深層心理

第149話 静かな日々

 明けて月曜日の昼休みに行われた『ミス・トキコー』の抽選会が終わった後からは正式に選挙運動が開始された・・・が、正直言って、昨年とは比較にならない程選挙運動である。

 それもそのはずで、校内では「誰かが唯に圧力をかけて出場を辞退させ、口止めもさせている」という噂があたかも事実であるかのように広まってしまい、『相沢さんファンクラブ』『藤本さんファンクラブ』だけでなく、藍派までもが疑心暗鬼となってしまった事で昨年のような校内中を巻き込んだ選挙運動をやれなくなったのだ。中には「相沢先輩、藤本先輩、藍の三人の誰かが裏で糸を引いている真犯人だ」と捲し立てる連中も出てくる始末だったが、こちらはさすがに植村先生がビシッと指導した事で立ち消えとなった。

 植村先生が出てきたのはこの1回だけであり斎藤先生は活躍(?)する場面もないのだ。今回に限っては藤本先輩も風紀委員長の強権を発動する事態にならず、藤本先輩自身も風紀委員長という立場上、自分の選挙運動をおおっぴらにやる訳にもいかず、言うならば三人とも暇を持て余している(?)状況だ。

 でも・・・この三人が暇を持て余している方がいいに決まっている。それだけ静かだという証拠でもある。

 事前投票も火曜日から行われているが、どうやら事前投票をする人が結構いて、今年は既に誰に投票するのかを決めている人が多そうだ。

 唯は当然だが辞退した本当の理由を藍に話した訳でもないし、藍は唯の言い訳、つまり「唯はお姉さんの言う通り、ミス・トキコーから滑り落ちるのが怖くなって出場を取り止めた。ごめんなさい」という話を受け入れたが、それを口外した訳ではなさそうだ。ただ、もしかしたら藍は唯が嘘の上塗りをした事に気付いているかもしれないが、さすがに俺もそこまで藍に聞く勇気はない。相沢先輩と藤本先輩は唯を責める事はしなかった、というより、一番疑われているのが自分たちのファンクラブなのだから、唯を問い詰める訳にはいかないというのが俺にも分かる。山口先生を始めとした先生方も表向きは平静を保っているが、それは表向きであって、犯人捜しを今でもしているようだ。「トキコーの自由な校風を揺るがす不届き者は許さん」といった所かな。

 まあ、唯が本当の事を言わないのがそもそもの原因だが、もし本当の事を言ったら、恐らく今度はトキコー中がひっくり返るような大騒ぎになるのは確実なので、唯とすれば「言っても地獄、言わなくても地獄」というのが正しいかもしれない。俺にコッソリだが「正直、胃が痛い」とボヤいていた。


 でも、真犯人は俺なのだから、俺も肩身が狭い。できれば有耶無耶のままトキコー祭が終わってほしい・・・。


 因みに『ミス・トキコー』の抽選の結果、9番が相沢先輩、10番が藍、11番、つまり最後が藤本先輩になった。疑惑の当事者(?)三人が最後を締める事になり、まさに遺恨試合に相応しい(?)順番になってしまった事で、これがまた校内が静かになった原因の1つになっている。

 藍も宣戦布告したけど、まだ行動に移してない。義理とはいえ妹である唯が壊れる事は藍にとってもマイナスでしかないから今すぐ行動に移さないというのは俺にも分かる。まさに『嵐の前の静けさ』である。ただ、唯がこのまま行くようなら藍が行動に移すXデーは恐らく・・・その先に待っているのは修羅場だ。間違いなくトキコー中が大騒ぎする事態になる・・・。


 今週の俺はトキコー祭の準備作業で泰介と二人で結構遅くまで頑張って(時々歩美ちゃんも助っ人してくれている)いたので、学校を出る時にはいつも星が出てからだ。それは藍や唯も同じだ。ただ、いつも俺の方が遅いので二人だけで帰っていて、俺はいつも一人だ。ハード面については準備が終わったに等しいのだが、俺と泰介だけがやり方を知っている状態では困るので、準備マニュアル、操作マニュアルなどのマニュアル作りと各担当の台本作りに精を出している。

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