第126話 M体質の人

 ただ、さすがに暴露大会はここで終わって、ここからは和やかな雰囲気で実習中に起きた出来事や他の話題に変わり、みんな笑顔で話し続けていた。

「・・・高崎先生、今回の実習の手ごたえはどうでしたか?」

 藍が結構真面目な顔をして高崎さんに聞いていたが、高崎さんは笑顔で

「あー、本当に佐藤きょうだいには表でも裏でも助けていただき、ホントに感謝してます。今回は結構良かったと自分では思ってますよー」

「それは良かったですね。山口先生、実際のところ、どうなんですか?」

「うーん、正直に言うが、授業の進め方とかは全然問題ない。というか、文句のつけようが無かったからなあ。ただ、ホームルームで連絡を忘れたり、時々天然の入ったところを見せたところは本来はマイナス点なのだが、逆にお前たちの評判を高める要因になってしまったから、先生としては目を瞑るしかなくなったというのが本音だぞ」

 そう言うと山口先生はニコっとして高崎さんの方を見た。

 高崎さんは恐縮したような顔になって

「いやあ、久仁子さんからは結構厳しく言われるとばかり思ってましたけど、この三週間、A組のみんなだけでなく、全校生徒や先生方にも結構お褒めの言葉を頂き、特に教頭先生は手放しで喜んでましたから、逆に困惑していますよー」

「そりゃあそうだろ?去年の秋とは見違えるくらいの出来栄えだからな。まるで別人のようだって他の先生方も褒めてたぞ」

 たしかに実習中の高崎さんの評判は非常に良かった。だから2年生だけでなくほぼ全校生徒が高崎さんを同姓同名のBKA48の人気者以上のアイドルとして半ば神聖視していたし、男子を中心に一部は女子もいたが毎日のように色紙とサインペンを持って職員室へ行く輩が後を絶たなかったのも事実だ。それに、一部の先生からもアイドル並みの扱いを受けていた。

「あのー、別人といえば、OGだった事はどうなったんですか?」

 藍が山口先生に質問したけど、それは俺も気になっていた。

「あー、その件だが、あのライブが決定打になって、榎本先生も平川先生も『OG高崎みなみ』と『実習生高崎みなみ』は別人だって結論付けちゃったからなあ。まあ、経歴を見たら同一人物だっていうのが分かるけど、そこまで学校事務に問い合わせる教師はいないからなあ」

「「「決定打?」」」

「そう、決定打だ」

「あのー・・・どういう意味なんですか?私たちにも分かるように説明してももらえませんか?」

「みなみは在学中、あんなパフォーマンスを自分で披露するような事は一切しない子だったのさ。正義感溢れる優等生ではあったが、決して目立つような事はしなくて、むしろ陰から支えてやる側に立ってる子だったから、自分からライブに出演して、しかもボーカルをするなんて当時のみなみでは絶対にあり得ない。だから榎本先生も平川先生も別人だと思い込んでしまってるのさ」

「へえ、意外ですねー」

「そういう事だ。まあ、来年以降、もし本当に教師になったとしても、うちの学校に来る保証はないからなあ」

「それもそうですね」

 そう言うと山口先生は高崎さんの方を見て笑った。高崎さんも山口先生の方を見てニコッと微笑んだ。

「・・・そういえば、山口先生・・・あの件、OKですよ」

「あー、唯もいいですよー」

「そうかあ、助かるよー。じゃあ、明日の職員会議で報告しておくぞ」

 藍が突然山口先生に話を振ったので俺には何の事が意味が分からなかったが、唯もニコニコしている。

「あのー・・・『あの件』って、何の事?俺には全然分からないんだけど・・・」

 俺は藍の方を向いて聞いたけど、藍に代わって山口先生が答えてくれた。

「あー、その件だが・・・拓真、トキコー祭が終わると次期生徒会執行部の会長選挙があるのは知ってるよな?」

「あー、はい、知ってますよ」

「その事なんだが、今のところ、会長選に自分から名乗り出ている奴がいなくて職員会議の方で人選を進めていたのだが、3年A組のクラス委員である西郷さいごう継道つぐみちを出す事で本人に話をして、本人には了承を得たんだ」

「あー、あの西郷先輩ですか・・・たしかに実績と人望は文句なしですね。運動部の総番とも言われてる剣道部の土方ひじかた先輩とは阿吽の呼吸で分かりあうくらいの人ですから運動部にも睨みが利きますからねえ」

「ただ、残りのメンバーを誰にするか西郷と生徒会顧問の黒田先生の間で話をして、副会長兼風紀委員長は引き続き藤本真姫に、副会長を佐藤藍にする事になって、二人には一昨日の実行委員会が終わった後に黒田先生の方から話をしたんだ。藤本の方はその日の夕方までに返事をしたらしく、引き続き風紀委員長をやってくれる事になった」

 おいおい、『風紀委員会最強の女王様コンビ』とか言われてる二人が揃って副会長をやったら、西郷先輩の影は薄いどころか全然目立たないぞ。ほとんど二人の女王様が生徒会を仕切るのは目に見えてるじゃあないか!?

 あれ?でも・・・たしか三役はクラスの役員を兼務できないから、3年A組のクラス委員と2年A組の風紀委員が別の人に代わる事になるが・・・一体、誰?

「・・・当然、2年A組の風紀委員を佐藤藍が続ける事は出来ないので、風紀委員は佐藤唯にやってもらおうと思って既に藍に話をしてあり、藍の方から唯に話をする事になってるから、藍が副会長を了承したという事は唯も風紀委員をやるというのを了承したという事だ。ただ、唯が生徒会書記をやるという事は、見方を変えれば『降格人事』になるのでそれはない。ただ、あくまで西郷が会長として信任されたらの話だから、まだ口外しないでくれよ。3年A組のクラス委員を誰がやるかは松岡先生の権限だから先生は知らないけど、元々西郷は相沢美咲が生徒会長になったのでクラス委員を引き受けたのだから、多分相沢がクラス委員に戻るんじゃあないかなあ」

 おい、ちょっと待て・・・唯が風紀委員になるという事は、少なくとも2週間に一度は唯は朝の正門に立つ・・・藍にとっては願ったり叶ったりの展開になるじゃあないですかあ!

 まあ、唯も考えようによっては今までよりも早く帰れるから俺と一緒に帰る事も今まで以上に可能になるが、さっきの高崎さんの話を聞いた後だから逆に一緒に帰りにくくなったんじゃあないかなあ・・・。

「あー、ついでにお前たち3人に言っておくが、今の生徒会執行部は女子4人だったが、次の執行部の女子は藤本と藍の二人だけになる予定だ。ただなあ・・・」

 そう言うと山口先生は「はああーーーー」と長いため息をついた。一体、何があったんだ?

「・・・我が校の女王様が二人とも副会長になるという事で、残りの三人の人選が大変だったのさ」

「「「「?????」」」」」

 俺だけでなく、唯も藍も、それに高崎さんも首をかしげている。山口先生の言ってる意味がよく分からない・・・

「・・・仕事も出来て、なおかつM体質の奴を揃えないと、間違いなく西郷の奴が一人で仕事を抱え込む事になるからなあ。宇津井も本岡も結構頑張ってくれたが、あいつら以上のMの奴で仕事も出来るとなると、候補が限られてきて・・・」

 おいおい、宇津井先輩や本岡先輩以上にMの奴で、しかも仕事が出来る奴といえば、俺はあいつの名前がすぐに浮かんだぞ・・・まさかとは思うが・・・

「・・・これはまだ藍にも唯にも言ってなかったが、会計が3年C組の望月もちづき信也しんや、書記がうちのクラスの内山うちやますばると3年D組の奥村おくむら倫太郎りんたろうになる予定だ。藍だけが返事をもらってなかったので藍には言ってなかったが、副会長を了承してくれるのなら教えてもいいだろう」

 はあ?マジかよ!?内山は藍派の会長を自認しているクラスNo.1のMの奴だから予想通りだが、奥村先輩と言えば『藤本さんファンクラブ』の会長と呼ばれている人で、望月先輩は同じく副会長と呼ばれている人だから、どうみたってトキコーの女王様を崇拝している、典型的なM体質の人じゃあないか!

 でも、たしかにこの3人の統率力というか力量は凄まじいものがあり、クセの多いM体質の連中を束ねてるだけのカリスマ性も持ってる。望月先輩は普通科所属の中では毎回トップで学年全体でもトップ20の常連だし、内山も成績はトップ10の常連だ。奥村先輩は演劇部の、いや、文化部の総帥とまで言われるくらいの影響力を持っている人で土方先輩とも仲がいい。たしかにこの人選なら無難なのは間違いない・・・。

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