第124話 そんなアホみたいな賭けはやめて欲しい・・・

 突然、高崎さんが言った言葉に俺は思わず唯を見てしまった。唯もハッとした表情で俺を見ている。それに藍も顔色が変わっているが、さすがに俺の方を見ていなかった。一体、どんな噂話が出ているんだ?俺たち自身の知らない所でどんな事を言われているのか・・・もしかしたら、俺たちが義理とはいえ本当のきょうだいという事がバレているのかも・・・。

「おーい、みなみ、そんな話をどこで聞いたんだ?」

「この前、第二音楽室で軽音楽同好会の子たちとお喋りしていた時に言ってたんですよ。ただ、これを言ってもいいのかどうか・・・」

 俺は正直、この話を知りたいという気持ちがある一方で、知らない方が俺の利益になるのかもしれないという気持ちもあった。

 唯は明らかに顔色が悪い。ただ、この話を高崎さんが聞いたのは1週間前だから、俺と唯が一線を越える前日の事だ。その段階で既に何らかの噂話が校内にあったという事になるから、唯としても気が気でないはずだ。

 だが、藍は一瞬だけ顔色が変わったが、その後は澄ましている。場合によっては唯を蹴落とすチャンスでもあるからだ。

「あのー、その話、私としては興味あるから知りたいです。唯さんはどう思ってるの?」

「そ、そうねえ・・・唯としても自分がどう言われてるのか興味あるから知っていて損はないと思うよー。たっくんは?」

「お、俺かあ?まあ、藍と唯が聞きたいというなら別に構わんぞ」

「みなみー、先生も興味があるから、是非教えてくれー」

「じゃあ、本当に言っちゃいますよー」

「「「「・・・・・」」」」

 俺は本音では聞きたくない。でも、藍と唯が聞きたいというなら止められない。それに、もし事実と違う噂話なら安心できる。事実だったら困るけど、逆に対処方法が見付かるかもしれない。

 高崎さんは飲みかけのコーヒーを一気に飲み、丁度店員さんが歩いてきたのでコーヒーのお替りを頼んだ後、粛々と

「・・・あのー、簡単に言えば、賭けが行われているんですよー」

「「「「賭け?」」」」

「中野さんが言ってましたけど、2年A組の『仲良し五人組』の二人、小野君と杉村さんは付き合っているけど、残った三人、つまり佐藤きょうだいは1年生の時から仲が良すぎて逆に怪しいって。絶対に藍さんと唯さんは両方とも拓真君を狙ってるけど、拓真君が優柔不断だから決められない、もしくは超がつく程の鈍感だから気付いてないかのどっちかだって、かなりの人が思ってるそうよ」

「えー!俺たちって、そんなふうに見られてたのかよー」

「まあ、その根拠というのが、藍さんも唯さんも入学以来、何人もの人から告白されても全部断ってるそうね。だからそういう方向に結論を持って行くのは自然だと思いますよー」

「まあ、たしかに高崎先生の仰るとおりですね。私としてはそんなつもりは無かったんですけど」

「唯もですよー」

「みなみー、それって、拓真が藍と唯のどっちを選ぶのかという賭けだよなあ」

 おーい、山口先生、あきらかにニヤついてますよー。そんなに俺の二股交際(?)が面白いですかあ!?

 高崎さんもニコニコしている。高崎さんは俺と藍が義理とはいえ姉弟の関係だという事を知っているし、山口先生が高崎さんに対し俺と唯の関係が義理とはいえ兄妹の関係という説明もしてるはずだ。それでも高崎さんがこの話を堂々と言うという事は・・・間違いなく俺と藍、唯のもう1つの関係を知っている!!山口先生、そっちは話さなくても良かったのになあ・・・とほほ。

「そうですよー。だから藍派の男子、つまり藍さんを狙ってる男子は唯さんを、唯派の男子、つまり唯さんを狙ってる男子は藍さんを応援していて、お互いに狙ってない方とくっつけば残された方、つまり自分たちが狙ってる方は間違いなく落ち込んでるから、これから落とそうと思ってる子だけでなく、既にゴメンナサイされた子も、もう1回チャンスが巡ってくると思って静観しているみたいなのね」

「「「マジですかあ」」」

 そうか、だから最近は2年生の男子が誰も藍や唯に告白しなくなったのか・・・まあ、歩美ちゃん情報だと1年生と3年生は時々ゴメンナサイされているようだけどね。

「女の子にとっても感心が高いですよー。拓真君が藍さんを選べば藍派男子が、唯さんを選べば唯派男子が落ち込むから、自分たちが狙っている男子を簡単に落とせる訳でしょ?だから、藍派の男子を狙っている子は藍さんを、唯派の男子を狙っている子は唯さんを、それぞれ影で応援しているのね」

「なるほどー、女子連中も拓真の決断に興味津々という訳かあ・・・これは先生もうっかりしてたなあ」

 おーい、山口先生、そんな呑気な事を言っててもいいんですかあ?俺としては、そんなアホみたいな賭けはやめて欲しいと本気で思ってるんだけど・・・。

 ここで店員さんがコーヒーのボトルを持って俺たちの所に来たので、高崎さんだけでなく俺を含めた4人もコーヒーをお替りした。

 そのコーヒーを飲みながら高崎さんは再び話し始めた。

「・・・しかも、いわゆる藍派の人は拓真君が唯さんとくっついたら購買のペットボトルを『おーい、お茶だ』に、唯派の人は拓真君が藍さんとくっついたら『伊左衛門』にするっていう取り決めになってるみたいですよー。しかも男女問わずでーす。だから、もし付き合ってる事が確認されたら購買の売り上げ戦争に終止符が打たれるから、学校事務の人も興味津々みたいですよー」

「「「えーっ!」」」

 おいおい、学校事務の人まで俺たちの事に感心を持っていたのかよお!?そこまで俺たちが有名人になっていたとは思ってなかったぞ。しかも男女問わずという事は・・・2年生全体が『おーい、お茶だ』か『伊左衛門』に統一されるっていう事じゃあないかあ!?

 おい、ちょっと待て・・・ペットボトルの方に終止符が打たれるなら、もしかして・・・

「あのー・・・まさかとは思うけど、パンの方も・・・」

「そうですよー。アンパン戦争も終止符が打たれるみたいですよー」

 やっぱりー、勘弁してくれよー・・・藍は粒あん派、唯はこしあん派だから、去年の体育祭の時に、1年生の名物種目『障害物競走』のパン喰いのパンを『粒あんぱん』にするのか『こしあんぱん』にするのかというで体育祭実行委員会が真っ二つに割れる大騒動になって・・・あの騒動の延長戦も終わるって事じゃあないかあ!?

「あー、でもー、それは1年生の時の話で、2年生になってからはちょっと複雑になってるみたいですよー」

「「「複雑に?」」」

「みなみー、どういう事だ?」

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