第158話 珍記録の持ち主

 リビングに入った途端、藍と唯の二人が片手を口に当てて驚きの表情をした。

 父さんはニコニコ顔で

「おー、おかえりー。明日の準備で遅くなったのか?」

 と俺たちに言い、母さんもまた

「夕ご飯はまだでしょ?すぐに準備するから着替えてきなさい」

と言って立ち上がりキッチンに入って行った。

 だが、母さんの横にはもう一人の女性がいた・・・石田絵里、旧姓佐藤。つまり姉貴だ。

「おかえりー。藍ちゃんも唯ちゃんも、ウチとは初対面と言ってもいいわね。拓真の姉、石田絵里です。よろしくね」

 そう言うと姉貴はニコッとしたけど、その声を聞いた瞬間、藍は鞄を落とし、唯は思わずと言った感じで2、3歩後ろに下がってしまった。

「おーい、藍ちゃんも唯ちゃんもどうしたー?まあ、仕方ないかあ。父さんも藍ちゃんと唯ちゃんには最初は驚かされたからなあ」

 そう父さんが笑いながら言ったけど、藍と唯が驚くのも無理はない。

「藍ちゃんも唯ちゃんも着替えてきなさーい。すぐにご飯にするわよ」

 母さんがキッチンから声を掛けたので、藍と唯だけでなく、俺も2階の自分の部屋に行って制服を脱いで私服に着替え、再びリビングに降りてきた。

 俺たち三人はかなり遅い夕食を食べ始めたけど、普段母さんが座っている席には姉貴が座っているし、父さんは自分の席に座っている。

 藍も唯もソワソワしながら食べているけど、ショックからは立ち直ったようだ。


 そう、俺の姉貴は・・・。


「それにしても唯ちゃんには驚きよねー。ウチがなれなかった『ミス・トキコー』に1年生の時に選ばれたんだからさあ。なーんか、お姉さん拗ねちゃうぞー」

「とんでもないですよー、絵里お姉さんには敵わないです。唯なんかホントに子供っぽいし、絵里お姉さんのように綺麗じゃあないですよ」

「そんな事ないわよー。若いって羨ましいわ。しかも翼君からみたらオバサンだからねえ」

 そう言って姉貴はため息をついたけど、決して老けている訳ではない。因みに翼君とは俺の兄貴、佐藤翔平の子で、ようやく歩けるようになった程度だ。姉貴にはまだ子供がいない。兄貴は公務員で現在は函館にいるが子供がいる、というよりデキ婚なのだから子供がいて当たり前だ。

 姉貴はトキコーOGだが、同時に『三年連続準ミス・トキコー』という、史上唯一というか今でも破られてない珍記録の持ち主だ。教頭先生や榎本先生が姉貴を覚えている理由の1つはそれだ。その姉貴の手が届かなった『ミス・トキコー』の座に唯はついたのだ。もっとも、今年はエントリーしてないので2連覇の可能性は無くなっている。

 まあ、姉貴自身が『ミス・トキコー』に全然感心がなく、周りが勝手に推薦したので仕方なく出場していたから本人も選挙運動なんかした事がなく、ましてや自己PRの時も一言も喋らず推薦者が一人で喋っていた程だ。そんな姉貴の周りの連中も「絵里さんがやらなくていいって言ってるから」と選挙運動もせず、口コミしかしてなかったらしい。

 それでも準ミス・トキコーに3年連続で選出される程の美少女だったのは事実だから、本人や周囲がその気になれば三連覇できたかもしれない。


 だが、教頭先生や榎本先生が姉貴を覚えている理由はそれだけではない!


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