第153話 前夜祭開始

 唯はそのままメイド服でクラスイベントの準備作業を手伝っていたのだが、他のクラスの連中も手の空いた奴が次々とA組にやってきては唯との記念撮影をしてニコニコ顔で帰って行ったので、A組の連中は冷たい目をして「お前ら、準備作業の邪魔だ」と言わんばかりの表情だった。中にはティーカップや掃除道具などを個人で用意して唯の所へ来て、あーだこーだとポーズまで注文を出して写真撮影をする奴が出てくる始末で、唯も唯で面白がって注文に応じていたが「時間が掛かり過ぎる」「後ろの迷惑」という理由で、クラス委員の村田さんの判断で『撮影時に注文を付けるのは禁止』が追加された。

 ただ、自分が勝手に持って、好きな恰好で撮るのは禁止されてなかったので、いつの間にか1枚目は普通に撮って、2枚目は唯も含めて半分冗談、ふざけたようなツーショットを撮るのが当たり前になってしまった。まあ、男子の場合はハイタッチ、両手を合わせて向き合う、腕を軽く組むとか、あるいは持参したティーカップを一緒に持ったり、そんなツーショットを唯が勝手に指定していた。女子の場合は大胆に腕を組んだり肩を組んだり、あるいはキスしているかのように顔を近づけるとか、結構際どいシーンを演出していた。

 俺たち2年A組のクラスイベントの準備もようやく終わりが見えてきた。

「おーい、たくまー。こっちは終わったぞー」

「あー、わたしの方も大丈夫よー」

「こっちもOKだよ」

 そういう声がしてきたので、俺は「じゃあ、リハーサルをやってみようかあ」と言い、唯がお客さん役をしてリハーサルを行った。堀江さんが唯の相手をしていたが今はリハーサルなので制服だが明日の女子は全員コスプレだ。唯と堀江さんの二人を周りの連中が見ながらあーだこーだ言ってけど、やっぱり頭で考えていた通りにはならない事が分かって、唯を中心に検討し直し、唯や堀江さん以外の人もイベント担当や客担当をして何度か修正をかけ、台本を作り直した。

 また、男子は裏方担当なのでパソコンの操作方法を必死になって覚えようとしていた。ソフトをインストールしてマニュアルを作成したのは俺と泰介なので今日は教える側になっていた。当初と台本を作り変えた関係で操作マニュアルの順番も変えざるを得なくなったが、これは仕方ない。実際に表に出ているのは女子なのだから台本に合わせて操作を変えるしかないのだから。とりあえず今は番号を書き直したマニュアルで練習してるが、後で作り直しも必要だ。

 飾りつけ作業も一段落し、マニュアルや台本の作り直しも俺と泰介が急ピッチでやった事で何とか時間内に全ての準備を終わらせる事が出来て、俺たちは講堂へ移動した。


 講堂でやる事、それは前夜祭である。


 前夜祭は自由参加であり、会場は本校舎の小ホールと決まっている。

 しかし、今年は違う。例年ならクラスや部・同好会の準備が終わってない連中は参加しなくて全体の半数にも満たないので問題ないのだが、今年は生徒会三役が揃ってメイド服で登場する最初の公式行事になっているので、ほぼ間違いなくクラスや部の準備作業を中断してでも小ホールに殺到するのが目に見えていたから、実行委員会もそれを懸念して講堂で行う事になったのだ。

 俺たちが講堂へ行ったら、もう前の方の席は埋まっている状態で仕方なく真ん中あたりの空いている席に俺は泰介と並んで座った。歩美ちゃんは放送芸能同好会所属だから講堂の裏方の仕事をやっている。

 前夜祭の開始時刻になったら講堂はほぼ満員の状態になっていた。一部の先生方も来ていて、中には1階席を諦めて2階席に座った連中もいたし、2階席の端にはカメラやビデオをセットして新聞部や写真撮影同好会の連中がスタンバイしていた。


『『『『ウォーーー!!!』』』』

『『『『キャーーー!!!』』』』


 講堂中から割れんばかりの拍手と歓声が上がった。生徒会執行部のメンバー6人がステージに登場したからだ。当然だが生徒会長の相沢先輩、副会長兼風紀委員長の藤本先輩、副会長兼トキコー祭実行委員長の唯の三人はメイド服を着ての登場だから、みんなスマホを高く掲げて写真を撮り始めた。俺も例外ではなくスマホを掲げて写真を撮っている。


「「「ただいまより、第24回札幌時計台高校学園祭 前夜祭を始めます」」」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る