第154話 拒否権は認めませーん

 相沢先輩、藤本先輩、唯の生徒会三役が声を揃えて前夜祭の開催を宣言すると、会場の盛り上がりが最高潮に達した。

 前夜祭でやる内容は毎年変わる。今年の前半は講堂で行われるのを逆に利用し、演劇部のセットを一部借りて執行部6人による演劇とトークショーをやる事になっている。これらは実行委員会に寄せられた意見の中から決まった事だ。

 演劇の内容は、三役がメイド服で登場する事と、生徒会長である相沢先輩と会計担当である宇津井先輩がアニメ『生徒会長はメイド様』の主役である生徒会長と相手役の男の子に名前が似ている所を逆に利用し、アニメのメイド喫茶での出来事のワンシーンをモチーフにしたものだ。さらに配役は、相沢先輩が主役の生徒会長、宇津井先輩が相手役の男の子、藤本先輩がメイド喫茶の女店長、唯が同僚のメイド、本岡先輩と藍が店の客役で、まさにアニメのシーンそのものだった。ナレーションは歩美ちゃんの担当だ。

 でも・・・当然だが演劇部のような演技を披露する訳ではないしアニメの1シーンを再現する訳でもない。しかも、アニ研の柳瀬先輩と安孫子先輩が演劇開始前にステージの上で直接7人に手渡した台本をチラ読みしただけで、本当に『ぶっつけ本番』である。

「えー!これを私が言うのー」

「ちょ、ちょっと柳瀬、これを俺にやらせるのかあ!?」

「こんなナレーション、わたしもやった事ないですよー」

など、台本を見ながら既に7人とも笑っていて、唯に至ってはお腹を抱えて爆笑していた。

 そう、これは演劇というよりはコントだ。しかもコントだから他の人気アニメや有名ドラマのパクリの連続である。会場は大爆笑の渦だったし、台本片手に演じている本人たちも笑いを抑えるのに必死だったから、これはこれで超がつく程に楽しかった。襟の部分にマイクをセットしているから思わず吹き出したりするところもマイクが拾っていたから、その度に会場のみんなも笑ってたし、ナレーションの歩美ちゃんも含めてまともにセリフが言えない場面が続出し、相沢先輩に至っては笑い過ぎてセリフがまともに言えなくて言い直すシーンの連発だ。当然だが俺も泰介も最初から最後までお腹を抱えて笑い続けていた。

 大盛り上がりのコントが終わった後は、メイド喫茶のセットの丸テーブルに半円状に椅子を4つ並べ、時計回りに相沢先輩、藤本先輩、唯、藍の順番に座り、宇津井先輩と本岡先輩の司会でトークショーが始まった。

 このトークショーに先立ち、昨日・一昨日の放課後限定で生徒会室に『生徒会女子四人組への質問書』という紙が置かれた。この紙に各自が女子四人の誰か、あるいは複数の人に聞きたい質問内容を書いて、それを抽選箱みたいな箱に入れ、司会者が箱から取り出した質問書に書かれた内容に四人が答えるという内容だ。まあ、質問内容は「校内の風紀を乱さない物なら何でもOK」となっていたし、しかも無記名だったから、グレーゾーンの質問を書いた物が大半だという事は容易に想像がつく。

 宇津井先輩がトークショーの開催を宣言し、本岡先輩が抽選箱を持ってきてステージの上にドンと置いた。かなりの枚数が入っていそうな感じだ。

「えー、それでは、皆さんから寄せられた、最初の生徒会女子四人組への質問を決めたいと思いまーす」

 そう言ってから宇津井先輩が箱に右手を入れ、がさがさと掻き混ぜた後に1枚の紙を取り出した。

「えーと、最初の質問ですが・・・会長に質問します。好きな食べ物と嫌いな食べ物を教えて下さい」

 いきなり宇津井先輩から話をふられた相沢先輩は苦笑いをしながら

「えーと、これって答えないと駄目なの?」

「拒否権は認めませーん。校内の風紀を乱す内容の質問かどうかの判断は司会者にありますので、回答者にはありません」

 当然だが会場からは拍手喝采で宇津井先輩の発言を支持し、藤本先輩も「みさきちー、拒否権はないぞー」と宇津井先輩を支持したので、相沢先輩の渋々と言った感じで

「好きな食べ物はハヤシライス。だけど人参が入った物は絶対に駄目!人参抜きのハヤシライス」

と答えた。どうやら相沢先輩は人参が苦手のようだ。

 続いて本岡先輩が箱に右手を入れて1枚の紙を取り出したが・・・超がつく程の渋い顔をしながら


「えー!これを俺が質問するのかあ!?マジで勘弁してくれよお」

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