第113話 崩壊の引き金
俺は唯が部屋に入ってきた時、まだ自分が何をすべきかを理解していた。
『きょうだいの崩壊を招くことをしてはいけない』という事が分かっていた。
俺は必死になって唯を説得した。
だが、唯が自分でバスタオルを取って一糸まとわぬ姿になった時、俺の中で何かが折れた。そして俺は自分を見失った・・・。
次に気付いた時、唯は涙を流していた。泣いていたのではない、苦痛に歪んだ顔をしていたからだ。その時、俺は自分が何をしているのか気付いた。俺も唯と同じ姿になって、ベッドの上で唯と一つになっていた。
ただ、唯は「たっくん・・・そのまま続けて」とだけ言って微笑んだ。
そこから先は、俺は再び何も覚えていない・・・。
次に気付いた時には俺は唯の中で果て、荒い息をしていた。
唯は俺の顔をじっと見つめていた。怒っている訳ではない。でも、笑っている訳でもない・・・何か不思議な事が起きたかのような顔をしたまま俺をずっと見つめていた。
「・・・たっくん、ありがとう」
それだけ言うと、唯は再びニコッと微笑んだ。
俺は唯の上から離れ、隣に横になった。
その時に俺は見てしまった・・・唯の純潔を奪った証拠を見てしまった・・・もう後ろには引けなくなった・・・これで良かったのだろうか・・・俺の中で答えが見付からないまま、俺はずっと天井を眺めていた。
「・・・たっくん、これからも唯を守ってね」
そう言うと、唯はゆっくりと起き上がって、俺を見つめた。
「・・・分かった」
俺はこの時に決めた。どういう形であれ唯を守っていく事を。その形はまだ見えてこないけど、答えは一つだけではない筈だ。
「・・・たっくん、唯はたっくんに抱かれて幸せだったよ。失った物よりも得た物の方が大きいよ」
それだけ言うと唯は俺の方を見て、少しだけ涙を見せた。でも悲しい顔をしていた訳ではなかった。物凄く嬉しそうな顔をしていた。
その後、俺と唯はこの出来事をどうすべきか話し合った。
唯も、父さんや母さんだけでなく藍にも話せないという事だけは分かっていたから「絶対に話さない事にしよう」と決め、また、この後も急に雰囲気や態度を変える事なく過ごし、怪しまれないよう気を付ける事にした。
俺は軽くシャワーした後にわざと出掛けて札幌駅前の伊勢国書店に行った。
唯は示し合わせた通りシーツの上に敷いてあった証拠のバスタオルを他の服と共に洗濯し、そのまま乾燥機に入れた。夕方までには乾くから証拠は消せる。ただ、後で聞いたが洗濯前にもう1回シャワーしたらしい。
唯は家にいて「一人でシャワーして、洗濯も掃除も一人でした」という事で押し通し、自分の部屋の掃除器掛けもご丁寧にやった。表向きは「しばらく部屋を使ってなかったから綺麗にしてから使いたかった」という理由だ。俺は普段の土曜日に家に帰る時間まで立ち読みをして、日が暮れる頃になってから家に戻った。俺が帰ってきた時には父さんと母さんは帰ってきていたが藍は帰ってきてなかった。藍が帰ってきたのは俺が帰ってから1時間以上も後の事だったので、どう考えても俺の姿を藍に目撃されたとは思えない。それに、唯も特に普段と変わったような仕草をしていないし、俺もいつも通りに振舞っていたから誰も怪しまなかったはずだ。
夕食後の行動も普段と変わらなかった。だから、誰も昼間に何があったのかに気付かなかったはずだ。
翌日の日曜日も俺は普段の時と変わらず朝食を食べてしばらくしてから泰介の家に押しかけて行ったが、俺が一人で出掛ける事を呼び止める人はいなかった。当然だが泰介にも昨日の事を話さなかったし、お昼ご飯の少し前に泰介の家にやってきた歩美ちゃんにも話さなかった。
俺が夕方に家に帰ってきた時も、普段と変わらない様子だった。一番怖かったのは藍の直感だが、今回ばかりは藍も何も感じてないようだ。
俺はきょうだい崩壊の引き金を引いたのか?
いや、引いたのは俺ではない・・・あれは唯が勝手に引いたんだ、俺は悪くない・・・でも、俺は唯が守ってきた物を奪った。だから、きっかけはどうであれ俺が引いた事に変わりないのか・・・。
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