第143話 ゲームをやろう
唯はギブスが外れて上機嫌だったが、診察が終わった後はその足で新札幌のタンチョウドラッグに行って体温計と記録表を買った。本当ならここで買うのは妊娠検査薬の筈だったのだが、さすがに俺も唯も手を伸ばさなかった。
ただ、唯がどの場所にあるのかをちゃんと見つけ出し、俺の耳元で「これを買う事にならなくて良かったね」と言ったから俺は赤面していた。
唯はタンチョウドラッグで買った体温計と記録表を背中の小さいリュックに入れると、そのまま新札幌駅の駅ビルのテナントの『陽月』で和菓子を買った。しかも『粒あん』を使った和菓子ばかりだ。本来、藍は「粒あん」で唯は「こしあん」だから明らかに藍への詫びの品物だというのがアリアリと分かる。もちろん、父さんや母さんの分も唯は買った。
俺たちは父さんが迎えに来たので車に乗って帰ったが、唯は行く時とは違って饒舌で父さんとにこやかに話し続けていた。家に入る時も「たっだいまー!」と普段よりも威勢のいい声を出して母さんがびっくりしたくらいだ。
唯は家に入るなり「色々とご迷惑をお掛けいたしました」と言ってから先ほど買った和菓子の半分をテーブルの上に置いた。ただ、既に昼食の支度が終わっていたので午後のオヤツとして食べる事になった。
食事中の唯は藍と途切れる事なく話をしていて、昨日の唯とは別人のような印象だった。ただ、唯は食事が終わった後、藍の部屋に残った和菓子を持って入っていった。別に藍の罵声が聞こえる訳ではなく、二人の笑い声が2階に響いていたから、うまく仲直りできたみたいだ。
俺は緊張感が切れて正直フラフラになっていたから、昨日の寝不足分を取り戻すべく夕方まで爆睡していて、夕食の直前になってようやく目覚めた。1階に下りて行ったら直ぐに夕飯になったので、俺の感覚では昼食の後にすぐ夕食を食べたようだった。俺だけが和菓子を食べてなかったから、それは夕食を食べ終わった後に一人で食べた。
俺は夕食を食べ終わった後はいつも通りにシャワーをして、その後は残りの『金田一君の事件簿』を読み始めた。
“トントン”
誰かが俺の部屋のドアをノックした。一体、誰だ?
「はあい、誰ですかあ?」
「唯だけど、入ってもいいかな」
「いいよー」
そう言うと唯はドアを開けて入ってきた。いや、正確には藍も入ってきて唯はボードゲームを持っていた。二人共にパジャマ姿でシャンプーのいいにおいがする。
「たっくーん、久しぶりに三人でゲームをやろうよ」
「そうよー。折角だから拓真君も一緒にやりましょうよ」
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