第135話 何かおかしい・・・

 俺は結局今日もトキコー祭の準備作業を最後まで手伝っていったが、いつもと違ったのは、帰り道で藍と一緒に歩いた事だ。

 藍としては「やり過ぎた」と思っていたようで、詫びのきっかけを掴もうとして盛んに唯に話し掛けているのだが、話が続かないのだ。いや、続かないというより話が全然かみ合わない。それに唯自身が何となくだが一人で歩きたいような素振りを見せたので、仕方なく俺が藍を呼びよせる形で唯の前を歩いた。

 俺たち三人が一緒に帰る事は今まで何度もあったが、藍と唯が並んで歩き俺が一人、もしくは俺と唯が並んで歩いて藍が一人というパターンばかりなので、今日はイレギュラーもいいところだ。

 ホントに唯はこれでいいのか?と疑いたくなるくらいだが、俺と藍が並んで歩いていても全然嫉妬する気配がないのだ。いや、嫉妬するどころか、何を考えて歩いているのか分からないくらいに無関心なのだ。

 もちろん、俺と藍も唯が気がかりなのでほとんど無口に等しかった。


 そのまま俺たちは帰宅し、夕食の時の唯は普段より大人しかったが、その時は別に違和感は感じなかった。まあ、適当に相槌を打つ程度しかしてなかったし、それに今日の夕食は唯の苦手な『茄子なす天婦羅てんぷら』と『鹿尾菜ひじきの煮物』が揃っていたから、以前の時のように喋りたくない気分になるのも仕方ないのかなあと思っていたから、別に違和感は感じなかった。

 俺は普段通り夕食後にシャワーだけして、ベッドの上に寝転がって自分の部屋で泰介から借りていた『金田一君の事件簿』の残りの小説を読み始めた。残りも2冊だから、明日か明後日には返せるはずだ・・・と思っていた所へ


“トントン”


 誰かが俺の部屋のドアをノックした。

「はーい、誰ですかあ?」

「・・・唯だけど、入ってもいいかなあ」

「いいぞー」

 そう俺が言ったら、唯がドアを開けて入ってきた。でも、ドアを閉める訳でもなく、俺を真っすぐに見ている。唯がパジャマに着替えているという事は既に風呂に・・・いや、どう考えても早すぎる。今日はシャワーだけで済ませたようだし、シャンプーも間違いなくしてない。

 だから俺は一瞬「あれ?」と思ったけど、別に問い詰める気はなかった。

 ただ・・・妙に唯の表情が暗い。何かおかしい・・・普段なら笑顔を絶やさないはずの唯だが・・・さっきまでは無理矢理笑顔を作ってでも普段の自分を演じてるように感じたが、今は演じる事すらしてない。表情が暗すぎる・・・おかしい。

「・・・唯、どうしたんだ?」

「・・・・・」

 俺は唯に話し掛けたけど、唯は返事をしなかった。いや、それより唯は泣きそうな顔になっている。

 絶対におかしい、何か理由があるはずだ。でも、思い当たるものが見当たらない。唯が話してくれないと分かりそうもない。

「・・・唯、どうしてそんな顔をしてるんだ?」

「・・・・・」

 唯はようやくドアを閉めて部屋の中に入ってきたけど、俺の机の所にある椅子に腰かけて、俺を真っすぐに見ていた。

 やがて、唯が何か覚悟を決めたかのような顔になって、俺に話し始めた。

「・・・たっくん、今から唯は本当の事を言う。けど、その前にたっくんにお願いしたい事があるんだけど、言ってもいい?」

「お願いしたい事?」

「たっくん、お願い、唯を守って!お願い!!」

「・・・言いたい意味がよく分からないけど・・・俺は唯を守るって約束する。だから安心して話してくれないか?」

「・・・分かった」

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