第142話 最近は小悪魔みたいに・・・
「へ?」
「だーかーら、『アレ』が来たのよ。さっきお義父さんの車に乗る前にもう1回確認したけど、間違いなく『アレ』が来たのよ」
「という事は・・・」
「・・・唯は『ミス・トキコー』に出る資格を失ってなかった。多分だけど、たっくんと初めてやった後から内心はずうっと『妊娠したらどうしよう』って思ってたから、これがストレスになっていたと思う。でも、結果的にお姉さんを騙した形になっちゃった・・・」
「・・・・・」
俺は正直ホッとしたのも事実だ。俺はまだ自分が父親になる覚悟が無かった。だから逆に頭を抱えて倒れたくなるくらいの疲労感を覚えたのも事実だ。
だが、この事を藍に正直に話したらどうなる?多分、藍の事だから俺と唯が一線を越えた事を怒る事はないと思うけど、エントリーを辞退した理由を聞いたら間違いなく激怒するはずだ。下手をしたらその場で修羅場に突入するかもしれない。そう考えると俺も頭が痛い。
「・・・唯、藍にはどう説明するつもりだ?今朝、藍は唯が嘘をついている事を見抜いて俺に話しかけて来たぞ」
「・・・やっぱりお姉さんは気付いてたのね。まあ、昨日からの出来事からすれば当然よね」
「どうするつもりだ?正直に全部話すか?」
「・・・それは言えないでしょうね。嘘の上塗りになるけど『唯はミス・トキコーから滑り落ちるのが怖くなった』って言うしかないと思う」
「そんな事で藍が納得するのか?」
「分からない。でも、頂点の座に上り詰めたら、後は維持するか落ちるだけだよ。いきなり頂点になったから落ちるのが怖くなった、みんなから軽蔑されるのが怖くなったという考えを唯自身が持っていたのも事実だよ。だから、お姉さんにはひたすら低姿勢で謝るしかないと思うんだ。たっくんだって、唯とやっちゃった事をお姉さんに話したいと思う?」
「そ、それは・・・分かった。でも、俺は藍を説得する自信はないから唯が必ず今日中に藍に話すと約束してくれ」
「分かった」
「それと、藍の目の前であまり俺とイチャイチャするのはやめた方がいいぞ」
「えー、どうしてー?」
「藍の奴、相当ストレス溜まってるみたいだぞ。『私の目の前でイチャイチャするな!』って今朝も言ってたから、下手をすると家の中で女王様以上の事をやりかねないぞ」
「たしかにそれもそうね。ちょっと唯も無頓着すぎたから、お姉さんの前では礼儀正しい妹として振る舞います。それに骨折した事でお姉さんにも色々と迷惑を掛けたのは事実だし、これからは気を付けるね」
「頼んだぞ」
「あ、そうそう、唯もお姉さんみたいにこれからは毎朝基礎体温を記録する事に決めたよ。だから後でタンチョウドラッグでお姉さんみたいな記録表と体温計を買うよ」
「まあ、そこは俺は分からないから唯に任せるよ」
「ホントにそう思ってるの?たっくーん、今週になってからベッドの脇に未開封だけど『アレ』を買って隠したわよね。唯は知ってるからね」
「おい!お前、それをどうして知ってる!!」
「ひ・み・つ」
「はああ・・・唯、最近は小悪魔みたいになってきたぞ」
「そうかもね。たっくんが気付いてなかっただけじゃあないの?」
「勘弁してくれよお」
「あら?顔に書いてあるわよ。安全日が分かれば『アレ』を使わないで済むってね」
「・・・全部お見通しですね。はいはい、認めます」
「じゃあ、そろそろ戻りましょうか?さすがに受け付け順からみて呼ばれてないと思うけど、呼ばれた時にいないと看護師さんに迷惑を掛けちゃうからね」
「そうだな。そろそろ戻ろう」
そう言うと唯は病院の正面玄関に向けて歩き始めた。
俺は唯の隣を歩いたが、正直、肩の荷が下りたようでホッとしていたのも事実だ。
だが・・・唯はまだ気付いてないが、俺は唯の隣を歩くときの距離感を思い出せない。だから、この距離は藍と歩く時の距離だ・・・この事に唯が気付いたら非常にヤバイ事になる。
それと・・・俺は勘違いしていた事に気付いたが、以前は藍が小悪魔のようなイメージだったが、本当は唯の方が小悪魔だったのか・・・たしかに以前、唯から受け取った(?)下着の隠し場所をいとも容易く見つけ出し、しかもそれを取り戻してた。今カノの立場を利用して俺と既成事実を作ったのも、考えようによっては唯の小悪魔的行動と大胆な誘い方だ。今回もしたたかに振舞っている。小心者なのは変わらないが、本当は小悪魔唯だったんだ。
逆に藍はあきらかに嫉妬が目立っている。俺と唯がイチャイチャするのを見て相当ストレスが溜まっている事は今朝の藍の発言からも分かるし、あの『両手に花』の時もそうだった。だから俺と二人きりで周りの目がない時には大胆な行動をするのか・・・今でも自分の事を『真の彼女』と言い張るのも、嫉妬からなのかもしれない。
だとすると・・・二人共、以前は自分の本性を俺に見せてなかったのか?今の藍と唯が二人の本性なのか?それとも、二人共小悪魔であり同時に嫉妬するタイプなのか?
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