もクラス・部・同好会のイベントに参加してない人は全員が小ホールに行ってるけど、唯が司会をしているからではない。それは藍が小ホールの片隅で記念撮影をやっているからだ。さすがに風紀委員室でずっと撮影する訳にはいかないので、朝のショートホームルームまでで打ち切って、メイド服のままショーホームルームに出てその後は小ホールで記念撮影を行っている。A組や文芸部の会場で記念撮影を行うとイベントの迷惑になるし、かと言って他の部屋も同じ事なので適当な場所がなく、仕方なく小ホールでやっているのだ。もちろん、唯もそれを承知しているし、オープニングイベントとは言っても、殆ど一般来場者向けのセレモニーみたいな物だから俺たち生徒にとっては感心は薄い。

 この時間、藤本先輩は風紀委員の腕章をして巡回をしているし、もう一人のメイドである相沢先輩はアニ研の会場となっている旧校舎2階にいる。

 旧校舎は元々会場としては人気がなく部屋が余っている状態なので、アニ研が2階フロアを貸し切り状態にしているのだ。そのうちの一番奥の部屋を『相沢美咲個人展』にして、相沢先輩が描き上げたイラストやキャラクターを壁一面に展示していて、さらにアニ研メンバーの個人出版の作品販売と合わせて相沢先輩の記念撮影もやっている。

 アニ研はトキコー祭予算全部と今年度活動費の大半を3着のメイド服に使ったのでお金が無い。だから今年は個人所有物であるイラストやフィギアの展示(もちろん、盗難防止のため高額な物は置いてないが、柳瀬先輩は時価数万円の物を多数持っているらしい)、さらに自費出版したコミックなどを販売する方法に切り替え、展示場所も旧校舎2階を貸し切り状態して話題を呼ぶなど、逆境を逆手にとった戦術が評判を呼んでいる。そのアニ研の売り上げアップ・客寄せの為に相沢先輩がいると言っても過言ではない。藍や唯、藤本先輩も間接的にアニ研の広告塔の役割をしているし、何と言っても生徒会長でもある『白雪姫』相沢先輩の存在感は凄まじいものがあるから、そちらにも『相沢さんファンクラブ』の連中を中心に大勢の人が殺到している状態だ。


 俺たち2年A組はというと、唯の合図に合わせてクラスイベント開店となった。『占いの館』初日バージョンのオープンだ。ただ単に占いと言っても色々ある。俺たち2年A組は3つの占いコーナーがあり、お客さんはどれでも好きな占いを選んで、今日・明日の運勢や将来の予言、吉凶を占っているのだ。

 3つの占いとは、タロットカード、易、占星術だ。

 初日バージョンと銘打っているのは、今日の2年A組は伊藤さん提案のタロットカードの22枚の絵を散りばめた飾りつけになっているからだ。明日は神谷が提案した占星術、つまり星と天体、黄道十二星座を散りばめた飾りつけに変わるので、今日のイベント終了後に模様替え作業を行う事になる。

 最初の俺たちのクラスで占い担当は、タロットカードが坂本さんと高木、易が大久保さんと野島、占星術が藤井さんと小林だ。ただ、実際に表に出ているのは女子だけで三人とも占い師らしいコスプレだ・・・が、以外の何物でもない。男三人はカーテンの後ろでパソコンを操作する担当だ。つまり、二人1組になって占いを行っている。因みに坂本さんたち3人もショートホームルームはコスプレで出席している。

 実際の占い方法だが、例えばタロットカードの場合、客が希望する占いを5種類の中から選択してもらい、さらに3枚のカードがどの順番で、どちらの位置にというのを「1枚目が審判ジャッジメントの正位置で」と客に説明をするフリをして坂本さんが言った言葉を襟に付けたマイクで拾い、それを高木がイヤホンで聞いてパソコンの画面をマウスでクリックして入力していくのだ。全ての入力を終わったら坂本さんの足元にあるプリンターで結果を出力し、それを客に手渡しながら運勢を説明していく。うまく聞き取れなかった、もしくはトラブル発生の時だけは高木がマイクの電源の押し釦スイッチを入れて坂本さんのイヤホンに伝える仕組みで、それ以外は裏方は喋る事をしないのだ。本当は音声入力システムか小型カメラが欲しかったのだが予算の都合で無理だったので、格安のプリンターとタダで手に入れた旧スペックのパソコン、神谷たちの私物であるマイクを使って二人一組で対応しているにすぎない。

 もちろん、女子は交代者もコスプレだが全部で4種類しかないので五月雨式に時間差で交代していく形になる。裏方の男は制服のままなので一斉に交代しても支障ないが約束事として占いの途中で交代はせず、占いが終わった段階で交代する事になっている。まあ、西洋と東洋の占いが混在しているからコスプレはどちらでも対応できる物を用意するつもりだったが、なぜか「チャイナドレスでタロットをやりたい」「魔女のコスプレで易をしたい」などというを言い出す女子が圧倒的に多くて俺は途中で匙を投げた格好なのだが・・・村田さんと歩美ちゃんの良識ある判断(?)に任せた俺が馬鹿だった・・・と思っているがクラスの連中からは好評なのだから、俺の考えがおかしいのか!?。

 それ以外にプリンターへの紙の補充やトラブル等があった時の対応などの雑用係として、システムを構築した俺と泰介、ソフト・ハード全般に詳しい神谷の三人のいずれかが常に待機している状態だ。

 あと、廊下に受付担当が一人いて、今の占い担当者名をボードに掲げて呼び込みも兼ねている。こちらは男女関係なく常に一人だが制服だ。受付担当は赤色・青色・黄色の通し番号が入った積み木を持っている。

 赤色はタロットカード、青色は易、黄色は占星術を意味し、客は30円を受け付け担当に支払ってから自分の望む占いの色の積み木を受け取って中に入り、占い師に積み木を渡す事になっている。俺たち雑用係は積み木が一定数になったら廊下の受付へ戻す役割もある。ただ、基本的に教室で待機できるのは各占いで4人までとなっていて、後は廊下で待つ事になる。積み木の通し番号は一種の整理券の役割をしているから、番号を入れ替えて占う事はしないルールになっている。

 つまり、俺たち2年A組は常に8人体制でクラスイベントを行っている事になる。

 ただ、俺たち2年A組にはスペシャル占い師が三人いる。

 一人目は唯だ。実行委員長として公式行事の合間を縫っての占い担当なので、メイド服のまま占いをやる事になっている。

 二人目が藍だ。何しろクラス1の巨乳なので一人だけコスプレのサイズが合わず、かと言って藍の為だけにもう1着用意する予算も残ってなかったから、藍はを使って担当する事になっているから話題性だけは抜群だ。その為に今日の藍はわざわざをバッグに入れて登校したくらいだ。父さんや母さんも知ってるけど、藍に占ってもらえる可能性はかなり低い。占ってもらいたい人が殺到するのが目に見えているからだ。

 三人目が担任の山口先生だ。村田さんが代表して山口先生にお願いして土曜日の午後に2時間だけ占いの担当をやってくれる事になったのだが、肝心のコスプレは自分で用意すると宣言していた。でも、どんなコスプレなのかは「ぜーったいに教えない」と言ってるからクラスの誰も知らない。まさに『蓋を開けてのお楽しみ』状態なのだ。

 スペシャル占い師が入るタイミングは、女の子たちが希望するコスプレの交代タイミングが合わない時間に組み込まれている。でも、スペシャル占い師の登場は2日間を通して1回しかないから、それを狙ってA組に他のクラスの生徒が殺到するのは目に見えている。いかに素早く捌けるかが勝負と言えそうだ。

 もちろん、俺たち2年A組はクラスイベント投票の優勝を狙っている。



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