時間は戻らない
第114話 後悔先に立たず・・・
明けて月曜日。
今日は朝から気温が上がる予報だ。最高気温も29℃となっていて、もしかしたら今年初めて真夏日になるかもしれないと言っていた。
今日は久しぶりに唯が歩いて登校する・・・そして、俺が唯と一線を越えてから初めての登校だ。
今朝までの感じでは、誰も俺と唯の事に気付いているように思えない。
だが、俺は逆に意識しすぎて唯をまともに見る事が出来ない。唯を直視するとあの時に見た唯の姿を思い出してしまうからだ。でも、だからといって唯を避けようとすると勘の鋭い藍に見破られる恐れがある。細心の注意を払いつつ、それでも鼻の下を伸ばさずにいる事がこれほど難しいとは正直思ってなかった。
「「「行ってきまーす」」」
俺たちはいつも通りの時間に家を出たが、今日の俺は藍と唯の前を歩いている。まあ、以前にもこうやって歩いた事が何度かあるので怪しまれる事はないと思うが、唯の後ろを歩くと絶対に変な妄想をしてしまって顔に出てしまうと思ったからだ。ただ、唯はまだ右手の骨折が治ってないので鞄を持つと定期券などを取り出す時に不便なので俺が持っている。
藍と唯の間に溝が出来たとは感じてない。俺から言わせれば下らない世間話をしているのが聞こえる。ただ、藍が演技しているかもしれないと疑うのは俺だけか?
ただ・・・唯の表情が昨日から変わったような気がする・・・気のせいかもしれないが、生き生きしているように感じる。俺とは逆に唯は「俺が自分を支えてくれる」と安心してくれて精神的に落ち着いたのかもしれない。でも、これはあくまで俺個人が勝手に感じている事であり、本当は何も変わってないのかもしれない。俺に後ろめたい気持ちがあるから勝手に自己解釈して俺自身を落ち着かせようとしているだけかもしれない。
それに・・・2年生の人気を二分する一方と関係を持ってしまった以上、もう一方との距離感をどう取ればいいのか、こっちも問題だ。
藍は俺の事をどう思っているのだろうか?俺と唯がどういう関係になったとしても藍は俺が自分の所へ戻ってくると決めつけている。いや、戻ってくると信じている事が自身の心の支えだから、俺と唯が一線を越えたとしても何も言わないかもしれないが、もし知ったら内心は面白くないはずだ。
正直、俺はマジで金曜日の夜に戻りたい。あの時、素直に寝れば良かった、本に手を伸ばすべきではなかった、いや、読んだとしても零時くらいに一度トイレに行った際に終わりにすれば良かったんだ、そうすれば昼寝をしなくても済んだ、唯が帰ってきた事に気付いた筈・・・もう何十回も同じ事を繰り返し考え、その度に後悔している。ただ、何度後悔しても時間の流れに逆らう事は不可能だ。起こってしまった事を黙って受け止める以外に方法はない。
そのままいつも通りの時間の東西線に乗り込み、いつも通り二人の前に立った。そして、いつも通り舞が次の駅で乗り込んできた。
ここからが試練だ。
何も喋らないと怪しまれるが今日は久しぶりに佐藤三姉妹が揃った事もあって誰も俺に構わない、いや、俺を無視して女子トークを繰り広げているから俺が入り込む隙がないので、ある意味俺はホッとしたが、それでも時々話を振られるから意識してないと危ない。だから、精神的に休まる暇がないのだ。
そして、いつも通り3つ先の駅で内山、中村、堀江さんが乗り込んできたが、唯派会長を自認している中村は朝からご機嫌だ。だから今朝は俺を除いた六人で盛り上がっていて、俺は一人蚊帳の外にいる状態だ。いや、今日はこれでいい。唯との距離感をどうやって取ればいいのかを測りかねているのだから、無理していつもの自分を演じる必要もない。そのまま南北線に乗り込み、いつも通りの地下鉄を降りて地上に出たが、みんな異常な程にテンションが高い。久しぶりに佐藤三姉妹そろい踏みの姿を見られたというだけで御満悦なのだろう。
そのまま2年A組に入り、朝のショートホームルームになるのだが、今日もいつも通り山口先生と高崎先生が並んで教室に入ってきた。
「おっはよーございまーす」
と高崎先生が元気に挨拶して教室の賑やかさはピークに達した。
ただ、この賑やかさも今週で終わりだ。高崎先生の実習が終わるからだ。正直、今の学校生活で俺の唯一の清涼剤ともいうべき存在の高崎先生がいなくなるのは悲しい。恐らく高崎先生がいる間は気持ちを落ち着かせる存在があるから自分を見失わないで済むかもしれないが、いなくなった後はどうなるんだ?そう考えると俺は落ち着かない。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか無情にも朝のショートホームルームが終わり、松岡先生の別の意味での賑やかな数学の時間となった。
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